『竜とそばかすの姫』

 いろいろと脚本の穴もあって批判も多いのだろうけど、個人的にはこの映画のゴージャスさを買いたい。実写を含めて、ここ最近の日本映画の中だと一番ゴージャスな映画と言えるんじゃないでしょうか?

 

 まず、誰もが認めるであろうことは音楽と中村佳穂の歌の良さ。

 もちろんプロの歌手なので歌がうまいのは当然なのですが、声に特徴があって、なおかつスケール感がある。しかも、意外にアフレコも良く、この映画がうまくいっている最大の要因は中村佳穂の起用ということになるでしょう。

 また、その中村佳穂のスケール感を活かすための映像も良くできていて、仮想空間のUの中ですずの姿で歌うシーンはアニメにおける歌唱シーンの中でも屈指の出来ではないでしょうか。

 

 次に画面の美しさ。仮想世界U、そしてその中の竜の住む城、「新海誠には負けない!」という対抗意識をひしひしと感じさせる高知の田舎の風景の描写、どれも力が入っていて隙がないです。

 

 そして、この映画のゴージャスさを支えているのが、主人公すずがUの中で変身するベルという〈As〉(アバター)のキャラクターデザイン。『アナと雪の女王』『ベイマックス』などのキャラクターデザインを務めてきたジン・キムが担当したそうですが、今までの日本のアニメ映画にはなかなかない存在感を持っています。

 今までの細田監督作品のキャラもそうですし、新海誠の映画でもヒロインにそんなに派手さは求められていないと思うのですが、これだけ画面がゴージャスになれば、それなりに派手なヒロインが必要なわけで、それをジン・キムに求めたのは正解だったと思います。

 細田守が自分で描いたら、この派手さは出なかったでしょう。

 

 ストーリーとしては『サマーウォーズ』+『美女と野獣』に、さらに『時をかける少女』の高校生の恋愛要素を詰め込んでいており、かなり盛り沢山の内容なのですが、これをよくまとめています。

 『美女と野獣』を下敷きにしたシーンでもディズニー映画に負けない洗練さを見せていると思いますし、カミシンとルカちゃんの恋愛パートは笑えます。

 

 ただ、脚本上の不備はあります。

 誰しもが感じるのはラストの強引さで、竜の正体にたどり着くところまではよいとしても、実際に会いに行って会えてしまう展開はご都合主義だと思いますし、ママさんコーラス隊の面々も「人生における頼れる先輩のようでいて、冷静に考えると無責任な人の集団じゃない?」みたいな感じですよね。

 あと、幼馴染のしのぶとの関係の描き方が丁寧さに欠ける感じで、彼の行動がかなり唐突に見えてしまう。

 

 というわけで欠点もある映画だとは思いますが、ご都合主義であってもハリウッドの大作映画が楽しめるように、この映画もいくつかの穴を、見事な映像と音楽で埋めることができています。

 前作の『未来のミライ』は見る人を選ぶ映画でしたが(子育て経験者のみが楽しめた映画のような気がする)、今回は多くの人に満足感を与える大作映画になっているのではないでしょうか。