陳楸帆『荒潮』

 劉慈欣『三体』を筆頭に近年盛り上がりを見せている中華SFですが、この作品もその1つ。著者はチェン・チウファンと読みます(英名はスタンリー・チェン)。すでにケン・リュウ『折りたたみ北京』を読んだ人は、そこに「鼠年」、「麗江の魚」、「沙嘴の花」という三作品が収録されていたのでお馴染みでしょう。

 『折りたたみ北京』に収録された三作品は、比較的オーソドックスなアイディアを、うまく中国の社会問題と絡めながら、視覚的なイメージを換気するかたちで書かれていましたが、長編になってもその基本的な性格は変わりません。

 『三体』のような突き抜けたアイディアはありませんが、社会問題の組み込み方や、ストーリーの展開は上手いです。

 

 舞台は近未来の中国。南東部のシリコン島という場所には先進国からさまざまな

電子ゴミが持ち込まれており、そのゴミから資源になるものを取り出して暮らしているのが「ゴミ人」と呼ばれる貧しい人々です。環境は最悪であり、病気いなったり命を落とす者も少なくありませんが、仕事を求めて他の地域から貧民が集まってきています。

 そこにテラグリーン・リサイクリング社というアメリカの大企業のスコット・ブランドルという男が陳開宗という通訳を伴って現れたところから物語は始まります。

 島に君臨する羅家、陳家、林家という3つの一族と、羅家の配下のチンピラから追われている米米(ミーミー)。この米米と通訳の陳開宗は恋に落ちますが、同時に米米には不思議な能力が覚醒していきます。そして、その背後には「荒潮計画」と呼ばれる秘密が隠れていました(この「荒潮」は日本の駆逐艦「荒潮」からきている)。

 

 この「荒潮計画」のネーミングやアイディアなどからもわかるように、お話としては日本のSFアニメなどにもよく見られるようなもおであり、ハイテクとニューエイジの混淆のような話でもあります。最初にも書いたように『三体』のような多くの読者を驚かせるような展開はありません。

 ただし、驚くべきアイディアはなくても、中国の巨大な格差や、中国社会と欧米社会の対比などを上手く物語に組み込むことで、物語にリアリティをもたせ、読者を物語に引き込ませます。中国に存在する「古い伝統」と「ハイテク」という道具を非常に上手く使っていて、小説としては上手くできていると思います。

 

 

  

 

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