『TENET テネット』

クリストファー・ノーランの新作は時間の逆行というアイディアを取り入れたSFもの。映画の中にありえない世界を作り上げるという点では『インセプション』に似ていますが、やろうとしていることはさらにややこしいです。 緻密なんだか大ボラなんだにわかには…

駒村圭吾・待鳥聡史編『統治のデザイン』

憲法というと、どうしても日本では9条と人権をめぐる条項に注目が集まりがちですが、国会、内閣、裁判所、地方自治といった日本の統治のしくみを決めているのも憲法です。 ケネス・盛・マッケルウェインは日本国憲法が他国の憲法に比べて条文数も文字数も少…

ファトス・コンゴリ『敗残者』

松籟社<東欧の想像力>シリーズの最新刊。今回はアルバニアの最重要作家とされるファトス・コンゴリのデビュー作になります。 この小説は主人公のセサルが、1991年にアルバニアからイタリアへと脱出する船に乗りながら、土壇場で船降りて故郷に戻ってしまう…

Yves Tumor / Heaven To A Tortured Mind

CD

一昨年に出たアルバム「Safe In The Hands Of Love」がなかなか面白かったイヴ・トゥモアのニューアルバム。 より複雑なことをやってやろうというアーティストが目立たなくなったような気がするこのごろですが、このYves Tumorはひたすら複雑で変態的なこと…

藤田覚『日本の開国と多摩』

『勘定奉行の江戸時代』(ちくま新書)など、江戸時代の政治史を中心に数々の著作を発表してきた著者が開国が東京の多摩地域に与えた影響をまとめた本。「あとがき」によると、八王子市の市史編纂事業に関わるようになったことがきっかけで本書をまとめたと…

ケイト・ウィルヘルム『鳥の歌いまは絶え』

60〜70年代に活躍した女性SF作家の代表作が創元SF文庫で復刊されたので読んでみました。 3部仕立てになっており、第1部は終末もの、第2部は終末+ディストピア、第3部になるとほぼディストピアものといった感じになります。 ヴァージニア州の渓谷に住むサムナ…

コロナと読書

タイトルからするとコロナ禍の中での読書生活の記録みたいに思えますが、そうではなくて、1学期も終わって少し落ち着いたところで、新型コロナウイルス問題を考える上で参考になった本をいくつかあげておこうというエントリーです。 とは言っても、医学的な…

Phoebe Bridgers / Punisher

CD

アメリカLA出身の女性シンガーソングライターPhoebe Bridgersの2ndアルバム。ちなみにこのエントリーを書く直前まで気づきませんでしたけど、Bright Eyesのコナー・オバーストがやっていたBetter Oblivion Community Centerの人ですね。 最初にこのアルバム…

待鳥聡史『政治改革再考』

平成という時代の政治を振り返ってみると、「改革」という言葉が飛び交い、実際に「改革」が行われた時代であったと言えるでしょう。小選挙区比例代表並立制が導入された選挙制度改革と、省庁再編、地方分権、司法改革、さらには日銀法の改正と、憲法の改正…

マーク・マゾワー『国連と帝国』

授業で国連とかのことを話すときに、「なにか面白い本はないか?」と探していたら、『暗黒の大陸』のマーク・マゾワーが本書『国連と帝国』を出していたことを思い出して、さらに古本がネットで安く買えたので読んでみました。 中学・高校生向けの授業のネタ…

Polly Scattergood / In This Moment

CD

イギリスの女性シンガーPolly Scattergoodの3rdアルバム。日本だとそんなに知名度はないと思いますが、儚さと力強さが入り交じるような声は非常に好きで、デビューアルバムから全部聴いています。 デビューアルバムを紹介したときに「Emmy The Greatよりもシ…

劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』

『三体』の続編が上下巻で登場。今回は宇宙艦隊も登場し、話はますますスケールアップしていきます。 前作では3つの太陽のある惑星系に住む三体人の存在が明かされ、その三体人が地球を狙って大艦隊を送り込むという展開になっていました。しかも三体人は智…

アビジット・V・バナジー& エステル・デュフロ『絶望を希望に変える経済学』

2019年にノーベル経済学賞を受賞した2人(マイケル・クレーマーも同時受賞)による経済学の啓蒙書。2人の専門である開発分野だけでなく、移民、自由貿易、経済成長、地球温暖化、格差問題と非常に幅広い問題を扱っています。 著者らが得意とするのはRCT(ラ…

ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』

『フリーダム』がとても面白かったアメリカの作家ジョナサン・フランゼンの長編小説になります。『フリーダム』が2009年発表の第4長編、この『コレクションズ』は2001年発表の第3長編です。 まずタイトルの「コレクションズ」ですが「Collections」ではなく…

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

『若草物語』は未読なのですが、2018年の個人的ベスト映画『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督+主演シアーシャ・ローナンということで見てきましたが、これも良い作品でしたね。 舞台は南北戦争当時のアメリカ・マサチューセッツ。メグ、ジョー、リ…

