柴崎友香『寝ても覚めても』

読み始めたときは随分とちぐはぐな印象の小説だなと思いつつも、最後まで読むと「そういうことだったのか!」となる小説。 主人公に感情移入できる人は少ないかもしれませんし、読むのがやめられなくなる小説とかではないのですが、最後のゾワゾワっとする展…

Wet Leg / Wet Leg

CD

リアン・ティーズデールとヘスター・チャンバースからなるUKの女性二人組のバンドのデビューアルバム。 音はスカスカ気味でローファイな感じで、特に複雑なことはやっていないんですけど、メロディと二人のボーカルがいいですね。 ちょっとやさぐれた感じの…

マーガレット・アトウッド『侍女の物語』

ちょっと前に読み終えていたのですが、感想を書く機会を逸していました。有名な作品ですしここでは簡単に感想を書いておきます。 舞台はギレアデ共和国となっていますが、どうやら近未来のアメリカで、出生率の低下に対する反動からか、何よりも生殖が優先さ…

瀧井一博『大久保利通』

副題は「「知」を結ぶ指導者」。 以前著者の書いた『伊藤博文』(中公新書)の副題が「知の政治家」だったことを覚えている人は「また知なのか?」と思うかもしれませんし、大久保をそれなりに知っている人からしても大久保に「知」という特徴を当てはめるこ…

『ブレット・トレイン』

原作は伊坂幸太郎の『マリアビートル』、日本の新幹線を舞台にしたアクションもので主演はブラッド・ピットという作品。 新幹線に乗り合わせた殺し屋たちが、大金の入ったブリーフケースをめぐって争うというストーリーですが、そこにはさまざまな思惑や因縁…

池内恵、宇山智彦、川島真、小泉悠、鈴木一人、鶴岡路人、森聡『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』

東京大学出版会から刊行されている「UP plus」シリーズの1冊で、形式としてはムックに近い形になります。 このシリーズでは川島真・森聡編『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』を読んだことがありますが、『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』…

『NOPE/ノープ』

人を襲っているらしきチンパンジーの姿が写り、さらに画面が変わって黒人の親子が牧場で馬の調教をしていると、空模様が怪しくなり、空からコインが降ってきて父の頭に直撃して父が亡くなる。 これがこの映画の冒頭のシーンで、監督のジョーダン・ピールにつ…

Stars / From Capelton Hill

CD

Stars、5年ぶり9枚目のアルバム。 1stアルバムのリリースが2001年で、もう20年以上のキャリアがあるバンドですが、1曲目の"Palmistry"から、いかにもStarsなメロディとサウンドです。2曲目の"Pretenders"もそう。"Palmistry"がTorquilメインで、"Pretenders"…

ケネス・盛・マッケルウェイン『日本国憲法の普遍と特異』

「75年間、1文字も変わらなかった世界的に稀有な憲法典」 これは、本書の帯に書かれている言葉ですが、今まで存在した成文憲法中、改正されないままに使われている長さにおいて、日本国憲法は1861年に制定されイタリア憲法に続いて歴代第2位です。日本国憲法…

『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編] 僕は君を愛してる』

前編を見た時に、TVシリーズを見ていたはずなのに全然展開を思い出せなかったと書きましたが、後編もそう。いくつかのシーンは見ながら思い出したのですが、特に冠葉と晶馬の子ども時代の教団でのシーンとかは「これってあったっけ??」という感じで、11年…

村田沙耶香『コンビニ人間』

本当に今更という感じで読んだのですが、この小説は文体がすおくいいですね。 マニュアルによって規定されているコンビニに過剰適応した36歳の独身女性の古倉恵子が主人公で、設定自体は思いつきそうですが、それをこういった作品にまで仕上げる腕はさすがだ…

木山幸輔『人権の哲学』

本書の書き出しは次のようなものです。 本書の目的は、人権に確定性を与えつつ、当該概念を適切に正当化する、そうした構想を提示することにある。より具体的にいえば、本書の目的は、人権の適切な構想として自然本性的構想、なかんずく二元的理論と本書が呼…

デイヴ・ハッチソン『ヨーロッパ・イン・オータム』

帯には「ジョン・ル・カレ×クリストファー・プリースト」とありますが、まさにそんな作品です。 舞台となっているのは近未来のヨーロッパなのですが、経済問題や難民問題、さらに「西安風邪」と呼ばれるパンデミックが起こったことで、人口が減少し、国境管…

Vance Joy / In Our Own Sweet Time

CD

オーストラリア出身のSSWの3rdアルバム。デビュー作から聴いていますが、メロディーの良さと引き出しの多さが特徴で、今作も飽きさせない中身になっています。 例えば、2曲目の"Solid Ground"なんかがいかにもVance Joyっぽい曲だと思いますが、決して派手な…

川中豪『競争と秩序』

副題は「東南アジアにみる民主主義のジレンマ」。フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポールの5カ国を比較しながら、安定した民主主義には何が必要なのかということを探っています。 民主主義を語る時に引き合いに出されるのは欧米の、いわ…

