呉明益『雨の島』

昨年は、『複眼人』、『眠りの航路』ときて、さらにこの『雨の島』と刊行ラッシュとなった台湾の作家・呉明益。『歩道橋の魔術師』や『自転車泥棒』が文庫化され、売れ方はわからないのですが完全にブレイクした感じですね。 ただ、これだけ翻訳が続いても読…

『クライ・マッチョ』

クリント・イーストウッド、91歳にして監督と主演を務めた作品。 舞台は1980年、かつてはロデオ界のスターだったが、落馬事故をきっかけに落ちぶれた年老いたカウボーイのマイク(クリント・イーストウッド)は、かつての雇用主で恩人でもある人物に「メキシ…

松林哲也『政治学と因果推論』

新しく刊行が始まった岩波の「シリーズ ソーシャル・サイエンス」の1冊。このシリーズは筒井淳也『社会学』も読みましたが(本書のあとに紹介記事を書く予定)、どちらも面白く期待が持てますね。 ここ数年、因果推論に関する本がいくつも出ており、基本的に…

『決戦は日曜日』

宮沢りえが2世議員を、窪田正孝がその秘書を演じた選挙をテーマにした映画。社会科の教員としては見ておかねばと思って見に行ってきました。 谷村(窪田正孝)は、地方都市に地盤を持ち民自党で防衛大臣も務めたことがある(映画中で言及はないけどかなりの…

小林悠太『分散化時代の政策調整』

著者の博論をもとにした本で副題は「内閣府構想の展開と転回」。興味深い現象を分析しているのですが、なかなか紹介するのは難しい本ですね。 タイトルの「分散化時代」と言っても「そんな言葉は聞いたことがないし、何が分散したんだ?」となりますし、「政…

劉慈欣『円 劉慈欣短篇集』

『三体』でスケールの大きなアイディアとストーリーテリングの上手さを存分に示した劉慈欣の短編集。 収録作は以下の通りです。 鯨歌地火(じか)郷村教師繊維メッセンジャーカオスの蝶詩雲栄光と夢円円(ユエンユエン)のシャボン玉二〇一八年四月一日月の光人…

2021年の紅白歌合戦

TV

あけましておめでとうございます。 今年もまずは去年の紅白の振り返りから始まるわけですが、去年の紅白の表のテーマが「カラフル」だったとすれば、裏のテーマは「反逆」あるいは「レジスタンス」と言ってもいいもので、非常に政治的な紅白だったと思います…

2021年の映画

毎年書いている記事なので一応今年書きますが、今年はぜんぜん映画を見れておらず、しかも「これ!」といったものもないのでそんなに書く意味はないような内容。 コロナという要因も大きいのですが、それ以上に会員になっている立川のシネマシティが、TOHOシ…

2021年ベストアルバム

CD

今年もたいして枚数は聴けなかったわけですが、そんな中でも比較的よいアルバムを引き当てることができたのではないかと。 特に上位に上げる3枚はどれもよかったです。チャットモンチーとふくろうずがいなくなってからピンとくるものがなかった邦楽シーンに…

橋本絵莉子 / 日記を燃やして

CD

チャットモンチーの橋本絵莉子のソロアルバム。以前にも波多野裕文と組んだ「橋本絵莉子波多野裕文」はありましたけど、こちらは完全なソロアルバム。 「橋本絵莉子波多野裕文」は楽曲が基本的に波多野裕文だったので、チャットモンチーとは違う世界でしたが…

2021年の本

なんだかあっという間にクリスマスも終わってしまったわけですが、ここで例年のように2021年に読んで面白かった本を小説以外と小説でそれぞれあげてみたいと思います。 小説以外の本は、社会科学系の本がほとんどになりますが、新刊から7冊と文庫化されたも…

倉田徹『香港政治危機』

2014年の雨傘運動、2019年の「逃亡犯条例」改正反対の巨大デモ、そして2020年の香港国家安全維持法(国安法)の制定による民主と自由の蒸発という大きな変化を経験した香港。その香港の大きな変動を政治学者でもある著者が分析した本。 香港返還からの中国と…

宮本浩次 / 縦横無尽

CD

宮本浩次の2ndソロアルバム。「独歩。」のあろカバーアルバムの「ROMANCE」を出し、そして今作の「縦横無尽」となります。 最初の印象としては、楽曲がバラエティに富んでいた「独歩。」に比べるとスタンダードなロック寄りで、そんなにちゃんと聴いているわ…

善教将大『大阪の選択』

今年10月の総選挙で躍進を遂げた維新の会、特に大阪では候補者を立てた選挙区を全勝するなど圧倒的な強さを見せました。結成された当初は「稀代のポピュリスト」橋下徹の人気に引っ張られた政党という見方もあったと思いますが、橋下徹が政界を引退してもそ…

アイリス・オーウェンス『アフター・クロード』

国書刊行会<ドーキー・アーカイヴ>シリーズの1冊。 一風変わったマイナー小説を集めているこのシリーズですが、この『アフター・クロード』はその中でもなかなか強烈な印象を与える作品。 著者の分身とも言える主人公のハリエットが「捨ててやった、クロー…

