海外小説

ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』

『フリーダム』がとても面白かったアメリカの作家ジョナサン・フランゼンの長編小説になります。『フリーダム』が2009年発表の第4長編、この『コレクションズ』は2001年発表の第3長編です。 まずタイトルの「コレクションズ」ですが「Collections」ではなく…

ケン・リュウ編『月の光』

『折りたたみ北京』につづく、ケン・リュウ編の現代中国SFアンソロジーの第2弾。2段組で500ページ近くあり、しかもSF作品だけでなく、現在の中国のSFの状況を伝えるエッセイなども収録されており、盛りだくさんの内容となっています。 まず、多くの人にとっ…

陳楸帆『荒潮』

劉慈欣『三体』を筆頭に近年盛り上がりを見せている中華SFですが、この作品もその1つ。著者はチェン・チウファンと読みます(英名はスタンリー・チェン)。すでにケン・リュウ編『折りたたみ北京』を読んだ人は、そこに「鼠年」、「麗江の魚」、「沙嘴の花」…

ルーシャス・シェパード『タボリンの鱗』

一昨年に刊行されて面白かった『竜のグリオールに絵を描いた男』と同じく、全長1マイルにも及ぶ巨竜グリオールを舞台にした連作の続編。今作では「タボリンの鱗」と「スカル」の2篇を収録しており、どちらも中篇といっていいボリュームです。 グリオールは魔…

パク・ミンギュ『短篇集ダブル サイドA』

『ピンポン』や『三美スーパースターズ』という2冊の長編が非常に面白かったパク・ミンギュの短編集。この短編集は2枚組のアルバムを意識しており、『サイドA』と『サイドB』が同時に発売されていますが、とりあえず『サイドA』から読んでみました。 収録さ…

オルガ・トカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』

去年、ノーベル文学賞を受賞したポーランドの女性作家オルガ・トカルチュクの小説が松籟社の<東欧の想像力〉シリーズから刊行。訳者の解説によると解説を執筆中に受賞の報を聞いたということで、まさにタイムリーな刊行になります。 トカルチュクの小説に関…

テッド・チャン『息吹』

テッド・チャンの『あなたの人生の物語』以来17年ぶりの作品集。 すでに各所方面で絶賛されているので改めて詳しく書く必要もないかと思うほどですが、やはりテッド・チャンは優れた作家だと認識させられる作品集です。 前作の『あなたの人生の物語』に比べ…

スティーヴン・クレイン『勇気の赤い勲章』

1895年に発表された南北戦争を舞台にした戦争小説。ヘミングウェイも激賞している小説で、解説で訳者の藤井光が「二十世紀の大半を通じて、さらには今世紀に至るまでのアメリカ文学における戦争小説のひとつの「型」は、クレインのこの小説によって完成した…

マイケル・オンダーチェ『戦下の淡き光』

1945年、うちの両親は、犯罪者かもしれない男ふたりの手に僕らをゆだねて姿を消した。 これがこの小説の冒頭の一文です。この一文からもわかるようにオンダーチェの新作は非常にミステリーの要素が強いです。読み始めたときは、まずカズオ・イシグロの『わた…

ピョン・ヘヨン『モンスーン』

白水社の<エクス・リブリス>シリーズの1冊ですが、<エクス・リブリス>でも前回配本がハン・ガン『回復する人間』で今作も韓国の女性作家の短篇集。韓国文学は本当に勢いがありますね。 ハン・ガンと同じく、この『モンスーン』の作者のピョン・ヘヨンも1…

ハン・ガン『回復する人間』

ほとんどの人たちは一生のあいだ、色や形を大きく変えずに生きていく。けれどもある人たちは何度にも渡って自分の体を取り替える。(「エウロパ」87p) もちろんあたしはまだ人が信じられないし、この世界も信じていないよ。だけど、自分自身を信じないこと…

劉慈欣『三体』

ケン・リュウが『折りたたみ北京』などによって紹介してきた現代中国SFの大本命が登場。三部作の第一作にあたる長編ですが、なにしろ中国では三部作の合計で2100万部を売ったそうです。 タイトルの「三体」が物理学の「三体問題」から来ていることと、『折り…

ハーラン・エリスン『愛なんてセックスの書き間違い』

『世界の中心で愛を叫んだけもの』、『死の鳥』などの作品で知られるハーラン・エリスンの非SF作品を集めた短編集。 収録作品は以下の通り。 第四戒なし孤独痛ガキの遊びじゃないラジオDJジャッキージェニーはおまえのものでもおれのものでもないクールに行…

デニス・ジョンソン『海の乙女の惜しみなさ』

先週、レベッカ・ステイモスという聞いたことのない名前の女性から電話があり、共通の友人であるトニー・ファイドが他界したと知らされた。自殺だった。彼女が言ったように、「みずから命を絶った」。 二秒ほど、その言葉の意味が分からなかった。「絶った………

グレッグ・イーガン『ビット・プレイヤー』

最近、非常にハードなSF長編を世に送り出していたイーガンの久々の短編集。ここ最近の長編に関して、自分にはちょっと難しすぎるなと感じていて、〈直交〉三部作はスルーしていたのですが(『白熱光』まで読んだ)、今回は短編集と聞いて久々に読んでみまし…

