読書

デニス・ジョンソン『海の乙女の惜しみなさ』

先週、レベッカ・ステイモスという聞いたことのない名前の女性から電話があり、共通の友人であるトニー・ファイドが他界したと知らされた。自殺だった。彼女が言ったように、「みずから命を絶った」。 二秒ほど、その言葉の意味が分からなかった。「絶った………

遠藤晶久/ウィリー・ジョウ『イデオロギーと日本政治』

まず、この本のインパクトは帯にも書かれている、「維新は「革新」、共産は「保守」」という部分だと思います。 若年層に政党を「保守」、「革新」の軸で分類されると、日本維新の会を最も「革新」と位置づけるというのです。そして、以下のグラフ(134p図5.…

ジェリー・Z・ミュラー『測りすぎ』

民間企業だけでなく、学校でも病院でも警察でも、そのパフォーマンスを上げるためにさまざまな指標が測定され、その指標に応じて報酬が上下し、出世が決まったりしています。 もちろん、こうしたことによってより良いパフォーマンスが期待されているわけです…

グレッグ・イーガン『ビット・プレイヤー』

最近、非常にハードなSF長編を世に送り出していたイーガンの久々の短編集。ここ最近の長編に関して、自分にはちょっと難しすぎるなと感じていて、〈直交〉三部作はスルーしていたのですが(『白熱光』まで読んだ)、今回は短編集と聞いて久々に読んでみまし…

ダニ・ロドリック『貿易戦争の政治経済学』

『グローバリゼーション・パラドクス』で、グローバリゼーションのさらなる拡大(ハイパーグローバリゼーション)、国家主権、民主主義の三つのうち二つしか選び取ることができないとする考えを打ち出したトルコ生まれの経済学者の新著。 タイトルからはトラ…

青木栄一編著『文部科学省の解剖』

一部の人にとっては興味をそそるタイトルでしょうが、さらに執筆者に『現代日本の官僚制』、『日本の地方政府』の曽我謙悟、『政令指定都市』の北村亘、『戦後行政の構造とディレンマ』の手塚洋輔と豪華なメンツが揃っており、精緻な分析が披露されています…

デボラ・フォーゲル『アカシアは花咲く―モンタージュ』

松籟社〈東欧の想像力〉シリーズの1冊で、ポーランド(当時はオーストリア領)の同化ユダヤ人の家に生まれた女性作家デボラ・フォーゲルの中短編集。 〈東欧の想像力〉シリーズの前回配本はイヴォ・アンドリッチの『宰相の象の物語』というノーベル賞作家の…

ローレンス・サマーズ、ベン・バーナンキ、ポール・クルーグマン、アルヴィン・ハンセン著/山形浩生編訳『景気の回復が感じられないのはなぜか』

サマーズが口火を切り、バーナンキやクルーグマンとの間で2013〜15年にかけて行われた長期停滞論争を山形浩生が訳しまとめたもの。アルヴィン・ハンセンは1930年代に長期停滞という概念を提唱した経済学者で、この本にはその演説「経済の発展と人口増加の鈍…

田所昌幸『越境の国際政治』

副題は「国境を越える人々と国家間関係」。移民をはじめとする国境を越える人間の移動について国際政治学の立場から論じた本になります。 移民に関しては、移民がもたらす社会の変化を記述したもの、移民のおかれた劣悪な状況を告発するもの、あるいはボージ…

ケン・リュウ『生まれ変わり』

『紙の動物園』、『母の記憶に』につづくケン・リュウの日本オリジナル短編集第3弾。相変わらず、バラエティに富んだ内容でアイディアといい、それをストーリーに落としこむ技術といい、さすがだなと思いつつも、『紙の動物園』の「文字占い師』や、『母の記…

羅芝賢『番号を創る権力』

鳴り物入りで導入されたマイナンバー制度ですが、そのしょぼさと面倒臭さにうんざりしている人も多いでしょう。行政事務を効率化し、国民にもさまざまな利便性を提供すると言われていたマイナンバーですが、蓋を開けてみればマイナンバーの通知カードをコピ…

小林道彦『児玉源太郎』

ミネルヴァ日本評伝選の1冊で、著者は『日本の大陸政策 1895‐1914』(のちに『大正政変』と改題されて復刊)、『政党内閣の崩壊と満州事変 1918‐1932』などを書いている人物です。 特に『日本の大陸政策 1895‐1914』は、山県有朋とも伊藤博文とも違う桂太郎…

ニコラ・ヴェルト『共食いの島』

アウシュヴィッツの恐ろしさの一つは「合理的」な虐殺のシステムをつくり上げたところにありますが(ただ、ユダヤ人の虐殺はアウシュヴィッツのような強制収容所だけで行われたのではなく、行動部隊(アインザッツグルッペン)による大量射殺によって行われ…

待鳥聡史・宇野重規編著『社会のなかのコモンズ』

2月28日に東京堂書店で刊行イベントがあり、ちょうどその日に読み終わっていたのですが、仕事が忙しかったりウィルス性の胃腸炎になったりで、読了後1月弱たってからの紹介になります。 というわけで、以下はやや大雑把な紹介になりますし、また、イベントで…

マット・ヘイグ『トム・ハザードの止まらない時間』

主人公のトム・ハザードは見た目は40歳ほどの男ですが、実は1581年生まれで400年以上生きているという設定です。こう書くと不老不死の男の物語を想像する人もいるかもしれませんが、少し違います。 主人公は遅老症(アナジェリア)と呼ばれる病気であり、思…

