椎名林檎/三毒史

 椎名林檎の4年半ぶりのオリジナルアルバム。圧倒的に良いのは宮本浩次をフィーチャーした"獣ゆく細道"で、宮本浩次の歌手としての力量をいかんなく見せつけた1曲で、暴走していきそうでありながら、1つも音を外さないボーカルは本当に見事です。

 エレファントカシマシの曲にもいいのがありますが、宮本浩次の歌手としての潜在能力を引き出したという点で、椎名林檎の見事なプロデュースの腕が発揮された1曲と言えるでしょう。

 

 ただ、プロデューサーとしての椎名林檎の見事さは確認できても、今までにあった歌手としてのエモさのようなものはほぼなくなったといえるかもしれません。前作でも「ありあまる富」などには椎名林檎の歌手としてのエモさがあったと思うのですが、このアルバムを聴いても特にそういったことを感じることはありません。

 もちろん衰えたというわけではないのですが、かつてあった過剰さのようなものはなくなったのかもしれません。以前は、椎名林檎の歌というのは明らかに過剰さがあって、それに対抗するかのように亀田誠治が過剰な音作りをしていた部分があったと思うのですが、このくらい落ち着いてくると、今までのような過剰な音作りは必要ないかもしれません。

 このアルバムだと、"TOKYO"、"長く短い祭"くらいの音がちょうどよい気がします。

 

 もっとも、トータス松本を起用した"目抜き通り"なんかは派手な音が歌にマッチしているわけで、こうした派手な感じの曲をつくるのも上手いと思います。

 椎名林檎は、今後はプロデューサーとして派手な音作りを続けていくか、歌い手としてもうちょっとシンプルな音を作っていくのか、どっちの方向に進んでいくのかな? と思いました。

 


椎名林檎と宮本浩次-獣ゆく細道