『天気の子』

 なかなかいいんじゃないでしょうか。

 さすがにエンタメのとしての完成度は『君の名は。』に劣ると思いますが、新海誠作品で「世界か君」かどちらを選ぶとすれば、「君」の一択であってストーリーの大筋は見えるているんですけど、あのラストは力強い。まさにポスト東日本大震災の想像力だと思います。

 

 『君の名は。』と同じくボーイ・ミーツ・ガールもので、少年は少女を救おうとし、少女は世界を救う力を持っている、このあたりも同じです。

 ただし、都会、田舎の違いはあれど、そこそこ豊かな生活を送っていた瀧と三葉に比べると、今作の二人の帆高と陽菜は、事情はあれども貧しい。そんな貧しさの中でも、帆高と陽菜、さらに陽菜の弟の凪がジャンクフードを囲む食の風景は、本作では幸福の1つのシンボルとして描かれており、不況(雨)の中を生きる若者の幸福の肯定なのではないかと思います。

 こうした、食への注目とか疑似家族とかは『万引き家族』にも通じるテーマで、『君の名が。』にはなかった社会批評的な側面がある映画だと思います。

 

 そして、とにかく主人公の帆高がラストに向けて行動し続けるのも、今までの新海作品との違いかもしれません。

 新海作品は、それこそ『秒速5センチメートル』に見られるような「あり得たかもしれない過去への諦念」のようなものがあるんだけど、今作はそれをしまいこみつつ、最後まで駆け抜けます。

 ただし、それでもこの物語の背景には、より大きな日本人の自然への諦念みたいのがあって、その「諦念」を帆高が「覚悟」に読み替えていくラストが上手い。

 もし、この物語が代々木のビルとその屋上で終わっていたら、「まあまあかな」くらいの感想だったと思うのですが、最後に東日本大震災を経験していないとなかなか思いつかない設定を見せつつ、ラストへ至るのですが、このラストは『君の名は。』と同じようでいて、それよりも力強い。

 『君の名は。』に負けない力を持った映画になっているのではないでしょうか。