ミン・ジン・リー『パチンコ』

 以前から話題の本でしたが、今回、文庫化されたので読んでみました。上下巻で、上巻の裏表紙の紹介文は以下の通りです。

 

 日韓併合下の釜山沖の小さな島、影島。下宿屋の娘、キム・ソンジャは、粋な仲買人のハンスと出会い、恋に落ちて身籠るが、実はハンスには妻子がいた。妊娠を恥じる彼女に牧師のイサクが手を差し伸べる。二人はイサクの兄が住む大阪の鶴橋へ。しかし過酷な日々が待ち受けていた――。全世界で共感を呼んだ大作、ついに文庫化

 

 いかにも大河ラブロマンスといった感じの内容紹介ですが、前半は主人公のソンジャのラブロマンス、後半は戦後の在日コリアンの世界を描いた作品という感じです。

 物語は日本による韓国併合が行われた1910年から始まり(ただし主人公のソンジャが生まれたのは1915年くらい?)、1989年に終わります。

 

 物語の中心はソンジャから、その子のノアとモーザス、モーザスの子のソロモンへと移っていきますが、ソンジャを身籠らせたハンスが日本での闇取引でのし上がっていったり、途中では北朝鮮の帰国事業の話が出てきたりと、在日コリアンの体験と家族の歴史が重ねられています。

 

 早稲田大学に進学したノアが、ガールフレンドの晶子から「コリアンに偏見を持ってない」というふうに言われて傷つくシーンとか、日本で理不尽な目に会いながらもアメリカ育ちのコリアンのガールフレンドに日本のことを悪く言われて反発するソロモンの描き方などは上手いと思います。

 

 ただし、この小説に対する不満はタイトルの「パチンコ」について突っ込んで描かれていないところですね。

 モーザスはパチンコ店の経営で成功していくのですが、本書では1945年の敗戦後は1949年に飛んでいるために、パチンコ黎明期とコリアンの関係といったものは描かれていませんし、パチンコ台の発展や法規制や警察との関係も描かれてはいません。

 

 モーザスの友人の外山春樹が警察官になるので、規制する側とされる側の話が出てくるのかと思いましたが、そういうふうには発展しませんでした(春樹については物語の後半で1つの秘密が描かれるのですが、この話を入れる必然性のようなものはよくわからなかった)。

 

 大河ストーリーとしては面白く読めますし、在日コリアンの歴史を知るという点でも悪くない小説ですが、タイトルに「パチンコ」を掲げるのであれば、もうちょっとパチンコに踏み込んでほしかったですね。