過去の雑文

 ディッシュの描く「純粋コミュニケーション」

国書刊行会の<未来の文学>シリーズのトマス・M・ディッシュ『アジアの岸辺』は、ジャンル的にはSFなのかもしれないけど、そういったジャンルに収まらない傑作を含んだ短編集。特に文学的に非常に完成度の高い表題作「アジアの岸辺」と風刺とかを超えたレベ…

 舞城王太郎VS『セカチュー』

今月も一日遅れました、このコーナー。これを書いている3/1は勤めている学校の卒業式なんですけど、卒業式を歌った歌に川本真琴の“桜”という曲があります。川本真琴はデビュー後に変に売れすぎちゃって、そのプレッシャーでちょっと消えちゃった印象がある歌…

 2004年ベスト映画は『ドッグヴィル』なわけ

今年の一番の大きな出来事といえば、ブッシュ再選につきるでしょう。ケリーに対するヨーロッパの市民からの支持や、ハリウッドスターやブルース・スプリングスティーンの応援などを持ってしても、アメリカ社会の「道徳」の牙城は崩せなかったわけで(この辺…

 BUMP OF CHICKEN/ユグドラシルに広がる世界

2002年の2月のこの欄で、BUMP OF CHICKENについて、「Mr.childrenの歌詞のように、内省する自分をさらに客観的に観察するような詩を書けるようになってくるともっとよくなってくる」と書いたのですが、その後の曲とアルバム「ユグドラシル」を聴いて、その…

 記号と徴候/『サイン』と『ツイン・ピークス』

今月は、ヒッチコックの強い影響を受けている映画監督、ブライアン・デ・パルマとM.ナイト・シャマランを比較しつつ、さらにはヒッチコックとの違いについても考える、というようなことを書こうと思ったんだけど、まとまらなさそうなんで、中井久夫の「徴…

 「親愛なるものへ」〜追悼・野沢尚

脚本家の野沢尚が自殺しちゃいましたね。原因とかははっきりしていないし、見当もつかないのですが、この人のドラマはかなり好きだっただけに、本当に残念です。野沢尚のドラマでは「恋人よ」とか「水曜日の情事」とか好きで、「眠れる森」も悪くないと思うの…

 主体と対象と、『ピアノ・レッスン』

日記にもちょっと書きましたが、ハマスの最高指導者ヤシン師が暗殺されたことに対する日本のマスコミの感度の鈍さには唖然とするばかり。夕方の民放の“ニュース”はニュースとは言えないものなので仕方がないにしても、ニュースステーションでさえ、「ハルウ…

 ”解離”の世界の生きる道

柴田元幸の訳したT・R・ピアソンの『甘美なる来世へ』は、バカらしい情景をバカ正直に描いて笑える作品。アメリカ南部のど田舎を舞台に、1ページ以上にわたって切れない文章、などというとフォークナーを思い出しますが、実際、「現代のフォークナー」と…

 『マトリックス』、ラディカルな『リローデッド』と尻すぼみの『レヴォリューションズ』

『マトリックス・レヴォリューションズ』を見てきたのですが、前作『リローデッド』で提示された世界観のさらなる展開を期待した身としては、やや期待はずれ。少し不満の残る3作目でした。 第1作目の『マトリックス』では、ラカン的な観点から言うと、マト…

 ミッシェル・ガン・エレファント ”世界の終わり”とその先の風景

10月11日、行ってきました、ミッシェル・ガン・エレファントの解散ライブ。当日のことは日記にも書きましたが、とにかくあのライブのあとは、しばらくロックに対する感受性が抜け落ちてましたね。ラストの曲の“世界の終わり”とともに、何かが抜けた感じ…

 G・イーガン『しあわせの理由』の描く幸福と不幸

今月は書くネタがない。『マトリックス・リローデッド』については時期を逃した気がするし、ミッシェル・ガン・エレファントについては、やっぱラストライブ後に書きたいし。というわけで、読み終えたばかりの、G・イーガンの短編「しあわせの理由」につい…

 アルモドバル『トーク・トゥ・ハー』VSヒッチコック『サイコ』

今月はペドロ・アルモドバル監督の『トーク・トゥ・ハー』について。この映画、とにかく映像が素晴らしく綺麗だし、音楽も非常に効果的だし(特に映画の中で歌われるカエタノ・ヴェローゾの歌は素晴らしい!)、演出もよいし、役者もよい(とくにマルコ役の…

 『めぐりあう時間たち』の愛のかたち

今月は、月のはじめに見たため少し記憶は薄れたけど、素晴らしい映画だった『めぐりあう時間たち』について。日記にも書きましたが、今年見た映画の中ではNo.1、それ以前にさかのぼっても、これほど緻密につくりこまれて完成度の高い映画ってのはラッセ・ハ…

 ピム・フォルタインの示した”寛容のパラドックス”

