小川哲の直木賞受賞作。満州がテーマになっているという点にも興味を持ち、文庫化したのをきっかけに読んでみました。
上・下巻、それぞれ350ページ以上ある大作ですが、非常に読みやすく、また、スケール感もあります。
出だしは、日露戦争前の高木という軍人がロシアの様子を探るために通訳を務める細川とともに満州でロシアの動きを探るというシーンから始まります。
読み始めた当初は、この高木が満州を舞台にした冒険の主人公だと思いますが、ところが、比較的早い時期に高木はこの小説から退場してしまいます。そして、読者は本書の主人公が高木ではなく、日本人や中国人やロシア人が入り乱れる満州という土地そのものだということに気づくわけです。
この小説は、1899年から1945年、そして終章の1955年まで、さまざまな歴史的な出来事を折り込みながら満州を舞台とした争いが描き出されており、スピード感をもって読めると思います。
歴史に沿いながらも、歴史の説明にならないように配慮されており、あくまでも面白く読める小説になっています。
ただ、面白くは読めたけど、読み終わってみると少し物足りない気持ちが残る部分もあります。
まず、満州という土地の描写が弱いかもしれません。本書の主人公は満州という土地ではないかと思うのですが、ややそのイメージを喚起する部分が弱いかもしれません。
もう1つは、キャラクターの使い方です。
本書では細川がキーパーソンとなって物語を引っ張るのですが、この人物の造形が弱いかもしれません。
個人的には神拳会という義和団のような宗教結社に入って修行して鋼の体になって「孫悟空」を名乗るようになる楊日綱(ヤンリーガン)をもっと出して、中国の馬賊、軍閥的な視点から物語を進めてもよかったような気がします。
それでも、読んでいるときは面白く読めるので、面白い小説を求めている人にはお薦めできます。

