柴崎友香『きょうのできごと』

 ちょっと前に読んだ『寝ても覚めても』が非常に面白かったので、再び柴崎友香の作品を読んでみました。

 この『きょうのできごと』はデビュー作ということでいいのかな?

 

 『寝ても覚めても』はかなりの長期のスパンを描いた小説で妙にスカスカなところのある小説でしたが、この『きょうのできごと』は1日の出来事を扱った小説です。

 京都の大学院に進学する正道の引越祝いが行われ、そこに集まった若者たちの群像劇なのですが、時間をいったりきたりしながらそれぞれのエピソードが語られます。

 最初は中沢、その恋人の真紀、中沢の昔から友人のけいとの3人を軸にした話なのかと思いましたが、正道の家であった男たちを軸にしたエピソードもあり、小説全体を貫くようなストーリーといったものはありません。

 

 この手のオムニバス的な構成の場合、映画などではすべての登場人物が共通の体験をしたりすることで、物語がまとめられたりするのですが、この小説ではただ流れていく感じです。

 ただし、映像的な描写や会話の上手さといったものは映画的でもあります。

 この小説は行定勲によって映画化されたとのことですが、この作品を映画化しようと考える人がいるのはよくわかります。

 情景を喚起させる力があり、読んでいるだけでいろいろな画が浮かぶからです。

 

 映画は未見ですが、最後に共通の体験や強烈なアクシデントがない部分をどうやってまとめていくのか? というのがポイントになる気がしました。

 ちなみに自分が読んだ文庫版では「きょうのできごとのつづきのできごと」というメタ的視点をとり入れた話が置かれており、このあたりもちょっと映画的だと思いました。

 『寝ても覚めても』のようなインパクトはないですが、平板なようでいて頭を刺激する小説だと思いました。