劉慈欣『流浪地球』

 『三体』の劉慈欣の短編集。短編といっても50ページ近い作品が多いので中編集くらいなイメージかもしれません。

 『三体』はとにかくスケールの大きなアイディアがこれでもかと投下されていて、リアリティなんて考えていられないほどに面白いわけですが、そうした劉慈欣節はこの作品でも健在ですね。

 

・「流浪地球」

 今から400年後、太陽が大爆発を起こし、地球が滅亡するとの予測が出た世界。人々は脱出のために宇宙船の建造をめざす宇宙船派と地球にエンジンをつけて地球ごと脱出する地球派に分かれますが、地球派が勝利を収め、地球ごと太陽系を脱出しようとします。

 そのためにはまず地球の自転を止めて…という壮大なほら話なのですが、これを面白く読ませるのが劉慈欣の手腕ですね。

 

・「ミクロ紀元」

 太陽がスーパーフレアを起こして5%の質量を失うと予測された未来、人々は移住できる惑星を探しに恒星間宇宙船を送り出します。

 この宇宙船が2万5千年後に太陽系に戻ってみると、輝きの減少した太陽とモノクロになった地球がありましたが、そこには厳しい環境を行きにくために自らをミクロ化したミクロ人間が住んでいたという話。これもぶっ飛んだ話です。

 

・「呑食者」

 『円 劉慈欣短篇集』に入っている「詩雲」の前日譚にあたる話で、恐竜みたいな宇宙人が出てきます。

 すべてを食い尽くす彼らにロックオンされてしまった地球と人類はどのようにこれに対抗するのか? という話で、とにかくやたらにスケールの大きな話になって着地します。

 

・「呪い5.0」

 若い女性が自分を捨てた男に復習するためにつくったコンピュータウィルスの「呪い」。このウイルスに感染したPCにはチャビという男への罵倒と、その個人情報が表示されます。

 ところが、このウイルスは2.0、3.0とアップデートされていき、全てがネット化された社会の中で、チャビという男の命を狙う、そして周辺の人間をも巻き込むウイルスへと進化していくのです。劉慈欣も作中に登場したりします。

 

・「中国太陽」

 中国の貧しい農村に生まれ、石炭を掘る坑夫になり、さらに北京に出てビル清掃の仕事をするようになった主人公が、ついに宇宙に行くまでの話。まさにチャイニーズ・ドリームといった話なのですが、さらにホーキング博士まで出てきて話がスケールアップするのが劉慈欣ならでは。

 

・「山」

 山の事故が原因で船に乗るようになった男が、海面にできた巨大の海の山に登って異星人とのファーストコンタクトを果たすという話。

 引力によって海にできた巨大な海の山というアイディアも突拍子がないですが、惑星の内部に閉じ込められ固体しか知らなかったという異星人の設定も突拍子がない。こんなの誰も思いつかないだろって話です。

 

 どれも劉慈欣らしい話で、SF的なアイディアと壮大なほら話の融合を今作でも十分に楽しめます。