読書

柴崎友香『寝ても覚めても』

読み始めたときは随分とちぐはぐな印象の小説だなと思いつつも、最後まで読むと「そういうことだったのか!」となる小説。 主人公に感情移入できる人は少ないかもしれませんし、読むのがやめられなくなる小説とかではないのですが、最後のゾワゾワっとする展…

マーガレット・アトウッド『侍女の物語』

ちょっと前に読み終えていたのですが、感想を書く機会を逸していました。有名な作品ですしここでは簡単に感想を書いておきます。 舞台はギレアデ共和国となっていますが、どうやら近未来のアメリカで、出生率の低下に対する反動からか、何よりも生殖が優先さ…

瀧井一博『大久保利通』

副題は「「知」を結ぶ指導者」。 以前著者の書いた『伊藤博文』(中公新書)の副題が「知の政治家」だったことを覚えている人は「また知なのか?」と思うかもしれませんし、大久保をそれなりに知っている人からしても大久保に「知」という特徴を当てはめるこ…

ケネス・盛・マッケルウェイン『日本国憲法の普遍と特異』

「75年間、1文字も変わらなかった世界的に稀有な憲法典」 これは、本書の帯に書かれている言葉ですが、今まで存在した成文憲法中、改正されないままに使われている長さにおいて、日本国憲法は1861年に制定されイタリア憲法に続いて歴代第2位です。日本国憲法…

村田沙耶香『コンビニ人間』

本当に今更という感じで読んだのですが、この小説は文体がすおくいいですね。 マニュアルによって規定されているコンビニに過剰適応した36歳の独身女性の古倉恵子が主人公で、設定自体は思いつきそうですが、それをこういった作品にまで仕上げる腕はさすがだ…

木山幸輔『人権の哲学』

本書の書き出しは次のようなものです。 本書の目的は、人権に確定性を与えつつ、当該概念を適切に正当化する、そうした構想を提示することにある。より具体的にいえば、本書の目的は、人権の適切な構想として自然本性的構想、なかんずく二元的理論と本書が呼…

デイヴ・ハッチソン『ヨーロッパ・イン・オータム』

帯には「ジョン・ル・カレ×クリストファー・プリースト」とありますが、まさにそんな作品です。 舞台となっているのは近未来のヨーロッパなのですが、経済問題や難民問題、さらに「西安風邪」と呼ばれるパンデミックが起こったことで、人口が減少し、国境管…

川中豪『競争と秩序』

副題は「東南アジアにみる民主主義のジレンマ」。フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポールの5カ国を比較しながら、安定した民主主義には何が必要なのかということを探っています。 民主主義を語る時に引き合いに出されるのは欧米の、いわ…

松沢裕作『日本近代社会史』

副題は「社会集団と市場から読み解く 1868-1914」。 タイトルにあるように「近代」の「社会史」なのですが、副題にあるように「社会集団」(身分集団)と「市場」の関わりを軸にして、明治から第1次世界大戦が始まるまでの社会の変容を描いています。 著者の…

カン・ファギル『大丈夫な人』

白水社の<エクス・リブリス>シリーズから出た1986年生まれの韓国の女性作家の短編集。 以前、キム・グミの短編集『あまりにも真昼の恋愛』を読んだときに、いくつかの短編は「ホラーだ!」って思ったのですが、このカン・ファギル『大丈夫な人』はほぼ完全…

北村亘編『現代官僚制の解剖』

2019年に出版された青木栄一編著『文部科学省の解剖』は、過去に村松岐夫が中心となって行った官僚サーベイ(村松サーベイ)を参考に、文部科学省の官僚に対して行ったサーベイによって文部科学省の官僚の実態を明らかにしようとしたものでした。 本書は、そ…

ファン・ジョンウン『年年歳歳』

短編集『誰でもない』が面白かったファン・ジョンウンの長編で、韓国で2020年に「小説家50人が選ぶ今年の小説」にも選ばれているとのことです。 この小説を書くことになったきっかけは、著者が順子(スンジャ)という女性に数多く会ったことだといいます。19…

郝景芳『流浪蒼穹』

短編「折りたたみ北京」や長編の『1984年に生まれて』で知られる郝景芳のデビュー作にして、本格的な火星SFとなっています。 裏表紙に書かれた紹介は次のようになっています。 22世紀、地球とその開発基地があった火星のあいだで独立戦争が起き、そして火星…

リン・ハント『人権を創造する』

タイトルからして面白そうだなと思っていた本ですが、今年になって11年ぶりに重版されたのを機に読んでみました。 「人権」というのは、今生きている人間にとって欠かせないものだと認識されていながら、ある時代になるまでは影も形もなかったという不思議な…

オリヴィエ・ブランシャール/ダニ・ロドリック編『格差と闘え』

2019年10月にピーターソン国債経済研究所で格差をテーマとして開かれた大規模なカンファレンスをもとにした本。目次を見ていただければわかりますが、とにかく豪華な執筆陣でして、編者以外にも、マンキュー、サマーズ、アセモグルといった有名どころに、ピ…

ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』

2019年のTwitter文学賞の海外編1位など、さまざまなところで評判を読んでいた本がこの度文庫化されたので読んでみました(それにしても本屋大賞の翻訳小説部門第2位とTwitter文学賞が帯で並んで紹介されているのは熱いですね)。 全部で24篇の短編が収録され…

岡田憲治『政治学者、PTA会長になる』

近年、さまざまな場所で批判的に語られることが多いPTA。どんな事情があってもやらされるかもしれない恐怖の役員決め、非効率の権化のように言われてるベルマーク集めなど、PTAについてのネガティブな話を聞いたという人は多いと思います。 また、PTAをなく…

渡邉有希乃 『競争入札は合理的か』

公共事業では、それを施工する業者を入札で決めることが一般的です。多くの業者が参加して、その中で最安を提示した業者がその工事を落札するわけです。 ところが、日本の公共事業では指名競争入札という形で、発注側が入札できる業者をあらかじめ指定したり…

スタニスワフ・レム『地球の平和』

第2期の刊行が始まった国書刊行会の「スタニスワフ・レム・コレクション」の第2弾は〈泰平ヨン〉シリーズの最終作にして、レムにとって最後から2番目の小説になります。 カバー見返しの内容紹介は次のようになります。 自動機械の自立性向上に特化された近…

竹中佳彦・山本英弘・濱本真輔編『現代日本のエリートの平等観』

近年、日本でも格差の拡大が問題となっていますが、その格差をエリートたちはどのように捉えているのでしょうか? 本書は、そんな疑問をエリートに対するサーベイ調査を通じて明らかにしようとしたものになります。 このエリートに対する調査に関しては、198…

野島剛『蔣介石を救った帝国軍人』

もと朝日新聞の記者で『香港とは何か』(ちくま新書)など台湾や香港に関する著作で知られる著者が、2014年に『ラスト・バタリオン』のタイトルで講談社から出版した本が改題されて文庫化されたものになります。 副題は「台湾軍事顧問団・白団の真相」となっ…

村上春樹『女のいない男たち』

映画の『ドライブ・マイ・カー』を見て、その物語の複雑な構造に感心したので、「原作はどうなってるんだろう?」と思い、久々に村上春樹を読んでみました。 以下、映画と本書のネタバレを含む形で書きます。 映画はこの短編集の中から「ドライブ・マイ・カ…

渡辺努『物価とは何か』

ここ最近、ガソリンだけではなく小麦、食用油などさまざまなものの価格が上がっています。ただし、スーパーなどに行けば米や白菜や大根といった冬野菜は例年よりも安い価格になっていることにも気づくでしょう。 このようなさまざまな商品の価格を平均化した…

閻連科『年月日』

現代中国を代表する作家の1人である閻連科。今まで読んだことがなかったので、今回、この『年月日』が白水Uブックに入ったのを機に読んでみました。 最後に置かれた「もう一人の閻連科 ー 日本の読者へ」で、閻連科本人が、自分は「論争を引き起こす作家、凶…

S・C・M・ペイン『アジアの多重戦争1911-1949』

満州事変から日中戦争、太平洋戦争という流れを「十五年戦争」というまとまったものとして捉える見方がありますが、本書は中国における1911年の清朝崩壊から1949年の中華人民共和国の成立までを一連の戦争として捉えるというダイナミックな見方を提示してい…

オクテイヴィア・E・バトラー『キンドレット』

黒人の女性SF作家で、ヒューゴ賞やネビュラ賞も獲得したことのあるオクテイヴィア・E・バトラーの長編作品。日本では1992年に翻訳刊行され、今回は河出文庫からの文庫化になります。 26歳の黒人女性のデイナはケヴィンという白人の恋人とともに暮らし、作家…

ジェレミー・ブレーデン/ロジャー・グッドマン『日本の私立大学はなぜ生き残るのか』

なんとも興味を引くタイトルの本ですが、実際に非常に面白いです。 2010年前後、日本では大学の「2018年問題」が新聞や雑誌を賑わせていました。これは2018年頃から日本の18歳人口が大きく減少し始め、それに伴って多くの私立大学が潰れるだろうという予想で…

筒井淳也『社会学』

先日紹介した松林哲也『政治学と因果推論』に続く、岩波の「シリーズ ソーシャル・サイエンス」の1冊。 社会科学の中でも「サイエンス」とみなされにくい社会学について、「社会学もサイエンスである」と主張するのではなく、「社会を知るには非サイエンス的…

呉明益『雨の島』

昨年は、『複眼人』、『眠りの航路』ときて、さらにこの『雨の島』と刊行ラッシュとなった台湾の作家・呉明益。『歩道橋の魔術師』や『自転車泥棒』が文庫化され、売れ方はわからないのですが完全にブレイクした感じですね。 ただ、これだけ翻訳が続いても読…

松林哲也『政治学と因果推論』

新しく刊行が始まった岩波の「シリーズ ソーシャル・サイエンス」の1冊。このシリーズは筒井淳也『社会学』も読みましたが(本書のあとに紹介記事を書く予定)、どちらも面白く期待が持てますね。 ここ数年、因果推論に関する本がいくつも出ており、基本的に…