アレクサンダー・トドロフ『第一印象の科学』

教員という職業柄、人の顔はたくさん見ている方だと思うのですが、たまに兄弟でもないのに「似ている!」と感じる顔があったり、双子で顔のパーツは本当に似ているのに並んでみると少し顔の印象が違ったり、顔というのは本当に不思議なものだと思います。 ま…

キム・グミ『あまりにも真昼の恋愛』

晶文社の「韓国文学のオクリモノ」シリーズの1冊で、2009年にデビューし、若い世代から人気を得ているキム・グミの短篇集。 「韓国文学のオクリモノ」シリーズは、パク・ミンギュ『三美スーパースターズ』、ハン・ガン『ギリシャ語の時間』、ファン・ジョン…

野口雅弘『忖度と官僚制の政治学』

タイトルからすると、ここ最近の安倍政権を批判した本にも思えますが、そこは『官僚制批判の論理と心理』(中公新書)で、ウェーバーをはじめトクヴィル、アーレント、フーコー、ルーマンなどを参照しながら官僚機構の肥大化と官僚批判のメカニズムを論じて…

呉明益『自転車泥棒』

短篇集『歩道橋の魔術師』が非常に面白かった台湾の作家・呉明益の長編。 作家である主人公が父の失踪とともに消えた自転車を探す物語で、出だしは無口な父をはじめとする主人公の家族と、家族の暮らしていた台北の中華商場(「歩道橋の魔術師」でも舞台とな…

善教将大『維新支持の分析』

ここ最近、「ポピュリズム」という言葉が、政治を語る上で頻出するキーワードとなっています。アメリカのトランプ大統領に、イギリスのBrexit、イタリアの五つ星運動にドイツのAfDと、「ポピュリズム」というキーワードで語られる政治勢力は数多くいるわけで…

ジョージ・ボージャス『移民の政治経済学』

近年は、移民への反発とそれを利用した「ポピュリズム」というものが世界の政治における1つのトレンドとなっています。 一方、日本では昨年、出入国管理法が改正され、政府は否定しているものの、外国人労働者の受け入れに大きくかじを切ったと見ていいでし…

フランチェスコ・グァラ『制度とはなにか』

著者はイタリアの哲学者で、以前に出した『科学哲学から見た実験経済学』が翻訳されています。昨年、『現代経済学』(中公新書)を出した経済学者の瀧澤弘和が監訳していますが、内容的には哲学の本と言っていいでしょう。 ただし、その内容は社会科学と密接…

イヴォ・アンドリッチ『宰相の象の物語』

松籟社<東欧の想像力>シリーズの新刊はボスニア出身のノーベル賞作家イヴォ・アンドリッチの中篇と短篇を集めたもの。 収録作品は「宰相の象の物語」、「シナンの僧院(テキヤ)に死す」、「絨毯」、「アニカの時代」の4篇。「宰相の象の物語」と「アニカ…

2018年の本

毎年恒例ということで、今年は小説以外の本から新刊(文庫化含む)を読んだ順で6冊、少し前の本から2冊を紹介したいと思います。 小説に関しては去年にひき続いて今年もあまり読めず…という感じで、なおかつ突き抜けたようなすごい小説は読めなかったので、…

千田航『フランスにおける雇用と子育ての「自由選択」』

ずっと日本では少子化が大きな問題として認識されています。一時期よりは良くなったとはいえ、2016年の合計特殊出生率は1.44 で、今の人口を維持していくことはできない水準となっています。 少子化は基本的には先進国に共通した問題なのですが、下のグラフ…

大山礼子『政治を再建する、いくつかの方法』

『日本の国会』(岩波新書)が非常に面白かった著者による現在の日本政治についての提言の書ですが、政治学への入門書ともなっていると思います。 叙述のスタイルは違えども、方向性は砂原庸介『民主主義の条件』と似ています。議会制民主主義の行き詰まりに…

ミロスラフ・ペンコフ『西欧の東』

1982年にブルガリアで生まれたミロスラフ・ペンコフの短篇集。ペンコフは2001年にアメリカに渡り心理学などを学んだあとに創作活動に入っており、この作品も英語で書かれています。 東欧の作家というとダニロ・キシュなんかをはじめとして一文が長いひねった…

加茂具樹・林載桓編『現代中国の政治制度』

著者の一人である梶谷懐氏よりご恵投いただきました。ありがとうございます。 本書はタイトルの通り、現代中国の政治制度についての本なのですが、特徴としては、確固たる「制度」が固まってない内容に見える中国の政治制度を、ピアソンの経路依存の考えを用…

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

村上春樹の小説に関しては『1Q84』を読んで、「今後はこんな感じの変奏なのかな?」と思い、しばらく読んでいなかったのですが、読む予定だった海外小説が店頭になかったりしたので、読んでみました。 読んだ感想としては、やはりなかなか面白い。20歳の…

向大野新治『議会学』

衆議院事務総長をつとめる著者による本。本書の売りは主に2点で、1つは長年国会の運営に携わってきた政治観や議会観。もう1つは議会に関する雑学的な知識です。 とりあえず、目次は以下の通りです。 第1章 統治上の意思決定をするのは誰か第2章 政治とは何…