上下巻で1100ページを超える大作で、ジャンルはホラー。
この2つの情報で「それなら読まなくてもいいか」と思った人もいるかも知れませんが、ラテンアメリカ文学ファンなら是非読んでほしい1冊。特にドノソの『夜のみだらな鳥』とか『別荘』とかを面白く読んだ人にはお薦めしたいです。
作者は1973年生の「アルゼンチンのホラープリンセス」とも呼ばれる女性作家で、カズオ・イシグロも激賞したといいます。
〈闇〉を呼び出す儀式を行う謎の教団とそれを主宰するのは大富豪のブラッドフォード家、その教団に霊媒として利用されているフアンとその息子のガスパルが本書の軸となります。
小説を読み進めていくと、フアンは息子のガスパルを自分と同じような霊媒にしないために行動しようとしていることがわかり、フアンと教団の華々しいバトルが繰り広げられるのか? と予想します。
ところが、本書はずいぶんとゆっくり進みます。冒頭はフアンとガスパルのロードムービーのようですし、ガスパルと友人たちとの友情が描かれることもありますし、青年になったガスパルの苦悩が描かれる部分もあります。
本書は6部仕立てとなっており、時系列を入れ替えながら1960年〜1997年までの出来事が語られているのですが、特にホラーとは言えないような部分がけっこうな部分を占めます。
このころのアルゼンチンは軍政下での弾圧などもあり不穏な時代なのですが、そうした不穏さの中での人々の生が描かれているのです。
ところが、それだけではないがこの小説の特徴で、だいたい1部ごとに物語のスピードが一気に加速するシーンがあります。
例えば、第1部でのフアンが実際に〈闇〉を呼び出すシーンや、第3部でのガスパルと友人たちが謎の屋敷を探検するシーン、第4部での若き日のフアンたちが「襲撃」を受けるシーンなど、ホラー的なシーンが圧倒的な筆力で描かれます。
この静から動へのスイッチの切り換えがこの小説の魅力です。
映画化を考えた人もいるかもしれませんが、この静と動の切り換えは小説でこそ表現できるものかもしれません。
狂った一族の話というのはラテンアメリカ文学の十八番ではありますが、本書はホラーであると同時にラテンアメリカ文学の伝統を引き継ぐ作品と言えるかもしれません。

