『別れる決心』

 『オールド・ボーイ』や『お嬢さん』のパク・チャヌク監督の新作。

 岩山の頂から転落した男の事件を追う刑事ヘジュンは被害者の妻ソレの反応や行動に引っかかるものを感じて、被疑者として監視するようになるが、その中でだんだんとソレに特別な感情を抱くようになったしまう…というストーリー。

 刑事が被疑者の女性に惹かれていくというのはよくある話で、『氷の微笑』とかがそうだったと思います。

 この女性はいわゆるファムファタールで、刑事を破滅へと導いていくのです。

 

 本作も前半はこうした構図になります。ヘジュンは優秀な刑事で結婚もしていますが、徐々にソレの謎めいた雰囲気に惹かれていくのです。

 ただし、この映画は2部仕立てになっており、普通の映画のさらにその先が描かれます。映画は起承転結できれいに着地せずに、起承転転転転…と飛距離を伸ばし続けるのです。

 

 そして本作の大きなポイントはソレが韓国人ではなく、密航のような形でやってきた中国人だということです。

 それが夫とのいびつな関係にも関わっているのですが、それだけではなく韓国語が不自由であり、ときにヘジュンとの意思の疎通にスマホの翻訳アプリを使わなくてはいけないのです。

 

 ソレが中国語を話す→翻訳アプリが韓国語を読み上げるといった形で、2人のコミュニケーションには遅延が生じるのですが、このズレが二人の関係の描写にも、さらにはストーリー全体にも大きな効果をもたらしています。

 

 ヘジュンを演じたパク・ヘイル、ソレを演じたタン・ウェイはともに良いですね。特にタン・ウェイファムファタールにありがちな飛び抜けた美人という感じはしないのですが、一見すると平凡なようにみえて非凡な魅力を持っていて、観客を惹きつける力も持っていますね。