羅芝賢・前田健太郎『権力を読み解く政治学』

『番号を創る権力』の羅芝賢と『市民を雇わない国家』の前田健太郎による政治学の教科書。普段は教科書的な本はあまり読まないのですが、2010年代の社会科学においても屈指の面白さの本を書いた2人の共著となれば、これは読みたくなりますね。 morningrain.h…

チョン・イヒョン『優しい暴力の時代』

1972年生まれの韓国の女性作家の短編集。河出文庫に入ったのを機に読みましたが、面白いですね。 「優しい暴力の時代」という興味を惹かれるタイトルがつけられていますが、まさにこの短編集で描かれている世界をよく表していると思います。 「優しい暴力」…

Beirut / Hadsel

CD

去年出たBeirutのニューアルバム。Beirutのファンであれば1曲目の"Hadsel"の感想の♪タラリラタラリラ♪というホーンの部分だけで満足できるのではないでしょうか? 僕は満足しました。 アルバムタイトルの「Hadsel」はノルウェーのハドセル島という島の名前か…

デイン・ケネディ『脱植民地化』

オックスフォード大学出版局のVery Short Introductionシリーズの1冊。ちょっと前に読み終わっていましたが、簡単にメモしておきたいと思います。 タイトル通り、「脱植民地」をテーマにした入門書ですが、本書は「脱植民地化」を広い視点で捉え直しています…

『夜明けのすべて』

「カムカムエヴリバディ」の安子ちゃん(上白石萌音)とみのるさん(松村北斗)が主演ということでさわやかな恋愛ものを想像する人も多いでしょう。実際、映画の日ということもあって女子高生二人組とかも見に来ていました。 まったく恋愛要素が必要ないドラ…

カン・ファギル『大仏ホテルの幽霊』

著者のカン・ファギルは1986年生の韓国の女性作家で、同じ〈エクス・リブリス〉シリーズで短編集の『大丈夫な人』が出ています。 『大丈夫な人』は「ホラー」といってもいいような作品が並んだ短編集で、血しぶきが飛ぶようなことはないものの、じわじわ…

中田潤『ドイツ「緑の党」史』

ヨーロッパの政治シーンにあって、日本の政治シーンではほぼ存在感がない政治勢力に「緑」があげられると思います。 その「緑」の中でも、特にドイツの緑の党は以前から存在感を持っており、現在のショルツ政権では与党の一角を担っています。 この緑の党の…

羊文学 / 12 hugs (like butterflies)

CD

羊文学の昨年でた4枚目のアルバム。 3枚目の「our hope」と同じく2曲目にシングル曲がきて、終盤でもう1回盛り上がりがくる構成でアルバムとしては同じテイストの印象を受けます。 比較すると、2曲目の”more than words”は前作の2曲目の”光るとき”に及ばない…

『哀れなるものたち』

この作品については以前アラスター・グレイによる原作小説を読んでいて、映画化という話を聞いたまず最初の感想は、「あの話を映画化できるの?」というものでした。 以前のブログ記事では、原作小説のあらすじを次のように紹介しています。 怪人的な容貌を…

西川賢『社会科学研究者のためのデジタル研究ツール活用術』

著者の西川先生よりご恵贈いただきました。どうもありがとうございます。 本書は研究者のためのライフハック術を教えてくれる本で、「本書が想定している読者はどういった方々かというと、それはずばり、若手研究者、そして研究者を志望するポスドク・院生・…

アンソニー・ドーア『すべての見えない光』

これは巧い小説。 設定だけを見ると、ありがちというか、どこかで誰かが思いついていそうな設定なんだけど、それをここまで読ませる小説に仕上げているのは、アンソニー・ドーアの恐るべき腕のなせる技。文庫で700ページを超える分量ですが、読ませますね。 …

『窓ぎわのトットちゃん』

遅ればせながら見てきました。 評判通りウェルメイドな映画で、アニメの画も演出も非常にレベルが高い。 昭和の児童画などを参考にしたキャラクターデザインもいいですし、そのキャラがきちんと成長していくところもよくできています。何回かそれまでのトー…

細谷雄一編『ウクライナ戦争とヨーロッパ』

東京大学出版会のU.P.plusシリーズの1冊でムック形式と言ってもいいようなスタイルの本です。 このシリーズからは池内恵、宇山智彦、川島真、小泉悠、鈴木一人、鶴岡路人、森聡『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』が2022年に刊行されていますが、『ウクライナ…

横山智哉『「政治の話」とデモクラシー』

よく「政治と宗教の話はタブー」と言われます。一方で、市民として政治に関心を持つことは重要だと言われ、「政治についてもっと話し合うべきだ」とも言われます。一体、われわれは政治の話をどう扱えばいいのでしょうか? そして、そもそも「「政治の話」と…

2023年の紅白歌合戦を振り返る

TV

新年初日から能登半島で大きな地震があって、「今年はどうなってしまうのか…」という状況ですが、今できることをやるしかないので、毎年恒例の紅白歌合戦の振り返りを行いたいと思います。 今年の山場はなんといってもYOASOBIの「アイドル」における、「オー…

