読書

小川有美(編)宮本太郎・水島治郎・網谷龍介・杉田敦(著)『社会のためのデモクラシー』

副題は「ヨーロッパの社会民主主義と福祉国家」。なかなか豪華な執筆陣が並んでいる本ですが、篠原一が中心メンバーとなって始めたかわさき市民アカデミーで2014年に行われた講義をまとめたものになります。 かわさき市民アカデミーが発行者となっているから…

松尾隆佑『ポスト政治の政治理論』

面白く読みましたが、なかなか紹介の難しい本でもあります。 まず、タイトルを見ても中身がわからない。これが「ポスト代議制の政治理論」とかであれば、「ああ、直接民主制その他を語った本なのか」と想像がつきますが、「ポスト政治」という言葉は一般の人…

テッド・チャン『息吹』

テッド・チャンの『あなたの人生の物語』以来17年ぶりの作品集。 すでに各所方面で絶賛されているので改めて詳しく書く必要もないかと思うほどですが、やはりテッド・チャンは優れた作家だと認識させられる作品集です。 前作の『あなたの人生の物語』に比べ…

2019年の本

毎年恒例のエントリー。今年はまず小説以外の本(と言ってもほぼ社会科学の本ですが)を読んだ順で9冊紹介します。 小説に関しては去年は順位をつけませんでしたが、今年は順位をつけて5冊紹介します。 ちなみに新書のほうは以下に今年のベストをまとめてあ…

ジャスティン・ゲスト『新たなマイノリティの誕生』

2016年に大西洋を挟んで起きたイギリスのBrexitとアメリカの大統領選でのトランプの当選は世界に大きな衝撃を与え、この2つの事柄が起きた背景や原因を探る本が数多く出されました。 本書もそうした本の1つなのですが、何といっても本書の強みは2016年以前か…

神林長平『いま集合的無意識を、』

この前読んだ『絞首台の黙示録』が非常に奇妙で面白かったので、神林長平の2012年に出版された短編集を読んでみました。 なんといっても注目を集めるのが、パソコンの画面に伊藤計劃を名乗る文字列が現れて神林長平本人らしき作家と対話を行う表題作の「いま…

田中(坂部)有佳子『なぜ民主化が暴力を生むのか』

紛争が終結して、新しい国づくりを始めてそのために選挙も行ったのに、再び政事的暴力が噴出してしまう。これはよくあるパターンだと思います。近年だと南スーダンがそうでした。PKOで派遣されていた自衛隊が武力衝突に巻き込まれそうになっていたのは記憶に…

スティーヴン・クレイン『勇気の赤い勲章』

1895年に発表された南北戦争を舞台にした戦争小説。ヘミングウェイも激賞している小説で、解説で訳者の藤井光が「二十世紀の大半を通じて、さらには今世紀に至るまでのアメリカ文学における戦争小説のひとつの「型」は、クレインのこの小説によって完成した…

猪俣哲史『グローバル・バリューチェーン』

本書の冒頭にある問いは「iPhoneはメイド・インどこか?」というものです。USAでしょうか? チャイナでしょうか? それとも別の国でしょうか? 正解は「Designed by Apple in Califoronia, Assembled in China.」というものです。 iPhoneは一つの典型的な例…

神林長平『絞首台の黙示録』

前々から神林長平の作品を読んでおきたいなと思っていたのですが、たまたま手にとった本書の解説が東浩紀で、面白そうだったので読んでみました。 そしたら、面白い! とにかくすごく変な小説で、奇想と言ってもいいかも知れません。国書刊行会がマイナーで…

ポール・コリアー『エクソダス』

『最底辺の10億人』、『民主主義がアフリカ経済を殺す』などの著作で知られる開発経済学者のポール・コリアーが移民について論じた本。 トランプ大統領の誕生にBrexitと、移民の問題がクローズアップされる機会が続きましたが、この本の原書が出たのは2013年…

マイケル・オンダーチェ『戦下の淡き光』

1945年、うちの両親は、犯罪者かもしれない男ふたりの手に僕らをゆだねて姿を消した。 これがこの小説の冒頭の一文です。この一文からもわかるようにオンダーチェの新作は非常にミステリーの要素が強いです。読み始めたときは、まずカズオ・イシグロの『わた…

帶谷俊輔『国際連盟』

副題は「国際機構の普遍性と地域性」。国際連盟の抱えていた問題を、第一次世界大戦後の中国に対する連盟のスタンスや、南米のチャコ紛争に対する連盟の関わりなどから探ろうとした本になります。 国際連盟というと「失敗だった」というイメージが強いと思い…

ピョン・ヘヨン『モンスーン』

白水社の<エクス・リブリス>シリーズの1冊ですが、<エクス・リブリス>でも前回配本がハン・ガン『回復する人間』で今作も韓国の女性作家の短篇集。韓国文学は本当に勢いがありますね。 ハン・ガンと同じく、この『モンスーン』の作者のピョン・ヘヨンも1…

マンサー・オルソン『集合行為論』

集団と集合財(公共財)の関係を論じた古典的著作。やはり読んでおくべきかと思って読んでみました。 ただ、O・E・ウィリアムソン『市場と企業組織』を読んだときにも思いましたけど、完全に古典というわけでもない少し古めの本を読むと、文脈や著者は想定し…

