著者の西川先生よりご恵贈いただきました。どうもありがとうございます。
本書は研究者のためのライフハック術を教えてくれる本で、「本書が想定している読者はどういった方々かというと、それはずばり、若手研究者、そして研究者を志望するポスドク・院生・学部生の方々です」(「はじめに」Ⅳ p)とあります。
ここでハッとします。自分は研究者でも若手でもない…と。
しかも、本書ではChatGPTや音声入力機器の活用術など、最新のデジタル技術をふんだんに取り入れたライフハック術が披露されているわけですが、自分はスマホも持っていないようなアナログ人間なんですよね…。
さらに、知的生産術的なものを特に取り入れていない人間で、過去に「在野に学問あり」のインタビューを受けたときも、役立つハウツーみたいなものを紹介できなくて申し訳なく感じていました。
というわけで、本書の内容と自分の間にはかなりのミスマッチが生じているのではないかと思われるのですが、ただ、本書の内容をどれだけ活用できるかは別にして、非常に面白く読めました。
「マツコの知らない世界」を見て、ゲストがのめり込んでいる対象についてはよくわからなくても、そのゲストのこだわりは非常に面白いといったケースがあるとも思いますが、本書もそんな感じで楽しめました。
もちろん、研究者を目指す人にとって役立つ本だと思いますが、「マツコの知らない社会科学研究者の世界」的な楽しみ方もできる本です。
どんなライフハック術が紹介されているかについては、以下の目次を見ればわかるでしょう。
第1章 論文を探す、論文を読む
1-1:論文の探し方
1-1-1:国立国会図書館サーチの活用、アラート登録など
コラム 研究費を獲得するには
1-1-2:ConsensusとConnected Papersを活用する
1-1-3:論文を入手する
1-2:論文の保存と管理
1-3:論文の効率的な読み方
1-3-1:DeepL(翻訳ツール)
1-3-2:DeepLのGoogle Chrome拡張機能を利用する
1-3-3:オンライン版DeepLを利用する
1-3-4:自分のPCでDeepLを利用する
1-4:ChatPDFやSciSpaceを使って論文を要約する
1-4-1:ChatPDF
1-4-2: 生成AIが「生成」する問題
1-4-3:SciSpace
コラム AIを研究で活用するのは倫理・法律に抵触しないのか?
1-5:論文の内容について詳しく調べる
コラム ChatGPTに画像やPDFをアップして作業する第2章 調査を行う、論文を書く
2-1:資料やメモを管理する
コラム 研究補助ツールあれこれ
2-2:クラウドワーカーと連携する―研究活動のギグ・エコノミー化?
2-3:クラウドソーシングの長所・短所
コラム ChatGPTのアドオンあれこれ
2-4:論文を書く
コラム ライターズ・ブロック
2-5:WordかLaTeXか
2-6 :デスク環境の構築・執筆用機器の選択
コラム iPadをどう使うか
2-7:音声入力で執筆する
2-7-1:音声入力技術を活用してみる:VoiceInの導入
2-7-2:VoiceInが使えない場合は?
2-7-3:音声入力に関する補足①:左手デバイスの活用
2-7-4:音声入力に関する補足②:Otterを活用したフィールドワーク
2-8:生成AIを執筆補助に活用する
2-8-1:生成AIの登場と論文執筆スタイルの変化
コラム 英語論文執筆補助ツールあれこれ
2-8-2:AI の活用方法・論文執筆で使う場合
2-8-3:GrammarlyとChatGPTの利用(英語校正ツールとして)
2-8-4:ChatGPTの活用
2-9:英文校正の会社について
コラム スクリーンショットを撮る
コラム 投稿先を見つける第3章 学会活動で使えるツール活用法
3-1:学会に加入する
コラム DAO化する学会
コラム 在野の研究者/アカデキシット
3-2:学会報告用スライドの効率的生成
3-2-1:学会報告のスライドを作る
3-2-2:スライドを生成AIで作成する
3-3:学会でメモを取る
コラム Google Chromeのアドオン
3-4:学会で名刺を配るべきか?
3-5:学会大会を運営することになったら
3-6:オンラインで学会報告するときのコツ第4 章 研究生活をマネジメントする
4-1:スケジュールを管理する
コラム メールを書く、英語で会話する
コラム ほかの研究者とコミュニケーションをとる
4-2:大学授業のデジタル化への対応
4-2-1:オンライン/オンデマンド授業のやり方
4-2-2:生成AI による不正をどのように防ぐか
4-3:授業で活用できるさまざまなツール
4-4:授業でAI を活用する
コラム サイエンス・コミュニケーション/メディアへの出演おわりに
コラム 「研究者」という生き方
ご覧の通り、論文の探し方から、さまざまなデジタル機器の使い方、英語論文の執筆の仕方、スケジュール管理、学会の選び方、学会の運営の仕方など、盛りだくさんのトピックになっています。
自分も何か試してみようと思い、「コラム スクリーンショットを撮る」で紹介されている、Chromeの拡張機能である「FireShot」を入れてみましたが、確かに備え付けのものよりもちょっと便利になりますね。
ただし、最初にも述べたように読んでいるだけでも何だか面白いのが本書の特徴で、目次を読んで「うわぁ難しそうな本だ」と思った人も、実際にページをめくってみれば読めてしまう本だと思います。
例えば、第4章の「コラム メールを書く、英語で会話する」では、英文メールを書くときの補助ソフトである「Flowrite」が紹介されていますが、それを使ってつくった「授業に遅刻したことを教授に謝罪するメールの文面」を実例を載せ、さらに「教授になぜ自分が落第したのか、理由を尋ねるメール」と、それに対する教授の返信メールも載せています。
こういうユーモアが随所にありますし、他にも「3-4:学会で名刺を配るべきか?」でも、「論文をください!とアピールしましょう」というような高い目標を言って終わるのではなく、自分の体験を交えながら、QRコード付きの名刺というテクノロジーを利用したそれほどハードルの高くないやり方を紹介しています。
このあたりは学会に行かない人にも「なるほどね〜」と思って読めるのではないでしょうか。
また、「書けなくなってしまう」ライターズ・ブロックの問題では、小説家の例なども出しながら対処法を紹介しており、研究者以外にも役立つ内容になっています。
目次を見て、これは面白そうだと思った人はぜひ読むといいと思いますし、目次を見てよくわからなかった人でも、読んでみると意外に面白く読めてしまう本だと思います。