読書

川島真・森聡編『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』

新しく始まった東京大学出版会の「UP plus」シリーズの1冊目の本。タイトル通りに、コロナ禍の中の、あるいはコロナが収まったとしてその後の米中関係を中心とした世界秩序を占う本になります。 形式としては、まず、縦書き3段組の対談が2本載っており、その…

パウリーナ・フローレス『恥さらし』

白水社の<エクス・リブリス>シリーズの1冊で、著者は1988年生まれのチリの若手女性作家。チリといえばドノソやボラーニョが思い浮かぶわけですが、訳者の松本健一が「訳者あとがき」で指摘しているように、「日本でも翻訳文学に親しんでいる人ほどラテンア…

ハン・ガン『すべての、白いものたちの』

恢復するたびに、彼女はこの生に対して冷ややかな気持ちを抱いてきた。恨みというには弱々しく、望みというにはいくらか毒のある感情。夜ごと彼女にふとんをかけ、額に唇をつけてくれた人が凍てつく戸外へ再び彼女を追い出す。そんな心の冷たさをもう一度痛…

郝景芳『1984年に生まれて』

「折りたたみ北京」でヒューゴー賞を受賞した中国の作家による自伝体小説。 著者のことはケン・リュウ編『折りたたみ北京』と『月の光』という中国のSFアンソロジーを通じて知っていたので、本書もSF的な要素があると予想して読み始めました。タイトルの「19…

ピエール・ロザンヴァロン『良き統治』

副題は「大統領制化する民主主義」。18〜19世紀にかけて民主主義の中心は議会であり、立法権であると考えられていましたが、20世紀半ば以降、執行権(行政権)こそが実質的な政治を動かすものだという認識が強まり、政治の評価を執行権(行政権)のトップで…

2020年の本

例年通り、今年読んで面白かった小説以外の本(社会科学の本ばかり)と小説を紹介ます。 今年はコロナの影響で自宅勤務になったりして「いつも以上に本が読めるのでは?」などとも思いましたが、子どもがいる限り無理でしたね。そして、小説は読むスピードが…

松永伸太朗『アニメーターはどう働いているのか』

酒井 正『日本のセーフティーネット格差』とともに、第43回労働関係図書優秀賞を受賞した本で、その受賞で本書の存在を知って読んでみましたが、なかなか面白い本です。 まず、単純にアニメーターたちがどんなふうに仕事を行っているのかという点も興味深い…

コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』

ピュリッツァー賞に全米図書賞、さらにはアーサー・C・クラーク賞を受賞し、日本では2017年のTwitter文学賞・海外部門を受賞した小説。かつて、アメリカに存在した南部の奴隷を北部に逃がす組織「地下鉄道」をモチーフにした作品になります。 奴隷の逃亡を助…

小熊英二、樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』

ここ最近話題になっている「右傾化」の問題。「誰が右傾化しているのか?」「本当に右傾化しているのか?」など、さまざまな疑問も浮かびますが、本書はそういった疑問にさまざまな角度からアプローチしています。 実は、国民意識に関しては特に「右傾化」と…

シェルドン・テイテルバウム 、エマヌエル・ロテム編『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』

ここ最近、「グリオール」シリーズなどのSFを出している竹書房文庫から出たのが、この『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』。 知られざるイスラエルのSFの世界を紹介するという意味では、中国SFを紹介したケン・リュウ編『折りたたみ北京』、『…

エマニュエル・サエズ/ガブリエル・ズックマン『つくられた格差』

ピケティの共同研究者でもあるサエズとズックマンのこの本は、格差の原因を探るのではなく、格差を是正するための税制を探る内容になっています。序のタイトルが「民主的な税制を再建する」となっていますが、このタイトルがまさに本書の内容を示していると…

善教将大『日本における政治への信頼と不信』

今年はコロナ問題に明け暮れた感じでしたが、3〜7月頃の緊急事態宣言からその解除、さらに「Go To Travel」をめぐるを見ながら感じたのが、日本のおける政府に対する信頼の低さ。 各国では危機の高まりとともに政治指導者に対する支持があがる傾向がありまし…

西川賢『分極化するアメリカとその起源』

現在行われている大統領選挙やその他の政治的な風景を見ても、アメリカの政治が「分極化」していることは容易に見て取れます。共和党と民主党では、その世界観や生活スタイルまですべてが違ってしまっている感じです。 しかし、以前のアメリカでは政党の規律…

ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ『忘却についての一般論』

白水社<エクス・リブリス>シリーズの1冊で、アンゴラ生まれの作家によるアンゴラの内戦を背景にした作品。 著者はアンゴラでポルトガル・ブラジル系の両親のもとに生まれ、リスボンの大学を出て文筆業に入っています。書く言語はポルトガル語になります。 …

宍戸常寿・大屋雄裕・小塚荘一郎・佐藤一郎編著『AIと社会と法』

宍戸常寿・大屋雄裕・小塚荘一郎・佐藤一郎の4人が、有斐閣の『論究ジュリスト』誌上で行った研究会の様子をまとめた本になります。法学者の宍戸、大屋、小塚と工学者の佐藤の4人がコアメンバーとなり、1回につき2人のゲストスピーカーを迎えながら、AIがも…

