社会学

レヴィ・マクローリン『創価学会』

社会的にも政治的にも日本で最も大きな影響力を有していると思われる宗教団体の創価学会について、カナダに生まれ、現在はアメリカのノースカロライナ州立大学の哲学・宗教学部教授を務める人物が論じた本。 副題は「現代日本の模倣国家」で、創価学会をミニ…

富永京子『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史』

自分は1970年代半ばの生まれで、90年代の前半に明治大学に入学したのですが、入学式の日にヘルメットを被った活動家の人たちが新入生にビラを配っている光景に驚いたのを覚えています。 もうなくなったと思っていた学生運動的なものがまだ残っていたことに驚…

飯田高、近藤絢子 、砂原庸介、丸山里美『世の中を知る、考える、変えていく』

サブタイトルは「高校生からの社会科」。このサブタイトルからは同じ有斐閣から出た『大人のための社会科』を思い出しますが、いくつか違っている点もあります。 morningrain.hatenablog.com まず、「大人のため」が「高校生から」となっていることからもわ…

前田正子・安藤道人『母の壁』

待機児童問題が深刻化していた2017年に、都市郊外のA市で行った母親へのアンケートをもとにした本。 著者の一人の前田正子は中公新書から『保育園問題』という本を出しており、もう1人の著者の安藤道人は公共経済学を専門とする経済学者になります。 ですか…

岸政彦/梶谷懐編著『所有とは何か』

私たちはさまざまなものを「所有」し、その権利は人権の一部(財産権)として保護されています。「所有」は資本主義のキーになる概念でもあります。 同時に、サブスクやシェア・エコノミーの流行などに見られるように、従来の「所有」では捉えきれない現象も…

額賀美紗子・藤田結子『働く母親と階層化』(とA・R・ホックシールド『タイムバインド』)

今回紹介する本はいずれも去年に読んだ本で、去年のうちに感想を書いておくべきだったんですが、書きそびれていた本です。特にホックシールドの本は非常に良い本だったのですが、夏に読了した直後にコロナになってしまって完全に感想を書く機会を逸していま…

筒井淳也『社会学』

先日紹介した松林哲也『政治学と因果推論』に続く、岩波の「シリーズ ソーシャル・サイエンス」の1冊。 社会科学の中でも「サイエンス」とみなされにくい社会学について、「社会学もサイエンスである」と主張するのではなく、「社会を知るには非サイエンス的…

永吉希久子編『日本の移民統合』

昨年出た『移民と日本社会』(中公新書)は非常に面白かったですが、その著者が編者となって移民の「統合」についてまとめたのがこの本。 本書の特徴は、2018年に著者らが行った在日外国籍住民に対する無作為抽出調査(「くらしと仕事に関する外国籍市民調査…

松田茂樹『[続]少子化論』

タイトルからもわかる通り、松田茂樹『少子化論』(2013)の続編というべき本になります。 『少子化論』はバランス良く少子化問題を論じたいい本でしたが、そのこともあって著者は政府の少子化問題の会議などにも参加しています。 『少子化論』は、仕事と育…

松永伸太朗『アニメーターはどう働いているのか』

酒井 正『日本のセーフティーネット格差』とともに、第43回労働関係図書優秀賞を受賞した本で、その受賞で本書の存在を知って読んでみましたが、なかなか面白い本です。 まず、単純にアニメーターたちがどんなふうに仕事を行っているのかという点も興味深い…

小熊英二、樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』

ここ最近話題になっている「右傾化」の問題。「誰が右傾化しているのか?」「本当に右傾化しているのか?」など、さまざまな疑問も浮かびますが、本書はそういった疑問にさまざまな角度からアプローチしています。 実は、国民意識に関しては特に「右傾化」と…

木下衆『家族はなぜ介護してしまうのか』

「家族はなぜ介護してしまうのか」、なんとも興味をそそるタイトルですが、本書は、認知症患者のケアにおける家族の特権的な立場と、それゆえに介護専門職というプロがいながら、家族が介護の中心にならざるを得ない状況を社会学者が解き明かした本になりま…

2010年代、社会科学の10冊

2010年代になって自分の読書傾向は、完全に哲学・思想、心理、社会、歴史といった人文科学から政治、経済などの社会科学に移りました。その中でいろいろな面白い本に出会うことができたわけですが、基本的に社会科学の本、特に専門書はあまり知られていない…

岡奈津子『〈賄賂〉のある暮らし』

副題は「市場経済化後のカザフスタン」。中央アジアのカザフスタンを舞台に人々の生活の間に賄賂がどのように根を下ろしているのか、人びとはそれをどう感じているのかということを探った本になります。 途上国において、賄賂がものを言うと話はよく聞きます…

 佐藤卓己『ファシスト的公共性』

『言論統制』(中公新書)、『八月十五日の神話』(ちくま新書)などの著作で知られる著者が1993年から2015年までに発表した論文を集めたもの。 著者が一貫して追求してきた「ファシスト的公共性」というものを、「ドイツ新聞学」、「宣伝」、「ラジオなどの…

 山口一男『働き方の男女不平等』

シカゴ大学の社会学の教授であり、RIETIの客員研究員でもある著者が、日本の働き方における男女不平等に切り込んだ本。 計量分析をバリバリに活用した本で、ここで用いられている手法の解説やその是非についてはよくわからないところもあるのですが、さまざ…

 玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』

失業率は2%台に下がり(2017年4月で2.8%)、有効求人倍率も上がり、「バブル以来の人手不足」などという声もあがっていますが、それに反して賃金が上がっているという実感はないですし、実質賃金は上がっているどころか、むしろ低下の傾向も見られます。 こ…

 北田暁大+解体研『社会にとって趣味とは何か』

まだ、できた当初のゲンロンカフェに「社会学と現代思想―その微妙な関係」という北田暁大の講演を聞きに行ったのが2013年。そのときのアフターのトークで「宮台真司の『サブカルチャー神話解体』の現在版みたいな調査と分析をやっている」という話を聞いたの…

 エスピン=アンデルセン『平等と効率の福祉革命』

『福祉資本主義の三つの世界』で現代の福祉国家における複数の均衡を鮮やかに示してみせた著者が、女性の社会進出を一種の「革命」と捉えた上で、そこで生じる問題点や、あるべき社会のデザインを語った本。 女性の社会進出を進め、そこから生じる問題をクリ…

 有田伸『就業機会と報酬格差の社会学』

日本では正規雇用と非正規雇用の格差が問題になっており、いたるところで非正規雇用の境遇の悲惨さや、正規雇用との格差の理不尽さなどが語られています。そして、そうした声に応えるため、現在の安倍政権も「同一労働同一賃金」の掲げることなどによってこ…

 松田茂樹『少子化論』

少子化問題にまつわる最近のトピックとしては、なんといっても「保育園不足」「待機児童問題」といったことが目につきますが、保育園が整備されて待機児童がいなくなれば出生率は向上するのでしょうか? この『少子化論』では、育休制度の充実や保育園の整備…

 杉田真衣『高卒女性の12年』

高校3年から30歳まで、4人の語りから浮かび上がる、ノンエリート女性たちの労働と生活の実態。その生きづらい現実と実感をまるごと受けとめる。 これがこの本の帯に書かれている文句ですが、この本のウリはなんといっても「高校3年から30歳まで」の12年間に…

 松木洋人『子育て支援の社会学』

「子育て支援の社会学」というタイトルから、現在の日本の子育て支援の問題点やそれに対する新しい取り組みなどについて分析した本かと思う人も多いでしょう。 しかし、この本はそういった本ではありません。確かに「保育ママ」や「子育てひろば」など、近年…