ハン・ガン『回復する人間』

ほとんどの人たちは一生のあいだ、色や形を大きく変えずに生きていく。けれどもある人たちは何度にも渡って自分の体を取り替える。(「エウロパ」87p) もちろんあたしはまだ人が信じられないし、この世界も信じていないよ。だけど、自分自身を信じないこと…

ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』 

それぞれ数多くの論文を発表し高い評価を得ているアセモグルとロビンソンが「経済成長はどのような条件で起こるのか?」という大テーマについて論じた本。読もうと思いつつも今まで手が伸びていなかったのですが、授業でこの本と似たようなテーマを扱うこと…

ウィリアム・ノードハウス『気候カジノ』 

2018年に気候変動を長期的マクロ経済分析に統合した功績によってノーベル経済学賞を受賞したノードハウスの著書。価格が2000円+税なので、「今までの研究のコアの部分を一般向けに簡単に語った本なのかな」と思って注文したのですが、届いてみたら450ページ…

ロナルド・イングルハート『文化的進化論』

『静かなる革命』、『カルチャーシフトと政治変動』といった著作で、20世紀後半の先進国では物質主義的価値観から脱物質主義的価値観へのシフトが起こったということを主張したイングルハートが2018年に出版した著作の翻訳。 この理論自体はすでに広く知られ…

劉慈欣『三体』

ケン・リュウが『折りたたみ北京』などによって紹介してきた現代中国SFの大本命が登場。三部作の第一作にあたる長編ですが、なにしろ中国では三部作の合計で2100万部を売ったそうです。 タイトルの「三体」が物理学の「三体問題」から来ていることと、『折り…

周燕飛『貧困専業主婦』

表紙裏には「100グラム58円の豚肉をまとめ買いするためい自転車で30分走る」、「月100円の幼稚園のPTA会費をしぶる」などと書いてあり、タイトルからしても最近流行りの「貧困ルポ」の一種かと思う人もいるかも知れませんが、そうではありません。 中国生ま…

クリストファー・R・ブラウニング『増補 普通の人びと』

ナチ・ドイツによるユダヤ人の虐殺について、多くの人はアウシュビッツ−ビルケナウに代表される絶滅収容所による殺害という印象が強いと思います。 そこでは、工場における分業のような形で毒ガスによる虐殺が行われ、多くのドイツ人が自らの職務を果たすこ…

ハーラン・エリスン『愛なんてセックスの書き間違い』

『世界の中心で愛を叫んだけもの』、『死の鳥』などの作品で知られるハーラン・エリスンの非SF作品を集めた短編集。 収録作品は以下の通り。 第四戒なし孤独痛ガキの遊びじゃないラジオDJジャッキージェニーはおまえのものでもおれのものでもないクールに行…

北岡伸一『世界地図を読み直す』

副題が「協力と均衡の地政学」となっているので、著者流の国際情勢分析かと思いましたが、内容としてはJICA(国際協力機構)の理事長としての仕事をまとめたエッセイとなっています。 ただし、著者は政治学者でありながら日本の国連次席大使も務めたことがあ…

アンドレアス・ヴィルシング、ベルトルト・コーラー、ウルリヒ・ヴィルヘルム編『ナチズムは再来するのか?』

AfD(ドイツのための選択肢)の躍進などによって混迷が深まっているドイツ政治ですが、そうなると取り沙汰されるのが、この本のタイトルともなっている「ナチズムの再来」です。 確かに2017年の総選挙でAfDは一気に94議席を獲得し、既成政党への不満の受け皿…

デニス・ジョンソン『海の乙女の惜しみなさ』

先週、レベッカ・ステイモスという聞いたことのない名前の女性から電話があり、共通の友人であるトニー・ファイドが他界したと知らされた。自殺だった。彼女が言ったように、「みずから命を絶った」。 二秒ほど、その言葉の意味が分からなかった。「絶った………

遠藤晶久/ウィリー・ジョウ『イデオロギーと日本政治』

まず、この本のインパクトは帯にも書かれている、「維新は「革新」、共産は「保守」」という部分だと思います。 若年層に政党を「保守」、「革新」の軸で分類されると、日本維新の会を最も「革新」と位置づけるというのです。そして、以下のグラフ(134p図5.…

ジェリー・Z・ミュラー『測りすぎ』

民間企業だけでなく、学校でも病院でも警察でも、そのパフォーマンスを上げるためにさまざまな指標が測定され、その指標に応じて報酬が上下し、出世が決まったりしています。 もちろん、こうしたことによってより良いパフォーマンスが期待されているわけです…

グレッグ・イーガン『ビット・プレイヤー』

最近、非常にハードなSF長編を世に送り出していたイーガンの久々の短編集。ここ最近の長編に関して、自分にはちょっと難しすぎるなと感じていて、〈直交〉三部作はスルーしていたのですが(『白熱光』まで読んだ)、今回は短編集と聞いて久々に読んでみまし…

ダニ・ロドリック『貿易戦争の政治経済学』

『グローバリゼーション・パラドクス』で、グローバリゼーションのさらなる拡大(ハイパーグローバリゼーション)、国家主権、民主主義の三つのうち二つしか選び取ることができないとする考えを打ち出したトルコ生まれの経済学者の新著。 タイトルからはトラ…