ウィリアム・トレヴァー『ラスト・ストーリーズ』

2016年に亡くなったアイルランド生まれの短篇の名手ウィリアム・トレヴァーの最後の短篇集。 短篇というと、よく「何を書かないかが重要だ」といったことが言われますが、トレヴァーの短編は、まさにそれ。ただ、お手本というには本当にびっくりするほど「書…

ピーター・テミン『なぜ中間層は没落したのか』

著者は著名な経済史家で、経済学の立場としてはケインジアンだといいます。そんな著者が「なぜ中間層は没落したのか」というタイトルの本を書いたというと、近年の経済の動きと格差の拡大を実証的に分析した本を想像しますが、本書はかなり強い主張を持った…

駒村圭吾・待鳥聡史編『統治のデザイン』

憲法というと、どうしても日本では9条と人権をめぐる条項に注目が集まりがちですが、国会、内閣、裁判所、地方自治といった日本の統治のしくみを決めているのも憲法です。 ケネス・盛・マッケルウェインは日本国憲法が他国の憲法に比べて条文数も文字数も少…

ファトス・コンゴリ『敗残者』

松籟社<東欧の想像力>シリーズの最新刊。今回はアルバニアの最重要作家とされるファトス・コンゴリのデビュー作になります。 この小説は主人公のセサルが、1991年にアルバニアからイタリアへと脱出する船に乗りながら、土壇場で船降りて故郷に戻ってしまう…

藤田覚『日本の開国と多摩』

『勘定奉行の江戸時代』(ちくま新書)など、江戸時代の政治史を中心に数々の著作を発表してきた著者が開国が東京の多摩地域に与えた影響をまとめた本。「あとがき」によると、八王子市の市史編纂事業に関わるようになったことがきっかけで本書をまとめたと…

ケイト・ウィルヘルム『鳥の歌いまは絶え』

60〜70年代に活躍した女性SF作家の代表作が創元SF文庫で復刊されたので読んでみました。 3部仕立てになっており、第1部は終末もの、第2部は終末+ディストピア、第3部になるとほぼディストピアものといった感じになります。 ヴァージニア州の渓谷に住むサムナ…

コロナと読書

タイトルからするとコロナ禍の中での読書生活の記録みたいに思えますが、そうではなくて、1学期も終わって少し落ち着いたところで、新型コロナウイルス問題を考える上で参考になった本をいくつかあげておこうというエントリーです。 とは言っても、医学的な…

待鳥聡史『政治改革再考』

平成という時代の政治を振り返ってみると、「改革」という言葉が飛び交い、実際に「改革」が行われた時代であったと言えるでしょう。小選挙区比例代表並立制が導入された選挙制度改革と、省庁再編、地方分権、司法改革、さらには日銀法の改正と、憲法の改正…

マーク・マゾワー『国連と帝国』

授業で国連とかのことを話すときに、「なにか面白い本はないか?」と探していたら、『暗黒の大陸』のマーク・マゾワーが本書『国連と帝国』を出していたことを思い出して、さらに古本がネットで安く買えたので読んでみました。 中学・高校生向けの授業のネタ…

劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』

『三体』の続編が上下巻で登場。今回は宇宙艦隊も登場し、話はますますスケールアップしていきます。 前作では3つの太陽のある惑星系に住む三体人の存在が明かされ、その三体人が地球を狙って大艦隊を送り込むという展開になっていました。しかも三体人は智…

アビジット・V・バナジー& エステル・デュフロ『絶望を希望に変える経済学』

2019年にノーベル経済学賞を受賞した2人(マイケル・クレーマーも同時受賞)による経済学の啓蒙書。2人の専門である開発分野だけでなく、移民、自由貿易、経済成長、地球温暖化、格差問題と非常に幅広い問題を扱っています。 著者らが得意とするのはRCT(ラ…

ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』

『フリーダム』がとても面白かったアメリカの作家ジョナサン・フランゼンの長編小説になります。『フリーダム』が2009年発表の第4長編、この『コレクションズ』は2001年発表の第3長編です。 まずタイトルの「コレクションズ」ですが「Collections」ではなく…

田野大輔『ファシズムの教室』

長年、大学で「ファシズムの体験授業」を行っていた著者による授業実践の記録になります。履修している学生たちに、白いシャツを着せ、「ハイル、タノ!」と叫ばせ、キャンパスにいるリア充(サクラ)を糾弾するというユニークでインパクトのある授業はWeb記…

伊藤修一郎『政策実施の組織とガバナンス』

副題は「広告景観規制をめぐる政策リサーチ」。タイトルと副題からは面白さは感じられないかもしれまえんが、「なぜ守られないルールがあるのか?」「なぜ政策は失敗するのか?」といった問いに変形すると、ちょっと興味が湧いてくるかもしません。 そして、…

酒井正『日本のセーフティーネット格差』

副題は「労働市場の変容と社会保険」。この書名と副題から「非正規雇用が増える中で社会保険がセーフティーネットの役割を果たせなくなってきたことを指摘している本なのだな」と想像する人も多いでしょう。 これは間違いではないのですが、本書は多くの人の…