2023年の映画

今年はけっこう映画を見た。ただし、その要因は、長女の習い事で暇になってしまった次女を連れ出すためのものが多く、『アイカツ! 10th STORY 未来へのSTARWAY』、『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』、『仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』(同時…

2023年の本

今年は読むペースはまあまあだったのですが、ブログが書けなかった…。 基本的に新刊で買った本の感想はすべてブログに書くようにしていたのですが、今年は植杉威一郎『中小企業金融の経済学』(日本BP)、川島真・小嶋華津子編『習近平の中国』(東京大学出…

2023年ベストアルバム

CD

毎年やっているので一応やりますが、今年もあんま枚数聞けてない+11月末のチバユウスケの訃報で、そこからチバユウスケ追悼月間になってしまって、ブログでの紹介もできませんでした。 本当はMr.Children「miss you」やSufjan Stevens「Javelin」も買ったの…

トマ・ピケティ『資本とイデオロギー』

本書を「『21世紀の資本』がベストセラーになったピケティが、現代の格差の問題とそれに対する処方箋を示した本」という形で理解している人もいるかもしれません。 それは決して間違いではないのですが、本書は、そのために人類社会で普遍的に見られる聖職者…

『屋根裏のラジャー』

公開2週目にして、シネコンではけっこう小さめの劇場になってしまっていますが、同じスタジオポノックの前作『メアリと魔女の花』に比べると、かなりいいと思います。 『メアリと魔女の花』の大きな欠点であった、魅力的な脇のキャラクター(特に人間以外)…

ルーシャス・シェパード『美しき血』

全長1マイルにも及ぶ巨大な巨竜グリオールを舞台にしたシリーズ最後の長編にして、ルーシャス・シェパードの遺作と思われる作品になります。 巨大な竜が出てくるということで、ジャンルとしてはファンタジーに分類されるのでしょうが、前作の『タボリンの鱗…

五十嵐元道『戦争とデータ』

副題は「死者はいかにして数値になったか」。 本書の序章の冒頭では、著者がボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争における死者を調べていて、20万人という数字と10万人という数字が出てきたというエピソードが紹介されています。 死者数というのは戦争の悲惨さを…

『ゴジラ−1.0』

まず、『シン・ゴジラ』の後で、それとかぶらないようにしてきた戦略は上手い。 舞台を現代にすればどうしても『シン・ゴジラ』と比較されるし、また、政治を出しても『シン・ゴジラ』と比較されてしまうでしょう。そして、おそらく山崎貴監督は政治とかを描…

『キリエの歌』

アイナ・ジ・エンドが主演で、そのバディ的な役として広瀬すずが出ているという情報を聞き、一種の青春音楽映画を想像しながら見に行ったら、かなりガッツリとした震災映画でもありました。 上映時間が3時間近くある作品になっていますが、これは同じ岩井俊…

東浩紀『訂正可能性の哲学』

『ゲンロン0 観光客の哲学』の続編という位置づけで、第1部は『観光客の哲学』で提示された「家族」の問題を、本書で打ち出される「訂正可能性」という考えと繋げていく議論をしていきますが、第2部は『一般意志2.0』の続編ともいうべきもので、『一般意思2.…

Royal Blood / Back To The Water Below

CD

前作の「Typhoons」が良かったベース/ヴォーカルとドラムという2人組のロックバンドRoyal Blood のニューアルバム。これが4枚目になります。 この手のバンドはどうしても「1stはよかったけど、だんだんネタが無くなって…」となりやすいのですが、このRoyal …

パク・ミンギュ『カステラ』

『ピンポン』、『三美スーパースターズ』などで知られている韓国の作家パク・ミンギュの短編集で、パク・ミンギュが初めての翻訳にもなります。 本書の訳者あとがきでは、訳者の1人が日本では本屋に行っても韓国人作家の本がほとんど並んでいないことを嘆い…

須田努・清水克行『現代を生きる日本史』

『幕末社会』(岩波新書)の須田努と、『喧嘩両成敗の誕生』(講談社選書メチエ)や『戦国大名と分国法』(岩波新書)などの清水克行の2人が、縄文から現代に至るまでの「日本史」を語った本になります。 もともとは明治大学の文学部史学科以外の学生を対象…

Anjimile / The King

CD

マラウイ共和国にルーツをもつボストン出身のノンバイナリーのアーティスト、Anjimile(アンジマリ)の2ndアルバム。 前作の「Giver Taker」は基本的にはフォークと言う感じで、静かで内省的なアルバムでしたが、今作はそのイメージを大きく打ち破ってきてい…

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』

『ジョン・ウィック』シリーズは第1作をレンタルで見た記憶しかなくて、今作も「どうしようかな?」と思っていたのですが、日本を舞台にしていて、ハリウッドが描くトンチキな日本の姿が出てくると知って観に行ってきました。 そうしたら、道頓堀のネオンか…