国内小説

大江健三郎『水死』

先日亡くなった大江健三郎、実は初期の作品しか読んでおらず(『日常生活の冒険』まで)、やはり後期の作品も読んでみようかと思い読んでみました。 自分は高校生〜大学生にかけて、夏目漱石や森鴎外から始め、芥川龍之介、谷崎潤一郎、川端康成、太宰治、安…

柴崎友香『千の扉』

ここ最近、継続している柴崎友香の小説ですが、これもなかなか面白かったです。 作中で明示されているわけではありませんが、新宿の都営戸山ハイツを舞台にした作品で、タイトルの「千の扉」とはとりあえずは団地のたくさんの扉を表しているととれます。 主…

柴崎友香『待ち遠しい』

『寝ても覚めても』、『わたしがいなかった街で』がとても面白かった柴崎友香の2019年に刊行された小説が文庫になったので読んでみました。ちなみに「毎日文庫」というマイナーなレーベルのためか、出た当初は近所の本屋に見当たらず、しばらくしてから平積…

今村夏子『こちらあみ子』

映画『花束みたいな恋をした』に、人物をdisる表現として「きっと今村夏子さんのピクニックを読んでも、なにも感じないんだよ」という台詞があるのですが、それ以来ちょっと気になっていた今村夏子の作品を初めて読んでみました。 この文庫本には表題作の「…

長谷敏司『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』

伝説の舞踏家である父の存在を追って、身体表現の最前線を志向するコンテンポラリーダンサーの護堂恒明は、不慮の事故によって右足を失い、AI制御の義足を身につけることになる。絶望のなか、義足を通して自らの肉体を掘り下げる恒明は、やがて友人の谷口…

柴崎友香『わたしがいなかった街で』

『寝ても覚めても』が「おおっ」と思わせる小説だったので、『きょうのできごと』を読み、さらにこの『わたしがいなかった街で』も読んでみたのですが、この『わたしがいなかった街で』も「おおっ」と思わせる小説ですね。 主人公の平尾砂羽は大阪出身の36歳…

柴崎友香『きょうのできごと』

ちょっと前に読んだ『寝ても覚めても』が非常に面白かったので、再び柴崎友香の作品を読んでみました。 この『きょうのできごと』はデビュー作ということでいいのかな? 『寝ても覚めても』はかなりの長期のスパンを描いた小説で妙にスカスカなところのある…

柴崎友香『寝ても覚めても』

読み始めたときは随分とちぐはぐな印象の小説だなと思いつつも、最後まで読むと「そういうことだったのか!」となる小説。 主人公に感情移入できる人は少ないかもしれませんし、読むのがやめられなくなる小説とかではないのですが、最後のゾワゾワっとする展…

村田沙耶香『コンビニ人間』

本当に今更という感じで読んだのですが、この小説は文体がすおくいいですね。 マニュアルによって規定されているコンビニに過剰適応した36歳の独身女性の古倉恵子が主人公で、設定自体は思いつきそうですが、それをこういった作品にまで仕上げる腕はさすがだ…

村上春樹『女のいない男たち』

映画の『ドライブ・マイ・カー』を見て、その物語の複雑な構造に感心したので、「原作はどうなってるんだろう?」と思い、久々に村上春樹を読んでみました。 以下、映画と本書のネタバレを含む形で書きます。 映画はこの短編集の中から「ドライブ・マイ・カ…

神林長平『いま集合的無意識を、』

この前読んだ『絞首台の黙示録』が非常に奇妙で面白かったので、神林長平の2012年に出版された短編集を読んでみました。 なんといっても注目を集めるのが、パソコンの画面に伊藤計劃を名乗る文字列が現れて神林長平本人らしき作家と対話を行う表題作の「いま…

神林長平『絞首台の黙示録』

前々から神林長平の作品を読んでおきたいなと思っていたのですが、たまたま手にとった本書の解説が東浩紀で、面白そうだったので読んでみました。 そしたら、面白い! とにかくすごく変な小説で、奇想と言ってもいいかも知れません。国書刊行会がマイナーで…

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

村上春樹の小説に関しては『1Q84』を読んで、「今後はこんな感じの変奏なのかな?」と思い、しばらく読んでいなかったのですが、読む予定だった海外小説が店頭になかったりしたので、読んでみました。 読んだ感想としては、やはりなかなか面白い。20歳の…

 舞城王太郎『淵の王』

久々の舞城王太郎作品。今、このブログをさかのぼってみたら前に読んだのは2010年の『獣の樹』と『イキルキス』。『イキルキス』の中の「パッキャラ魔道」は良かったんですけど、『獣の樹』がいまいちだったのと、その前の超大作『ディスコ探偵水曜日』がい…

 東山彰良『流』 

ご存知、第153回直木賞を受賞作。ここ最近、海外文学ばかりを読んでいたのですが、台湾生まれの著者が台湾と日本と大陸の歴史を舞台にした作品ということで興味がわき、文庫化されたのを機に読んでみました。 カバー裏の紹介文は以下の通り。 一九七五年、台…

 阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』

阿部和重と伊坂幸太郎という驚きのタッグによって書かれた長編小説。しかも、連作短編のようになっているとか2つの話が組み合わさっているとかではなく、完全に一つのストーリーを二人が創り上げています。インタビューなどを見ると章ごとに交互に書いていっ…

 坂上秋成『昔日のアリス』

かつて、ギャングについてとても華やかな文章を書いた小説家がいたわ。はじめてその小説を読んだ時、私は大声で泣いた。それほどに圧倒的な言葉だった。ああ、これでもう私はギャングについて何一つ語ることができなくなってしまったのだって、そう考えた。…

 村上春樹『1Q84』

文庫になった+夏休みということでようやく読んでみました。 浅間山荘事件を思わせる「あけぼの」の銃撃戦、そしてその「あけぼの」と袂を分かった新興宗教「さきがけ」。その「さきがけ」は山梨県に本拠地があってインテリ層も集める新興宗教で…ってなると…

 赤坂真理『東京プリズン』

女性誌について分析しながら、そこを突き抜けて、「戦争」、「アメリカ」、「敗戦の記憶」といったものにまで、現代の男女がおかれた状況の遠因をたどろうとした新書『モテたい理由』。 非常に面白く読んだと同時に、それまでまったく関心のなかった赤坂真理…

 津原泰水『バレエ・メカニック』

造形家である木根原の娘・理沙は、九年前に海辺で溺れてから深昏睡状態にある。「五番めは?」―彼を追いかけてくる幻聴と、モーツァルトの楽曲。高速道路ではありえない津波に遭遇し、各所で七本肢の巨大蜘蛛が目撃されているとも知る。担当医師の龍神は、理…

 伊藤計劃『ハーモニー』

2009年に亡くなった伊藤計劃の最後の長編作品で、第30回日本SF大賞受賞作品。さらに英訳版がフィリップ・K・ディック記念賞の特別賞を受賞しています。 本のカバーに書かれた内容紹介は次の通り。 21世紀後半、「大災禍」と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類…

 高橋源一郎『恋する原発』

「制御棒挿入」、「燃料棒」「メルトダウン」、「炉心溶融」、「核燃料の露出」 こう並べると原発事故の用語が何か性的なものに見えてきませんか? おそらく、この『恋する原発』の着想はそういったところになったのでしょう。 『あ・だ・る・と』で、アダル…

 辻村深月『水底フェスタ』

自然を切り崩し、ロックフェスを誘致する以外に取柄もない山村。狭い日常に苛立つ高校生の広海は、村出身の女優・由貴美と出会い、囚われてゆくが、彼女が戻ってきたのは「村への復讐のため」。半信半疑のまま手伝う広海だが、由貴美にはもう1つ真の目的が…

 村上春樹『国境の南、太陽の西』

先日読んだ宇野常寛『リトル・ピープルの時代』で、「村上春樹が「蜂蜜パイ」や『1Q84』で見せた、『父になる』という形のデタッチメントからコミットメントへのやり方は安易だ」という批判を読んで、「例外的に主人公が普通に父親になっている『国境の南、…

 吉田修一『悪人』

今さら何かを言う小説でもないんでしょうけど上手いですね。 テレビ埼玉を見ていた人にしかわからないネタで言うと「うまい!うますぎる!十万石まんじゅう」という感じです。 何が上手いかというと、「殺人」という日常とは隔絶した行為を日常の続きとして描…

 辻村深月『子どもたちは夜と遊ぶ』

久々の翻訳ものでない小説。辻村深月は『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』が素晴らしかったので他のも読んでみたかったのです。 この小説は辻村深月の2作目の小説で、もとは講談社ノベルスからリリースされたもの。ノリは舞城王太郎とか佐藤友哉とか西尾維新とか…

 上田早夕里『華竜の宮』

今年は去年なくなった伊藤計劃氏の『虐殺器官』が文庫化され、そのスケールの大きさや世界観が話題になりましたが、それに負けていない、というかエンターテイメント性なんかを考慮すれば『虐殺器官』を上回っているんじゃないかと思ったのがこの『華竜の宮…

 舞城王太郎『獣の樹』

『山ん中の獅見朋成雄』に出てきた背中に鬣があってむちゃくちゃ早く走る成雄が再登場する小説。ただ、同一人物ではないみたいで、こちらには「獅見朋」って苗字はなくて、いきなり14歳くらいの歳格好で名前も記憶もないまま馬から生まれてくる。 というわけ…

 舞城王太郎『イキルキス』

中編集で2008年発表の「イキルキス」、2002年発表の「鼻クソご飯」、2004年発表の「パッキャラ魔道」を収録。 ふつうは表題作でもあり、収録作の中でも一番新しい作品でもある「イキルキス」に注目して感想を書くべきかもしれませんが、「イキルキス」は西暁…

 桐野夏生『I'm sorry,mama. 』

ストーリーとしてはいまいち展開しきれなかった感じで、ラストはかなり強引な展開。ただ、登場人物の描き方は桐野夏生ならではの容赦のなさ!「ちょっとした変人」のような人間を書かせるとほんとうまいですね。 この小説、主人公は置屋で生まれ施設で育ち自…