『神々の山嶺』

 夢枕獏の原作を谷口ジローが漫画化し、さらにそれをフランスでアニメ化したもの。ここ最近、『犬王』とか『ピングドラム』みたいなケレン味たっぷりのアニメを見ていたから、冬山や断崖といったダイナミックな自然を堂々と見せるのは新鮮だったし、表現も上手かったです。

 

 物語は、登山写真などを撮っている雑誌カメラマンの深町が、ネパールのカトマンズで、エベレストに実は初登頂していたかもしれないと噂されるイギリス人登山家のジョージ・マロリーのカメラに出会ったことから始まります。しかし、そのカメラは数年前に姿を消した登山家・羽生と思わしき人物によって持ちされてしまいます。

 マロリーはエベレスト登頂にチャレンジして亡くなったのですが、登頂の前に亡くなったのか、成功してから亡くなったのかは謎のままで、謎を解く鍵はカメラの中のフィルムにあるかもしれないのです。

 そこで、深町はマロリーのカメラの謎と羽生がなぜ姿を消したのか? という謎を追って羽生の過去と羽生の居場所を探り始めます。

 

 このようにミステリー仕立てではあるのですが、この映画の中心にあるのは登山シーンです。壮大な雪山や、断崖絶壁といったものに己の肉体のみで挑戦する登山家の姿がリアリティをもって描かれています。

 もちろん、自然を撮るだけなら「実車の方がいいのでは?」という声もあがりそうですが、そう簡単には撮れないようなダイナミックな山の描き方ができていますし、登山家が山で感じる孤独や恐怖が、アニメならではの表現で描かれています。

 

 また、この映画では羽生の過去として70年代後半から80年代前半くらいの東京が、深町が活動している現在として90年代後半の東京が描かれていると思うのですが(ただし、深町のパートでは福島第一原発事故と思われる新聞記事がちらっと映る)、この東京の描かれ方もいいです。

 山との対比で少し平板に描かれているのですが、それがいかにも80年代の東京っぽくもあります。

 外国人の映画監督が撮る東京の面白さというのは過去の実写映画にもありましたが、本作はアニメでありながらそれがあります。

 

 他にも深町の自宅の本棚に「鉄コン筋クリート」ってタイトルの本があったり、『君の名は。』のあの階段が出てきたり(ですよね?)というのも面白かったです。

 

 そして、吹き替えで見たのですが、羽生の大塚明夫がハマっていて、先に大塚明夫というキャストがあったのではないかと思えるくらい。過去に傷を抱えながら孤独にいき続ける男を演じるのは十八番ですね。