劉慈欣『三体』

 ケン・リュウ『折りたたみ北京』などによって紹介してきた現代中国SFの大本命が登場。三部作の第一作にあたる長編ですが、なにしろ中国では三部作の合計で2100万部を売ったそうです。

 タイトルの「三体」が物理学の「三体問題」から来ていることと、『折りたたみ北京』に収録されていた「円」という短編が組み込まれていくことくらいしか予備知識をもたずに読み始めたのですが、冒頭はいい意味で裏切られました。

 

 冒頭に描かれているのは文革で糾弾される科学者の姿。この部分はリアリズム的に描かれており、文革期の狂気をストレートに見せています(中国語版は政治的な配慮からかこの部分が冒頭ではなく中盤に配置されているとのこと)。

 父を文化大革命で殺された女性科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)は、文革によって地方に追いやられ、失意の日々を過ごす中、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされるのですが、そこまではかなり政治的な匂いを感じさせます。

 

 ところが、ナノテク素材の研究者・汪淼(ワン・ミャオ)を主人公とする現代のパートになると、次々と起こる科学者の自殺、謎の会議、「三体」と呼ばれる謎のVRゲーム、史強(シー・チアン)という漫画的とも言っていい刑事と、エンタメ要素がてんこ盛りになります。

 そして、SFをの部分も、例えばイーガンのような理論に裏打ちされた驚きの展開というよりは、すごくスケールの大きな法螺話です。ただ、冒頭の文革のパートの影響もあって、その法螺話を読者に納得させます。

 この法螺話のスケールと、それを読者に納得させるすべにおいて、この小説は傑出していると言えるでしょう。

 三部作なので、最終的な評価に関しては何とも言えない部分もありますが、まずは面白いですし、とにかく続きが期待できます。

 

 

 

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