水島治郎編『アウトサイダー・ポリティクス』(岩波書店)

なんといってもトランプが代表例ですが、近年の政治では政治経験がほとんどない、あるいはまったくない人物が大統領などの指導者の地位につくケースが増えています。 また、議院内閣制の国においても、新興政党が勢力を伸ばして無視しがたい勢力になっている…

『遠い山なみの光』

カズオ・イシグロの小説を映画化した作品。 1982年のイギリスと1952年の長崎を行き来するような形で進むストーリーで、82年に娘のニキが長崎からイギリスに移り住んだ母の悦子の過去を聞くという形で話が進んでいきます。 1952年の長崎は、朝鮮戦争の特需も…

ダニロ・キシュ『ボリス・ダヴィドヴィチのための墓』(松籟社)

20世紀屈指の長編の『砂時計』や「泣ける短編」として分画市場でも屈指の作品である「少年と犬」(『若き日の哀しみ』所収)を送り出したダニロ・キシュの連作短編集。 基本的には、20世紀前半に活動した共産主義者の悲劇的な運命を描いた話ですが、「犬と書…

曽我謙悟『21世紀の日本政治』

「21世紀の日本政治」とはなかなか大きなタイトルですが、そこは『日本の地方政府』(中公新書)で日本の地方自治に関して新書サイズで濃密に分析してみせた著者であり、期待通りの読み応えのある分析がなされています。 副題は「グローバル化とデジタル化の…

『国宝』

ようやく見てきました。 「役者に演技をさせる」という点では李相日監督は今の現役の監督の中ではピカイチという感じですが、今回も役者の演技は素晴らしいです。 吉沢亮と横浜流星はともに期待以上の演技でしたし、吉沢亮の美形っぷりも際立ってました。渡…

呉明益『海風クラブ』(KADOKAWA)

現代の台湾を代表する作家である呉明益の長編。 今まで日本に紹介されてきた呉明益の作品は、最初の短編集『歩道橋の魔術師』を除くと、日本の植民地統治を含んだ歴史を取り入れた作品である『自転車泥棒』や『眠りの航路』、エコロジー的な視点から台湾の自…

トマ・フィリポン『競争なきアメリカ』(みすず書房)

アメリカといえば競争の国で、それがすぐれた製品やサービスを生み出していると考えられていますが、近年についてはそうでもないよ、ということを主張した本。 著者は「トマ」という名前からもわかるようにフランス人で(ピケティもトマ・ピケティ)、1999年…

A・J・ライアン『レッドリバー・セブン:ワン・ミッション』

前回紹介した『バベル』と同じく古沢嘉通が訳しているSFですが、同じSFでもその趣きはずいぶん違います。 『バベル』が歴史改変小説で舞台もアジアからイギリスまでの地理的に広い範囲でしたが、本書『レッドリバー・セブン:ワン・ミッション』は、途中まで…

R・F・クァン『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史』(東京創元社)

Amazonに載っている紹介は以下のようなもの。 銀と、ふたつの言語における単語の意味のずれから生じる翻訳の魔法によって、大英帝国が世界の覇権を握る19世紀。英語とは大きく異なる言語を求めて広東(カントン)から連れてこられた中国人少年ロビンは、オッ…

善教将大編『政治意識研究の最前線』(法律文化社)

人々は政治に対してどのような関心を持ち、多くの情報をどのように判断して、どのように行動(投票)するのか? こうしたことは昔から研究されてきましたが、近年ではその手法も洗練され、さまざまな研究が行われています。また、Brexitやトランプ大統領の誕…

岡本信広『人々の暮らしぶりから考える 中国経済はどこまで独特か?』(白桃書房)

著者の岡本信広先生より御恵贈いただきました。どうもありがとうございます。 タイトルは長いですが、中国経済の概説書になります。 特徴は2つあって、まずタイトルの前半部分にある「人々の暮らしぶりから考える」という部分で、世代も性別も境遇も違う5人…

五十嵐彰『可視化される差別』(新泉社)

著者の五十嵐先生と編集部から御恵贈いただきました。どうもありがとうございます。 副題は「統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義」。本書は、この副題が表している通りの内容になります。 しかし、「差別」と「統計分析…

角田光代訳『源氏物語5・6』

去年から読んでいる角田光代訳の『源氏物語』、今回読んだ第5巻と第6巻で光源氏が亡くなり、宇治十帖へと突入しました。 第5巻は「若菜 上」、「若菜 下」、「柏木」、「横笛」、「鈴虫」を収録、第6巻は「夕霧」、「御法」、「幻」、「雲隠」、「匂宮」、「…

向山直佑『石油が国家を作るとき』

石油は政治学においても注目されている資源で、マイケル・L・ロス『石油の呪い』は石油の存在が民主化の進展や女性の政治参加を阻害し、内戦などが起こりやすいことを明らかにしました。 これに対して本書が注目するのが植民地の独立と石油の関係です。 ブル…