『神々の山嶺』

夢枕獏の原作を谷口ジローが漫画化し、さらにそれをフランスでアニメ化したもの。ここ最近、『犬王』とか『ピングドラム』みたいなケレン味たっぷりのアニメを見ていたから、冬山や断崖といったダイナミックな自然を堂々と見せるのは新鮮だったし、表現も上…

松沢裕作『日本近代社会史』

副題は「社会集団と市場から読み解く 1868-1914」。 タイトルにあるように「近代」の「社会史」なのですが、副題にあるように「社会集団」(身分集団)と「市場」の関わりを軸にして、明治から第1次世界大戦が始まるまでの社会の変容を描いています。 著者の…

『ベイビー・ブローカー』

是枝裕和監督が、韓国を舞台に韓国人俳優のキャスト、スタッフで作った映画。ソン・ガンホ、ペ・ドゥナなどの大物キャストを揃えて、日本人俳優は一切作っていませんが、それでも非常に是枝監督らしい作品に仕上がっています。 日本にもある「赤ちゃんポスト…

カン・ファギル『大丈夫な人』

白水社の<エクス・リブリス>シリーズから出た1986年生まれの韓国の女性作家の短編集。 以前、キム・グミの短編集『あまりにも真昼の恋愛』を読んだときに、いくつかの短編は「ホラーだ!」って思ったのですが、このカン・ファギル『大丈夫な人』はほぼ完全…

『PLAN 75』

75歳以上が自ら生死を選択できる制度(PLAN 75)が国会で可決された近未来の日本という設定は、正直なところセンセーショナルだけど平凡ですし、冒頭で相模原の障害者殺傷事件の植松被告を思わせる人物が登場するのも平凡です。 ですから、見始めたときは「…

The Smile / A Light for Attracting Attention

CD

Radioheadのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッド、そして Sons Of Kemetのトム・スキナーからなるバンド・The Smileのデビューアルバム。 ここ最近のRadiohead のアルバムに比べるとやや明るい感じで、ポップよりな印象も受けますが、プロデューサーがい…

北村亘編『現代官僚制の解剖』

2019年に出版された青木栄一編著『文部科学省の解剖』は、過去に村松岐夫が中心となって行った官僚サーベイ(村松サーベイ)を参考に、文部科学省の官僚に対して行ったサーベイによって文部科学省の官僚の実態を明らかにしようとしたものでした。 本書は、そ…

『犬王』

見終わった最初の感想は「これはクイーンであり、犬王はフレディ・マーキュリーだ」ということ。映画の中のかなりの時間をステージのシーンが占めているのですが、それがとにかく過剰。 湯浅政明監督は、アニメならではのさまざまな効果を存分に使って作品を…

ファン・ジョンウン『年年歳歳』

短編集『誰でもない』が面白かったファン・ジョンウンの長編で、韓国で2020年に「小説家50人が選ぶ今年の小説」にも選ばれているとのことです。 この小説を書くことになったきっかけは、著者が順子(スンジャ)という女性に数多く会ったことだといいます。19…

Kendrick Lamar / Mr. Morale & The Big Steppers

CD

Kendrick Lamarの5年ぶりのニューアルバム。「ザ・ビッグ・ステッパー」と「ミスター・モーラール」というタイトルの2枚組の構成という形になっています。 「DAMN.」がアルバム全体を通じてやや重苦しいムードがあったのに対して、今作はトラックもバラエ…

郝景芳『流浪蒼穹』

短編「折りたたみ北京」や長編の『1984年に生まれて』で知られる郝景芳のデビュー作にして、本格的な火星SFとなっています。 裏表紙に書かれた紹介は次のようになっています。 22世紀、地球とその開発基地があった火星のあいだで独立戦争が起き、そして火星…

リン・ハント『人権を創造する』

タイトルからして面白そうだなと思っていた本ですが、今年になって11年ぶりに重版されたのを機に読んでみました。 「人権」というのは、今生きている人間にとって欠かせないものだと認識されていながら、ある時代になるまでは影も形もなかったという不思議な…

『シン・ウルトラマン』

いろいろと賛否両論あるみたいですが、個人的には面白かったです。 なんといっても山本耕史のメフィラス星人は最高ではないですか。ここ最近の実写のキャラの中ではピカイチと言ってもいいくらいで、「私の好きな言葉です」のセリフといい、このキャスティン…

Fontaines D.C. / Skinty Fia

CD

アイルランド・ダブリン出身のバンドの3rdアルバム。ジャンルとしてはポスト・パンクで、前作の「A Hero's Death」から聞き始めてます。 とにかく非常に雰囲気の良いバンドだと思ったのだけど、この手のバンドの難しさは雰囲気の良さで押せるのは最初だけで…

『RE:cycle of the PENGUINDRUM [前編] 君の列車は生存戦略』

昨年、放送から10周年を迎えたTVアニメ「輪るピングドラム」の劇場版。 子ども姿で記憶をなくしている冠葉と晶馬が池袋のサンシャイン水族館で不思議な赤ちゃんペンギンに出会うところから映画はスタートします。TV版の最終回で冠葉と晶馬は子どもの姿になっ…