ジェスミン・ウォード『骨を引き上げろ』

 アメリカの黒人女性作家による2011年の全米図書賞受賞作。ミシシッピ州の架空の街ボア・ソバージュを舞台にハリケーンカトリーナに襲われた黒人の一家を描いた作品。

 南部の架空の街を舞台にした家族の物語となると、当然、思い起こすのがフォークナーで、作家自身も『死の床に横たわりて』の影響を非常に強く受けていることを本書の収録されているインタビューの中でも述べています。

 

 というわけで、フォークナー好きとしてはそれを期待して読み始めましたが、個人的にはフォークナーっぽい感じはしませんでした。

 フォークナーは比較的単純な筋立てであっても非常に複雑な構成をとったり、複雑な文章で書きましたが、この『骨を引き上げろ』にはそういった複雑さはありません。

 主人公の15歳の少女エシュを語り手として、彼女の周りにいる家族、父、長兄のランドール、次兄のスキータ、弟のジュニアの様子が描かれています。

 

 そして何よりも、この小説はけっこうな部分が次兄のスキータとその飼い犬のチャイナの異常なまでの絆の描写にあてられています。人間と犬の愛の物語と言った感じです。

 カトリーナの接近は比較的最初の方に知らされるので、読み手はカトリーナの襲来がもたらすドラマを期待するわけですが、冒頭のチャイナの出産シーンから始まり、常にスキータとチャイナが物語の大きな部分を占めています。

 もちろん、エシュの妊娠が発覚したり、その他のドラマもあるのですが、犬を異常なまでに愛するスキータとチャイナの存在感は別格です。

 

 このチャイナは闘犬用の犬でもあり、物語の半ば過ぎに闘犬のシーンがあるのですが、ここがすごい! ここの暴力描写は圧倒的でなんとも言えない迫力があります。

 というわけで、個人的にこのジェスミン・ウォードはフォークナーではなく、コーマック・マッカーシーですね。この闘犬のシーンを読んで、コーマック・マッカーシーの『すべての美しい馬』とかを思い出しました。

 

 期待したものとはちょっと違ったのですが、間違いなく鮮烈な小説でしたね。