伝説の舞踏家である父の存在を追って、身体表現の最前線を志向するコンテンポラリーダンサーの護堂恒明は、不慮の事故によって右足を失い、AI制御の義足を身につけることになる。絶望のなか、義足を通して自らの肉体を掘り下げる恒明は、やがて友人の谷口が主宰するダンスカンパニーに参加、人のダンスとロボットのダンスを分ける人間性の【手続き/プロトコル】を表現しようとするが、待ち受けていたのは新たな地獄だったーー。SF史上もっとも卑近で、もっとも痛切なファーストコンタクト。『あなたのための物語』「allo, toi, toi」『BEATLESS』を超える、10年ぶりの最高傑作。
これがカバー見返しに載っている本書の紹介になります。
著者の小説を読むのは今回が初めてで、ほとんど予備知識もないままに読んだのですけど、思った以上にずっしりと密度のある小説でした。
ジャンルとしてはSFですし、舞台は2050年なのですが、本書の中心となるのは著者の経験とそれを言語化しようとする試みという印象を受けます。
紹介にあるように、主人公の護堂恒明はコンテンポラリーダンスのダンサーでしたが、不慮の事故で右足を失います。ダンサーが片足を失うことは致命的ですが、友人の谷口の伝手もあって最新式のAIつきの義足をつけられることになり、その義足とともにダンサーとして復活しようとします。
一方、谷口にはロボットにダンスをさせたいという構想がありました。もちろん、既存の振り付けを真似るだけならロボットにもできますが、谷口が考えているのは内発的に踊るロボットです。
人間には音楽を聞いて思わず踊りだしたくなったり、今までにはない動きを生み出したりすることがあります。いわば、意識と身体が共振しているわけですが、AIには身体がありません。
AIに身体性をもたせることで「人間性(ヒューマニティ)」を獲得しようというのが谷口のプランです。
そのために護堂恒明とロボットによるダンスカンパニーを立ち上げます。
一方、この小説では「人間性(ヒューマニティ)」の喪失も描かれています。
主人公の父でダンサーでもある護堂森が交通事故による入院と妻の死をきっかけに認知症になってしまうのです。
記憶が弱くなり、今までやっていたことができなくなり、周囲との意思疎通も難しくなります。介護する立場からすると「人間らしさ」が徐々に失われているようにも思えるのです。
本書はこの2つの問題、「人間性」の獲得の試みと「人間性」の喪失の過程が同時並行的に描かれています。
最終的にどうなるかは読んでもらうとして、このダンスと介護はともに著者の経験をもとに描かれています。ダンスは、ダンスカンパニーとのコラボレーションの企画が、認知症の問題は自らの父の介護経験が下敷きになっているといいます。
というわけで、見たことのない世界を見せてくれるSFというよりは、見ているはずの世界をSF的な道具立てで突き詰めて考えてみせた小説とでも言えるでしょうか。
ヒロインの永遠子の描き方など、やや不満の残る点もありますが、ずっしりとした読後感の残る小説ですね。