ジジェクの『「テロル」と戦争』に、2002年の5月に暗殺されたオランダの政治家、ピム・フォルタインが取り上げられている箇所がありますが、このフォルタインというのは非常に注目すべき人物。日本ではあまりほとんど報道されず、知っている人も少ないと思…

 『へルタースケルター』が提示する”リアル”

イラク戦争は一昨年のアフガンとまったく同じことを繰り返して終わり(?)ましたね。1ヶ月ほどで首都は陥落、しかし肝心の人物(ビン・ラディンとフセイン)は見つからないという状態。しかも、炭素菌騒動を反復するかのようなSARSウィルス、まさに「歴史…

 『ファイト・クラブ』に見る「解離」の世界

今月はまず、精神科医・笠原嘉の『軽症うつ病』(講談社現代新書)の中の次の名言から。 「心の治療はできることなら『あまり深くメスを入れないですませる』のが名医(?)だと私自身は思っています。」 これはまさにその通りと思うのですが、この欄は先月…

 中井久夫の分裂病についての知見とピンチョン

今月読んだ、中井久夫の『最終講義』は、著者の30年に渡る精神分裂病治療の一つの到達点とも言うべきもので、分裂病患者に対する絵画療法の具体的な進み方や、治療における著者の箴言的な知など、短いながら非常に読み応えのある本です。(分裂病(今は統…

 『プラトーン』→(『フォレスト・ガンプ』)→『ブラックホーク・ダウン』

先月のこの欄でオリバー・ストーンの『7月4日に生まれて』にちょっと触れたということもあって、この前、『プラトーン』をビデオで見たんですが、なんとなく、『プラトーン』→『フォレスト・ガンプ』→『ブラックホーク・ダウン』という流れが確認できまし…

 『フォレスト・ガンプ』の時代?

昨年度のアカデミー賞受賞作『ビューティフル・マインド』をビデオで見ましたが、まあ、よくできているけどふつうの映画。確かに主演のラッセル・クロウはとてもよく頑張っていて、『グラディエーター』でアカデミー主演男優賞を獲っていなかったら、この作…

 『ピンポン』・ヒーローとは?

今月は、映画を見たということで改めて読み返してみたマンガの松本大洋『ピンポン』について書こうと思うのですが、その前に村上春樹の『神の子どもたちはみな踊る』について少し。この本は阪神大震災をモチーフにした連作短編、評論家からかなり高い評価を…

 『メメント』・記憶のあり方

なんか、ワールドカップの影響で久しぶりのこの欄の更新です。この1ヶ月はサッカー見ててなんにも出来ませんでした。それで先月の段階ではミスチルのニューアルバムのことを中心に書こうと思っていたのですが、ずいぶん時間がたってしまいました。というわ…

 ROSSO・チバユウスケの詞

新聞に長渕剛のニュー・シングルの広告があったのですが、タイトルが「静かなるアフガン」!。まあ、いいですけど、なんかすごい歌そう。 ところで、こういうタイトルの歌を「左派的?」な歌手ではなく、「右派的?」な長渕剛が歌うというのは、最近の傾向を…

 デヴィッド・リンチと金八先生

先日、デヴィッド・リンチの「マルホランド・ドライブ」を見てきました。前作の「ストレイト・ストーリー」がまったく「ふつう」の映画だったので、今回はどうなんだろうと思いましたが、印象は「ロスト・ハイウェイ」と似ていて、「リンチ・ワールド炸裂」…

 浅野智彦『自己への物語的接近』について

今読んでいる小説のウィリアム・ボルマンの『ザ・ライフルズ』は、「ブローティガン的なダメさと優しさ」+「ピンチョン、パワーズ的な想像力」という感じでなかなか良いです。ピンチョンほどうるさくなく、パワーズよりも叙情的な文体もグッド、それにして…

 『リリィ・シュシュのすべて』の「痛さ」

岩井俊二の「リリィ・シュシュのすべて」を観てきました。観る前からかなり期待していた映画でしたが、期待に違わずの内容でした。 この映画は、いわゆる最近のさまざまな少年犯罪を受けてつくられた作品で、映画のなかでバスジャック事件のことがニュースと…

 村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』について

先日、北陸に旅行にいたのですが、福井の丸岡というところの時計屋で「時計は女の心理です」という看板がありました。意味があるんだかないんだかわかりませんが、きっとないんでしょう。 “今ごろ”ですが、村上春樹の『ねじ巻き鳥クロニクル』を読みました。…

 『A.I』・デイヴィッド少年の怖さ

高田馬場の駅前に「出かけるときは、目立つ服装、正しいマナー」という標語がありますが、「目立つ服装」って何? たぶん警察が立てた看板だと思うのですが、犯罪防止のためかなんかなのでしょうか? でも、みんなが「目立つ服装」になったら、それは「目立…