上映時間は58分で映画にしては短いのですが、そのせいもあって最初から最後まで作画のテンションが変わらない素晴らしいアニメーションに仕上がっています。
普通は漫画をアニメ化する際に線を整理したりして、動かしやすいようにしたりするわけですが、この作品では漫画にあるザラザラしたような感じを残した作画がされています。アニメ化しにくそうな絵を動かしているという点では『海獣の子供』を思い出しました。
また、動きも良くて、多くの人が指摘していますが雨の中を藤野が走るシーンとかは非常に印象的です。
原作もネットで出た当初に読みましたが、そのときは京アニ事件への怒りとか鎮魂が全面に出ている印象でしたけど、映像になったものを見直してみると、藤野と京本という2人の関係性がより前面に出ている感じがしました。
やっぱり大きいのはキャラクターに声が入ったことで、特に京本が「藤野先生!」と呼びかけるシーンなどで活字では表せない情感が入っていたと思います。
また、音楽も漫画にはない要素ですが、これが泣かせますね。
今回、改めて見て気づきましたが、藤野と京本の関係は、松本大洋『ピンポン』におけるペコのスマイルの関係に似てますね。
自ら才能があると思っているペコは、実は才能ではスマイルが上回っていることを知って一度は卓球をあきらめるが、スマイルが自分をヒーローだと認識していることを知り血の滲むような努力をする。
このペコの姿と本作の藤野の姿は重なるわけですが、肝心なときにヒーローとして間に合ったかどうかが『ピンポン』と本作を分けています。
ただし、圧倒的な無力感に対して、もう1度フィクションの力でそれを描き直そうというのが本作の持つパワーであり、このアニメでもそれを再現することに成功しています。