『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

 仕事が急遽休みになったので見てきました。

 タランティーノ監督の新作は、1969年に起きたロマン・ポランスキーの妻であり女優でもあったシャロン・テートがカルト集団チャールズ・マンソン・ファミリーに殺害された事件をモチーフにした作品。

 主人公のリック・ダルトンレオナルド・ディカプリオ)はやや落ち目の元テレビスター。活躍の場を映画に移そうとしたのですが、若い主役の引き立て役として悪役を演じることが増えています。また、イタリアでマカロニ・ウェスタンの主役をやらないかとも声をかけられていますが、リックはイタリアに行くことには抵抗しています。

 彼のスタントマンであり、身の回りの世話もしているのがクリフ・ブース(ブラッド・ピット)。リックが落ち目になるにつれ、彼のスタントマンとしての活躍の場も狭まってきています。

 そんなリックの家の隣に、当時注目されていたポランスキーとその妻のシャロン・テートが引っ越してきます。

 

 上映時間は160分あり、長いといえば長いです。前半はとにかく当時のハリウッドを忠実に再現することに費やされており、映画界の変化やヒッピーカルチャーの浸透などを丁寧に描いています。

 というわけで、やや退屈にもなりそうなのですが、そこはさすがのタランティーノでタイミングよく上手いシーンが挟まります。クリフはブルース・リーっぽい格闘家と対決するシーンや、リックが「ジョディ・フォスター??」と思ってしまう名子役と絡むシーン、売れ始めたシャロン・テートが映画館で自ら出演する映画を見るシーンなど、印象的なシーンは多いです。

 

 また、観客はシャロン・テート事件を頭に入れながら見ているので、前半の幸せそうな光景もやや落ち着くことができずに見ることになります(3.11が近づいてきたときの「あまちゃん」みたいな感じ)、その観客の意識の使い方も上手いですね。

 そしてラストは「こう来るのか!」という驚きもあります。ここもタランティーノならではの上手さだと思います。

 

 ただし、『イングロリアス・バスターズ』もそうでしたが、この作品も「暴力をふるってもいい悪」みたいなものがつくられていて、それによってポリティカル・コレクトネスを乗り越えるようなスタイルです。暴力は確かに取り扱い注意だけど、「みんなが認める悪」に対してであれば思う存分ふるっても誰も文句を言わないだろうというものです。

 さらにこの映画ではタランティーノ偽史的な想像力も絡んでおり、ここに描かれている歴史は改変されている歴史でもあります(もちろん、リックとクリフは架空の人物ですし)。

 うまくは言えないのですが、このやり方はけっこう危ういようにも思えます。今作も面白かったのですが、少し引っかかるものは残りました。