『コーダ あいのうた』

 今年のアカデミー賞の作品賞と助演男優賞(トロイ・コッツァー)、脚色賞を獲った作品。

 

 冒頭は漁船のシーンで、主人公のルビーが歌いながら漁を手伝っていますが、一緒に乗っている父と兄は気にしていません。なぜなら、二人とも耳の聞こえない聾唖者だからです。

 さらに母親も聾唖者であり、一家の中でルビーだけが耳が聞こえ、手話以外の言葉を話すことができます。

 ルビーは高校生で、かっこいいと思っていたマイルズが合唱クラブに入ることを知り、自分も合唱クラブに入ります。そこでルビーは音楽教師のベルナルド・ヴィラロボス(V先生)に才能を見出され、マイルズも目標としているバークリー音楽大学の受験を進められます。

 ルビーは、家族からは外部とのコミュニケーションを取るために必要とされており、自分の夢と家族の間で引き裂かれます。

 

 という筋立てで、ストーリー的にはありきたりです。音楽との向き合い方にしろ、マイルズとの恋にしろ、基本的にはどこかでみたような内容です。

 ただ、聾唖者である家族の描き方は今までのパターンとは違います。まず、家族を聾唖者の役者が演じていますし、「つつましく善良」といったパターン化された姿からは一線を画しています。かなり奔放で明け透けな姿は今までになかったものでしょう。

 また、ルビーを演じたエミリア・ジョーンズも非常にいいです。

 

 ただし、それでもルビーが学校での発表会で家族たちを前に歌うシーンまでは「手堅い佳作」という感じです。

 ところが、この発表会での演出が素晴らしく、その後に続くルビーと父親のシーンも素晴らしい。ここで一気に強い印象を残してラストへと向かっていきます。

 「聾唖者であるとはどのようなことか?」というのは、それ以外の人にはなかなかわからないことですが、それをわからせようとする演出があることがこの映画の最大の長所なのではないかと思います。