小宮京『昭和天皇の敗北』

日本国憲法の制定過程については、「押し付けか否か」という議論がずっとあり、近年でも「9条幣原発案説」(9条を提案したのが幣原喜重郎だという説)をめぐり議論があり、笠原十九司が幣原発案説を主張しているものの、多くの研究者がこれを否定する状況と…

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

ボブ・ディランをティモシー・シャラメが演じている映画。 この手のミュージシャンの映画は、まず音楽にハズレがなくて音楽を楽しめますし、今作ではティモシー・シャラメが相変わらずのカリスマ性を発揮している+実際に歌も歌っててそれも良いということで…

ジン・クーユー『新中国経済大全』

著者のジン・クーユー(金刻羽)は1982年に北京で生まれ、現在はロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで教鞭をとる経済学者で、専門は国際経済になります。 本書は、そうした経歴を持つ著者が中国経済の現状やその強み、問題点といったものを幅広く解説し…

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』

評判がいいので見てきましたが面白いですね。 サモ・ハン・キンポーやアーロン・クオックといった往年のスターたちも交えて、とにかく男たちの戦いが繰り広げられます。 舞台は80年代の後半の香港で、まだボートピープルなどが香港に大勢いたりして、香港が…

三島由紀夫『宴のあと』

買おうと思っていた本が本屋になくて、「何を読もうかな〜?」と思っていたところ、授業のプライバシーの権利で毎年のように話している三島由紀夫の『宴のあと』が目に入り、今回初めて読んでみました。 まず、感想としては単純に面白いですね。ジャンル的に…

浅羽祐樹編『韓国とつながる』

『比較のなかの韓国政治』著者の浅羽先生と編集部から御恵贈いただきました。どうもありがとうございます。に引き続き、編者の浅羽先生と有斐閣の編集部から御恵贈いただきました。どうもありがとうございます。 下にあげた本書の目次を最初から見ていくと、…

ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』

河出書房新社の「世界文学全集」シリーズに入っていた鴻巣友季子訳のものが新潮文庫から出たので読んでみました。 ウルフは前に『ダロウェイ夫人』(角川文庫、 富田彬訳)を読んだことがあったのですが、この『灯台へ』の方がぐっと面白く感じました。 『ダ…

魏明毅『静かな基隆港』

適当なカテゴリーがなかったので「社会学」カテゴリーにしてしまいましたけど、本書は長年心理カウンセラーを務めてきた著者が、大学で人類学を勉強しなおし、基隆港の港湾労働者の生活をフィールドワークしたものをまとめたものが本書になります。 実は基隆…

浅羽祐樹『比較のなかの韓国政治』

著者の浅羽先生と編集部から御恵贈いただきました。どうもありがとうございます。 本書の「あとがき」の日付は2024年10月21日となっていますが、まさかここまでタイムリーな本になるとは関係者も思わなかったのではないでしょうか。韓国政治は2024年12月3日…

2024年の紅白歌合戦を振り返る

TV

あけましておめでとうございます。 まずは毎年恒例の紅白歌合戦の振り返りから。今回の紅白は基本的にはシンプルな紅白で、ここ数年あったテーマの押し出しみたいなものがほぼなく、かなりシンプルな構成でした。中継なども少なかったですが、これは中継否定…

2024年ベストアルバム

CD

今年は本当に全然聴いておらず、しかも、途中からブログに聴いたアルバムの感想を書くことも放棄してしまっていたのですが、毎年やっていることですので、記録のためにも一応残しておきます。 1位 橋本絵莉子 / 街よ街よ 街よ街よ アーティスト:橋本絵莉子 S…

2024年の映画

今年も子どもと一緒に見た映画が多く、本数はまあまあ。ただし、大人向けはたいして見れてない状況ですね。 子どもと一緒に見てブログに感想を書いていない映画は、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』、『ドラえもん のび太の地球交響楽』、『仮面ライダーギ…

2024年の本

今年も去年に引き続き、本を読むペースはまあまあでしたが、ブログは書けなかった。 とりあえず、ちょっと前に読了した斎藤環『イルカと否定神学』の感想が書けてないですし、その他中古で買った本は紹介しきれませんでした(先日読み終わったばかりの浅羽祐…

ケリー・リンク『白猫、黒犬』

『スペシャリストの帽子』や『マジック・フォー・ビギナーズ』などの作品で知られるケリー・リンクの短編集。すべて童話などを下敷きにした作品になります。ケリー・リンクには「雪の女王」を下敷きにした「雪の女王と旅して」(『スペシャリストの帽子』所…

林正義『税制と経済学』

副題は「その言説に根拠はあるのか」。税制をめぐるもっともらしい言説を実際のデータで検証しようとした本になります。 冒頭はいわゆる「年収の壁」をとり上げていて非常にタイムリー。「働き控え」をしている人にはぜひ読んでほしいですし、同時にあまりに…

荻上チキ編著『選挙との対話』

2021年に行われた衆議院議員選挙、立憲民主党が共産党と選挙協力を行い自民党を追い詰めるのでは? という観測もありましたが、結果は自公の勝利に終わりました。「なぜ、野党は勝てないのか?」と思った人も多かったでしょう。 本書はそんな中で、改めて「…