ケリー・リンク『白猫、黒犬』

 『スペシャリストの帽子』『マジック・フォー・ビギナーズ』などの作品で知られるケリー・リンクの短編集。すべて童話などを下敷きにした作品になります。ケリー・リンクには「雪の女王」を下敷きにした「雪の女王と旅して」(『スペシャリストの帽子』所収)といった作品もありますし、こうした書き方は得意なのでしょう。

 

 そして、童話がぶっ飛んだ不思議な世界に書き換えられるのもケリー・リンクならでは。

 冒頭の「白猫の離婚」では、資産家が3人の息子に、最も小さくて手触りの良い犬を探してくるように命じるところから始まります。いかにも童話的な筋立てですが、三男がたどり着くのは白猫が運営する大麻農園であり、そこから不思議な話が展開されます。

 

 3番目の「白い道」は『ブレーメンの音楽隊』が下敷きになっていますが、舞台は現代文明が失われつつある近未来といった趣きで、そこには「白い道」と呼ばれる謎のものが出現するようになっています。

 死者の世界と繋がっていると思われる白い道は、生者を死者に引き込む力を持っていますが、同時に死者に出会える場所でもあるといいます。

 本作品では移動劇団を舞台にして、その白い道との遭遇が描かれています。

 

 4番目の「恐怖を知らなかった少女」はグリム童話の『こわいことをしりたくて旅にでかけた男の話』が下敷きです。

 主人公は大学の教授ですが、マサチューセッツからアイオワシティでの学会に出向いた帰りにデトロイト空港で足止めに遭います。主人公は女性同士の同性婚をしており、娘もいます。

 主人公は毎朝空港に出向き、帰りの飛行機を待つわけですが、なかなか飛行機はやってきません。主人公は毎朝空港に行き、飛行機が飛ばないのがわかってあきらめ、ホテルのプールで泳ぎ、次の朝を待ちます。

 そして、ようやく飛行機に乗り込むことができるわけですが、隣の席の女性から思わぬ話を打ち明けられることになります。

 

 最後の話は「スキンダーのヴェール」。下敷きはグリム童話の「しらゆきべにばら」です。

 博士論文を書き上げなければならないアンディは、古い友達のハンナからある人里離れた家の留守番を頼まれます。その家の持ち主はスキンダーという人物らしいのですが、ハンナからの申し送りには「スキンダーの友人が来たら必ず入れてあげること」「スキンダーが来たら絶対に中には入れないこと」という不思議な決まりがありました。

 そして、実際にその家にはスキンダーの友人だという女性などがやって来て、アンディに不思議な話をしたりします。果たして、スキンダーはやって来るのか? スキンダーとは何者なのか? という謎が物語を引っ張ります。

 

 ケリー・リンクの作品を読んだことがある人ならわかると思いますが、その特徴はおとぎ話的な不思議さと、生と死の世界の近さですが、本書でもその特徴は遺憾なく発揮されていると思います。

 金子ゆき子の訳も、ヒグチユウコの装画もケリー・リンクの世界観にハマっており、ケリー・リンクの世界が十分に堪能できる1冊となっています。