デボラ・フォーゲル『アカシアは花咲く―モンタージュ』

松籟社〈東欧の想像力〉シリーズの1冊で、ポーランド(当時はオーストリア領)の同化ユダヤ人の家に生まれた女性作家デボラ・フォーゲルの中短編集。 〈東欧の想像力〉シリーズの前回配本はイヴォ・アンドリッチの『宰相の象の物語』というノーベル賞作家の…

ケン・リュウ『生まれ変わり』

『紙の動物園』、『母の記憶に』につづくケン・リュウの日本オリジナル短編集第3弾。相変わらず、バラエティに富んだ内容でアイディアといい、それをストーリーに落としこむ技術といい、さすがだなと思いつつも、『紙の動物園』の「文字占い師』や、『母の記…

マット・ヘイグ『トム・ハザードの止まらない時間』

主人公のトム・ハザードは見た目は40歳ほどの男ですが、実は1581年生まれで400年以上生きているという設定です。こう書くと不老不死の男の物語を想像する人もいるかもしれませんが、少し違います。 主人公は遅老症(アナジェリア)と呼ばれる病気であり、思…

キム・グミ『あまりにも真昼の恋愛』

晶文社の「韓国文学のオクリモノ」シリーズの1冊で、2009年にデビューし、若い世代から人気を得ているキム・グミの短篇集。 「韓国文学のオクリモノ」シリーズは、パク・ミンギュ『三美スーパースターズ』、ハン・ガン『ギリシャ語の時間』、ファン・ジョン…

呉明益『自転車泥棒』

短篇集『歩道橋の魔術師』が非常に面白かった台湾の作家・呉明益の長編。 作家である主人公が父の失踪とともに消えた自転車を探す物語で、出だしは無口な父をはじめとする主人公の家族と、家族の暮らしていた台北の中華商場(「歩道橋の魔術師」でも舞台とな…

イヴォ・アンドリッチ『宰相の象の物語』

松籟社<東欧の想像力>シリーズの新刊はボスニア出身のノーベル賞作家イヴォ・アンドリッチの中篇と短篇を集めたもの。 収録作品は「宰相の象の物語」、「シナンの僧院(テキヤ)に死す」、「絨毯」、「アニカの時代」の4篇。「宰相の象の物語」と「アニカ…

ミロスラフ・ペンコフ『西欧の東』

1982年にブルガリアで生まれたミロスラフ・ペンコフの短篇集。ペンコフは2001年にアメリカに渡り心理学などを学んだあとに創作活動に入っており、この作品も英語で書かれています。 東欧の作家というとダニロ・キシュなんかをはじめとして一文が長いひねった…

ルーシャス・シェパード『竜のグリオールに絵を描いた男』

ハヤカワでも創元でもなく竹書房文庫から出ている本でまったくのノーマークでしたが、ネットで評判を聞いて読んでみたら、これは面白かった! 裏表紙の解説は次の通り。 全長1マイルにもおよぶ、巨大な竜グリオール。数千年前に魔法使いとの戦いに敗れた彼は…

 リチャード・フラナガン『奥のほそ道』

映画『戦場にかける橋』の舞台となった日本による泰緬鉄道の建設。映画を見た人ならご存知の通り、過酷な現場の中で工事に携わった多くの捕虜たちが命を落としました。 この本は、そのような泰緬鉄道建設の地獄のような現場をオーストラリア人捕虜と日本人(…

 ファン・ジョンウン『誰でもない』

私はつまらないものを好む方ですが、人間をつまらないものと見なす社会全体の雰囲気が人々のことばに現れているのを目撃することは、どうにも、わびしいことです。 これはこの本の最後の「日本の読者の皆さんへ」に置かれている著者の言葉ですが、この短篇集…

 ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』

国書刊行会<ドーキー・アーカイヴ>シリーズの第5弾『さらば、シェヘラザード』は、第4弾のマイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』に引き続いての作家(ライター)主人公に据えたメタフィクション。『誰がスティーヴィ・クライを造…

 ハン・ガン『ギリシャ語の時間』

ときどき、不思議に感じませんか。私たちの体にまぶたと唇があるということを。それが、ときには外から封じられたり 中から固く閉ざされたりするということを。(192p) パク・ミンギュの『三美スーパーズターズ』が面白かったので、同じ晶文社の「韓国文学…

 ケン・リュウ編『折りたたみ北京』

副題に「現代中国SFアンソロジー」とあるように、現代の中国SFの短編を『紙の動物園』や『母の記憶に』のケン・リュウがセレクトし英訳したものの日本語訳となります。 収録作品は以下の通り。 序文 中国の夢/ケン・リュウ 鼠年/陳楸帆 麗江の魚/陳楸帆 沙嘴…

 イタロ・カルヴィーノ『最後に鴉がやってくる』

国書刊行会、<短篇小説の快楽>シリーズの完結編は、『木のぼり男爵』、『見えない都市』などのポスト・モダン的とも言える作風で知られるカルヴィーノの初期の短篇集。 <短篇小説の快楽>は第一弾のウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』が出たのが2007…

 マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』

国書刊行会<ドーキー・アーカイヴ>シリーズの第4弾。 <ドーキー・アーカイヴ>シリーズはかなり期待していたのですが、今までに刊行された『虚構の男』、『人形つくり』、『鳥の巣』は、それぞれ面白いものの爆発的に面白い!とまでは言えず…。そのため、…