田野大輔『ファシズムの教室』

長年、大学で「ファシズムの体験授業」を行っていた著者による授業実践の記録になります。履修している学生たちに、白いシャツを着せ、「ハイル、タノ!」と叫ばせ、キャンパスにいるリア充(サクラ)を糾弾するというユニークでインパクトのある授業はWeb記…

Badly Drawn Boy / Banana Skin Shoes

CD

Badly Drawn Boy、その名前に懐かしさを感じる人もけっこういるかもしれません。 U.N.K.L.E.の「Psyence Fiction」にトム・ヨークやリチャード・アシュクロフトらとともにゲストとして参加して"Nursery Rhyme Breather"で鮮烈な印象を残し、2000年の1stアル…

伊藤修一郎『政策実施の組織とガバナンス』

副題は「広告景観規制をめぐる政策リサーチ」。タイトルと副題からは面白さは感じられないかもしれまえんが、「なぜ守られないルールがあるのか?」「なぜ政策は失敗するのか?」といった問いに変形すると、ちょっと興味が湧いてくるかもしません。 そして、…

Car Seat Headrest / Making a Door Less Open

CD

一昨年でたアルバム「Twin Fantasy」が非常に良かったCar Seat Headrestの新作。Car Seat Headrestはシアトルのアーティスト、ウィル・トレドによるプロジェクトで、バンド編成になってからはこれが3枚目になるのだと思います。 「Twin Fantasy」は10分超え…

酒井正『日本のセーフティーネット格差』

副題は「労働市場の変容と社会保険」。この書名と副題から「非正規雇用が増える中で社会保険がセーフティーネットの役割を果たせなくなってきたことを指摘している本なのだな」と想像する人も多いでしょう。 これは間違いではないのですが、本書は多くの人の…

ケン・リュウ編『月の光』

『折りたたみ北京』につづく、ケン・リュウ編の現代中国SFアンソロジーの第2弾。2段組で500ページ近くあり、しかもSF作品だけでなく、現在の中国のSFの状況を伝えるエッセイなども収録されており、盛りだくさんの内容となっています。 まず、多くの人にとっ…

宮本浩次 / 宮本、独歩。

CD

けっこう前にNHKの「うたコン」で聴いた"冬の花"が良かったこともあってアルバムを買いましたが、やはりなかなかいいですね。 このアルバムの魅力は何と言っても宮本浩次の歌唱力。エレファントカシマシ時代から良かったわけですけど、このソロアルバムでは…

谷口将紀『現代日本の代表制民主政治』

本書では1ページ目にいきなり下のようなグラフが掲げられており、「この図が、本書の到達点、そして出発点である」(2p)と述べられています。 グラフのちょうど真ん中の山が有権者の左右イデオロギーの分布、少し右にある山が衆議院議員の分布、そしてその…

陳楸帆『荒潮』

劉慈欣『三体』を筆頭に近年盛り上がりを見せている中華SFですが、この作品もその1つ。著者はチェン・チウファンと読みます(英名はスタンリー・チェン)。すでにケン・リュウ編『折りたたみ北京』を読んだ人は、そこに「鼠年」、「麗江の魚」、「沙嘴の花」…

ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン『自由の命運』

『国家はなぜ衰退するのか』のコンビが再び放つ大作本。「なぜ豊かな国と貧しい国が存在するのか?」という問題について、さまざまな地域の歴史を紐解きながら考察しています。 と、ここまで聞くと前著を読んだ人は「『国家はなぜ衰退するのか』もそういう話…

Ásgeir / Bury The Moon

CD

アイスランド出身のシンガーソングライターÁsgeirの3rdアルバム。 前作の「Afterglow」は曲調が広がったぶん、Ásgeirらしい浮遊感のようなものが後退してしまっていて、何回か聴くにつれ「やっぱ1stの「In the Silence」のほうが良かったなあ」などと思って…

外山文子『タイ民主化と憲法改革』

ここ数年、欧米ではポピュリズムの嵐が吹き荒れています。「ポピュリズム」がいかなるものかということに関してさまざまな議論がありますが、「法の支配」や「司法の独立」といった概念への攻撃がその特徴としてあげられることがあります。 これはリベラル・…

Olivia Henry / Expectations

CD

日本語の情報があまりないので詳しいプロフィールはわからないのですが、ロサンゼルスで活動しているシンガーで、ちょっとジャズっぽさも入ったオルタナポップという感じでしょうか。公式ページの紹介ではFlorence & The MachineやAmy Winehouseが引き合いに…

パク・ミンギュ『短篇集ダブル サイドB』

先日紹介したパク・ミンギュ『短篇集ダブル サイドA』に引き続き、もう1冊の『サイドB』も読んでみました。 morningrain.hatenablog.com 『サイドA』はリアリズムから不条理系のSFまで、とにかくパク・ミンギュの引き出しの広さに驚かされましたが、この『サ…

『レ・ミゼラブル』

ヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』の舞台ともなったパリ郊外のモンフェルメイユを舞台にした映画で、タイトルはそこから。ミュージカル映画ではありません。 このモンフェルメイユ、「郊外」というキーワードからピンときた人もいるかも知れませんが、…