佐藤直子『女性公務員のリアル』

 著者は首都圏政令市で公務員として勤務しながら大学院の博士課程で学んでいる人物ですが、本書は自らの経験と調査を元に「女性管理職はなぜ少ないのか」「組織の中核はなぜ男性ばかりなのか」という問題にアプローチしたものになります。

 男性と女性では配属後のキャリアパスが違うということを指摘した前半部分は面白いです。ただし、後半はQ&Aを中心とした構成で一般的な内容にとどまっており、1冊の本とするとやや物足りなさも感じます。

 個人的にはもう少し研究を進めてから出版しても良かったのではないかと思いました。

 

 目次は以下の通り。

1章 女性公務員が昇進しづらいって本当?
2章 そもそも、自治体での「女性活躍」に何の意味があるの?
3章 女性の立場で「女性活躍」のモヤモヤと対話しよう
4章 男性の立場で「女性活躍」のモヤモヤと対話しよう
5章 これからのあなたの「働き方」を考えるには
6章 では今、自治体組織にどんな改革が必要なのか

 

 本書の前半の主張の中心は、地方自治体では男女によってキャリアパスに違いがあり、男性は将来幹部になることを見据えて配属が決まっている一方、女性は窓口業務などの将来のスキル形成に役立たないよう部署に配属されており、それが管理職になったときに必要な技能の有無につながり、さらに女性の管理職の少なさにもつながっているというものです。

 

 著者は政令市で均等法前世代で一般事務から区長にまでなった女性と、本庁で局長を経験した男性職員(女性の局長経験者は調査時点ではいなかったとのこと)合わせて11名にヒアリング調査を行い、そのキャリアパスを明らかにしています。

  

 著者はスキル形成に効果がある業務として、①財政(予算・決算事務)、②組織(組織整備、人事、組合交渉、行財政改革関連業務)、③企画(政策等の企画調整(計画策定や政策等の庁内調整、進捗管理のみは除く)、④ステークホルダー対応(事業者・団体折衝、市民や企業等との連携・協働事業、市民反対運動への対応、他都市との折衝や連携事業(窓口対応のみは除く)の4つをあげ、11名のキャリアパスを分析しています。

 

 それによると、男性は入庁から10年目あたりからこうした業務に関わっているのに対し、女性は入庁20年目あたりからこうした業務に関わっているケースが多く、女性の5人中4人はキャリアの中でスキル形成業務に従事している期間が50%を切っています(27p図表1参照)。

 こうしたこともあり、管理職になったときに女性は自分の力というよりも人脈で問題を解決したと答えたりしています。

 

 また、男女の差が出ているのが庶務事務(旅費事務・文書事務・服務関係事務)の経験です。

 女性は全員がこうした仕事を経験しているのに対して、男性では6人中4人がこうした仕事をまったく経験していません。庶務事務が「ジェンダー化」している状況がうかがえます(ただし、男性でも1人だけは長い期間庶務事務を経験している(31p図表2参照)。

 

 また、政令市においては管理職になっても女性は本庁ではなく支庁に配置される傾向があるといいます。

 女性管理職の割合は政令市平均で15.4%ですが、これを上回る女性管理職比率のさいたま市相模原市横浜市川崎市、福岡市を見ると、横浜市を除いて本庁よりも支庁にいる女性管理職が多いです。また、さいたま市川崎市を見ると支庁の専門職がもっとも大きな割合となっています(36p図表4参照)。

 女性管理職を増やすという目標の下、本庁には女性管理職を置きたくない、あるいは置けないので、支庁に配置しているのではないかと著者は考えています。

 

 このことは著者が調べたA市の状況からも言え、近年では保健師や教育職などの専門職以外から局長級まで出生する女性が出てきているのですが、いずれも区長で(43p図表5参照)、しかも女性が配属される区も固定されているといいます。

 

 ここまでが第1章で非常に興味深いのですが、このあとは女性の職場進出に関するあれこれがつづき、それほど新規性はありません。

 

 また、いくつか疑問もあって、例えば、望まなければ出世しなくてすむ地方公務員の世界の中で、主任のままでいるデメリットとして「①加齢で集中力、視力、記憶力が低下する中、細かい事務処理を最後まで行い続ける、②もしそれまで経験のなかった仕事に回された場合、苦労は免れない、③若い職員と同じ仕事をすることで自己肯定感が下がる可能性がある、④長期療養者や育休を取得する職員が多数配置される職場に異動する可能性が高まる、⑤④の場合、雑務の負担・責任を一身に背負う可能性も考えられる」(81p)といったことをあげています。

 しかし、このうち③以外は例えば出世して課長や部長になったとしても直面する可能性のあることではないでしょうか? 管理職なら集中力や記憶力が低下しても続けられるということはないでしょう。

 

 管理職になれば、職場づくりへの影響力が高まり、女性が管理職なることで女性が働きやすい職場が実現できるというのはその通りだと思いますが、一方で「若い職員と同じ仕事をすることで自己肯定感が下がる」とありますが、若い職員とベテランの職員が同じような仕事をしている現場はいくらでもあるところであり(例えば教員とか)、やはり管理職を目指すかどうかはその人次第なのではないでしょうか。

 

 前半の女性の配属の問題をそのまま深めていくことができれば、後半も含めて読み応えのある本になったのではないかと思います。