デイヴィッド・ガーランド『福祉国家』

ミュデ+カルトワッセル『ポピュリズム』やエリカ・フランツ『権威主義』と同じくオックスフォード大学出版会のA Very Short Introductionsシリーズの一冊で、同じ白水社からの出版になります(『ポピュリズム』はハードカバーで『権威主義』と本書はソフト…

NAS / King's Disease

CD

NASの去年出たアルバム。NASは2012年の「Life Is Good」以来ちゃんと聴いていなかったのですが(2013〜17年はアルバムをリリースしなかった)、今回、けっこういいという話を聞いて聴いてみたらけっこうよかったです。 NASくらいの大物になれば、どんどん豪…

宝樹『時間の王』

中国のSF作家であり、あの『三体』の続編を書いて劉慈欣に認められたことでも知られている宝樹(バオシュー)の短編集になります。1980年生まれで、郝景芳や陳楸帆らと同世代になります。 ちなみに宝樹という名前は苗字+名前というわけではなく、ひとまとま…

アダム・プシェヴォスキ『それでも選挙に行く理由』

日本でも先日、衆議院議員の総選挙が行われ、その結果に満足した人も不満を覚えた人もいるでしょうが、冒頭の「日本語版によせて」の中で、著者は「選挙の最大の価値は、社会のあらゆる対立を暴力に頼ることなく、自由と平和のうちに処理する点にあるという…

『DUNE/デューン 砂の惑星』

原作も未読ですし、デヴィッド・リンチの『デューン/砂の惑星』もリンチ好きのくせに見ていないのですが、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督ということもあり、ハズレはないだろうということで見てきました。 映像はさすがドゥニ・ヴィルヌーヴで言うことはないです…

ジェスミン・ウォード『骨を引き上げろ』

アメリカの黒人女性作家による2011年の全米図書賞受賞作。ミシシッピ州の架空の街ボア・ソバージュを舞台にハリケーン・カトリーナに襲われた黒人の一家を描いた作品。 南部の架空の街を舞台にした家族の物語となると、当然、思い起こすのがフォークナーで、…

Oh Wonder / 22 Break

CD

ロンドンのエレクトロポップ・デュオのOh Wonderの4枚目のアルバム。Oh Wonderは2ndから聴いていてずっといいなと思っていましたが、このアルバムで一段と化けた感じですね。 まず、2曲目の"Down"は、いかにもOh Wonderらしいポップソングで、ちょっと往年の…

キャス・サンスティーン『入門・行動科学と公共政策』

副題は「ナッジからはじまる自由論と幸福論」。著者はノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーらとともに「ナッジ」を利用した政策を推し進めようとしている人物であり、オバマ政権では行政管理予算局の情報政策及び規制政策担当官も務めています。 …

呉明益『眠りの航路』

『歩道橋の魔術師』、『自転車泥棒』、そして今年に入って『複眼人』と翻訳が相次いでいる呉明益の長編が白水社の<エクス・リブリス〉シリーズで登場。 ただし、発表順でいうと本作は呉明益の長編デビュー作であり、一番古い作品になります。 とっつきにく…

Little Simz / Sometimes I Might Be Introvert

CD

UKの女性ラッパーLittle Simz(リトル・シムズ)のアルバム(たぶん4枚目)。すでに前作で高い評価を得ており、女優としても活躍したりしているらしいですが、今回初めて聴きました。 とりあえずオープニングナンバーの"Introvert"を聴いたほしいのですが、…

よりよい床屋政談のために〜2021年衆院選のためのブックガイド〜

岸田内閣が成立し、衆議院の総選挙が10月31日に決まりました。政治好きとしては「総選挙」と聞くだけでなんとなく盛り上がってしまうのですが、ここ数回の国政選挙に関してはその結果に不満を持っている野党支持者、あるいは無党派の人も少なくないと思いま…

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

見るちょっと前に上映時間が163分という情報を知って「そんなに長いの?」と思いましたが、見終わってみれば全然飽きずに見れました。 監督のキャリー・ジョージ・フクナガは初めて聞く名前でしたが、前作までのサム・メンデスのトーンをよく引き継いでいて…

ジェフリー・ヘニグ『アメリカ教育例外主義の終焉』

タイトルからはなかなか内容が見えてこない本で、かなりマニアック内容ではないかと想像させますが、意外に日本の教育をめぐる政治を考える時に役に立つ本です。 アメリカでは、教育は伝統的に学区によって運営されてきました。学区は公選の教育委員会などに…

Kanye West / Donda

CD

Kanye Westのニューアルバムは何とトータル1時間49分。 ここまで来ると、アルバム1枚の印象を語るのは無理ですね。買ってから1月くらい経つのですが、いまだにアルバム全体の流れというか、ここで盛り上がってここは心地よくみたいなポイントがつかめない。…

トマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』

「そりゃインターネットのせいに決まっているじゃない。疑問の余地なし」(536p) 「ちょっと待って、アメリカ人がそう思うのは誰のせい? 9.11を国民に売りつけたのは政府でしょ。みんな買わされた。政府は私たちから大切な悲しみを取りあげて、加工して、…