阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』

 阿部和重伊坂幸太郎という驚きのタッグによって書かれた長編小説。しかも、連作短編のようになっているとか2つの話が組み合わさっているとかではなく、完全に一つのストーリーを二人が創り上げています。インタビューなどを見ると章ごとに交互に書いていって、それを違いが手直しをする形で書かれたみたいですね。


 ただ、実は伊坂幸太郎の小説は『重力ピエロ』と『魔王』くらいしか読んでおらず(『魔王』の中の「呼吸」は面白かった記憶がある)、伊坂幸太郎の良さというのはそれほどピンときていない人間なので、どうしても過去の阿部作品と比べながら読みました。
 Amazonに載っている内容紹介は以下の通り。

人生に大逆転はあるのか?

小学生のとき、同じ野球チームだった二人の男。
二十代後半で再会し、一攫千金のチャンスにめぐり合った彼らは、
それぞれの人生を賭けて、世界を揺るがす危険な謎に迫っていく。

東京大空襲の夜、東北の蔵王に墜落したB29と、
公開中止になった幻の映画。そして、迫りくる冷酷非情な破壊者。
すべての謎に答えが出たとき、動き始めたものとは――

現代を代表する人気作家ふたりが、
自らの持てる着想、技術をすべて詰め込んだエンターテイメント大作。


 舞台となるのは2013年の7月の日本。田中将大が連勝記録を続けるなど、現実の日本と同じなのですが、「村上病」という病気があって、それの予防接種をほぼ国民全員が受けており、その病原菌(?)があるとされている蔵王御釜地域が立入禁止になっているという点だけが違います。
 東京大空襲の夜、3機のB29が蔵王に墜落したという情報を追いかける桃沢瞳、借金で首が回らなくなり天然水を売りつけるペテン師から金を巻き上げようと企む元少年野球のピッチャーの相葉時之、アトピーの息子を抱え、同じく借金で首が回らなくなっている少年野球で相葉時之とバッテリーを組んでいた井ノ原悠、この3人と途中から加わる犬が主要キャラになります。


 阿部和重の小説は個人的には「キャラ」の要素が薄い小説だと思っていて、登場人物は個性的ではあるけれど、じゃあ「どんなビジュアルなのか?」「役者が演じるとすれば誰なのか?」というと、よくわからない事が多いです(例えば、『シンセミア』や『ミステリアスセッティング』の主人公を誰が演じればいいか?と言われてもあまり思いつかない)。
 その点、伊坂幸太郎は「キャラづくり」のうまい作家で、登場人物の雰囲気をわかりやすく書きますし、またビジュアル的にも想像しやすいです。
 

 二人とも小説の設定に関してはうまい作家で、この『キャプテンサンダーボルト』でも、「村上病」、「消えたB29」、「主人公たちを追い回す謎の怪人」、「井ノ原の持つ情報ネットワーク」、「お蔵入りになった『劇場版:鳴神戦隊サンダーボルト』」、「消えたサンダーボルトのレッド」など、つかみとなるものは豊富で、それが物語をグイグイ引っ張っていきます。
 また、先ほど行ったように「キャラ」がはっきりしているので、今までの阿部作品よりも読みやすく感じる人も多いでしょう。


 けれでも、そのわかりやすい「キャラ」と、物語をしっかりと終わらせようとする伊坂幸太郎の真面目さが最後のクライマックスでやや邪魔になっている感がなきにしもあらずです。
 もちろんこれは僕が阿部和重の読者だからで、伊坂幸太郎の読者であればぜんぜん違うのでしょう。ただ、最後はドタバタ劇にしてしまう阿部和重の世界にきちんとした結末をつけようとした所で、少し熱が冷めてしまう感じがするのです。
 

 文句なしに面白く読める小説ですが、阿部和重伊坂幸太郎のそれぞれの今までの作品を超えるものがあるかというと、そこは意見が分かれるところでしょう。


キャプテンサンダーボルト
阿部 和重 伊坂 幸太郎
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