『フロント・ランナー』

 1988年の大統領選で民主党の有力候補でありながらスキャンダルで失速したゲイリー・ハートを描いた映画で、ハートをヒュー・ジャックマンが演じています。

 ハートは若く、見た目も良くて、レーガンに連敗していた民主党にとっても救世主的な候補でしたが、本格的な大統領選が始まる前に女性スキャンダルが出て、あっという間にマスコミの餌食となってしまい、撤退に追い込まれます。映画はこの顛末を描いています。

 

 若い女性との不倫は事実なので、今の「Me Too」の世の中では、ハートを悲劇のヒーローとしては描けません。

 また、ハートは間違いなく優秀なのですが、どこかナメたところもある人間で、「自分が若い女性とのちょっとした浮気などで躓くのは間違っている」というようなスタンスです。この優秀さと尊大さが入り混じったハートという人物をヒュー・ジャックマンが好演しています。

 ただ、脚本的には最初にもうちょっとハートの魅力や、88年大統領選の様子を説明しておかないと、ハートのスキャンダルのインパクトというのはわかりにくいかもしれません。ゲイリー・ハートを知っているのって自分くらいの世代でギリギリだと思うので、若い人にはやや映画の文脈がわかりにくような気がします。

 

 映画の中で、選挙参謀がハートに対して「今は1972年じゃないんだ」というセリフを言うシーンがあります。80年代後半には、以前は許された政治家の女性スキャンダルが許されなくなり、それが致命傷になりかねないものとなったのです。

 これが良いことなのか悪いことなのかは意見の分かれるところでしょうが、この映画はそうした時代の転換点を描いています。

 

 ただし、女性スキャンダルにまみれながら当選してしまったトランプ大統領のことを思うと、時代は再び変わろうとしているのかもしれません。

 ハートの場合は、そのさわやかなイメージを守ることが出来ずに失速するわけですが、そもそもそんなイメージを持たずに開き直るというやり方が見出されてしまったのかもしれません。

 スキャンダルで潰された候補と、スキャンダルを気にしない候補。やはりどちらも問題があるといえるのかもしれません。