読書

ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』

『フリーダム』がとても面白かったアメリカの作家ジョナサン・フランゼンの長編小説になります。『フリーダム』が2009年発表の第4長編、この『コレクションズ』は2001年発表の第3長編です。 まずタイトルの「コレクションズ」ですが「Collections」ではなく…

田野大輔『ファシズムの教室』

長年、大学で「ファシズムの体験授業」を行っていた著者による授業実践の記録になります。履修している学生たちに、白いシャツを着せ、「ハイル、タノ!」と叫ばせ、キャンパスにいるリア充(サクラ)を糾弾するというユニークでインパクトのある授業はWeb記…

伊藤修一郎『政策実施の組織とガバナンス』

副題は「広告景観規制をめぐる政策リサーチ」。タイトルと副題からは面白さは感じられないかもしれまえんが、「なぜ守られないルールがあるのか?」「なぜ政策は失敗するのか?」といった問いに変形すると、ちょっと興味が湧いてくるかもしません。 そして、…

酒井正『日本のセーフティーネット格差』

副題は「労働市場の変容と社会保険」。この書名と副題から「非正規雇用が増える中で社会保険がセーフティーネットの役割を果たせなくなってきたことを指摘している本なのだな」と想像する人も多いでしょう。 これは間違いではないのですが、本書は多くの人の…

ケン・リュウ編『月の光』

『折りたたみ北京』につづく、ケン・リュウ編の現代中国SFアンソロジーの第2弾。2段組で500ページ近くあり、しかもSF作品だけでなく、現在の中国のSFの状況を伝えるエッセイなども収録されており、盛りだくさんの内容となっています。 まず、多くの人にとっ…

谷口将紀『現代日本の代表制民主政治』

本書では1ページ目にいきなり下のようなグラフが掲げられており、「この図が、本書の到達点、そして出発点である」(2p)と述べられています。 グラフのちょうど真ん中の山が有権者の左右イデオロギーの分布、少し右にある山が衆議院議員の分布、そしてその…

陳楸帆『荒潮』

劉慈欣『三体』を筆頭に近年盛り上がりを見せている中華SFですが、この作品もその1つ。著者はチェン・チウファンと読みます(英名はスタンリー・チェン)。すでにケン・リュウ編『折りたたみ北京』を読んだ人は、そこに「鼠年」、「麗江の魚」、「沙嘴の花」…

ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン『自由の命運』

『国家はなぜ衰退するのか』のコンビが再び放つ大作本。「なぜ豊かな国と貧しい国が存在するのか?」という問題について、さまざまな地域の歴史を紐解きながら考察しています。 と、ここまで聞くと前著を読んだ人は「『国家はなぜ衰退するのか』もそういう話…

外山文子『タイ民主化と憲法改革』

ここ数年、欧米ではポピュリズムの嵐が吹き荒れています。「ポピュリズム」がいかなるものかということに関してさまざまな議論がありますが、「法の支配」や「司法の独立」といった概念への攻撃がその特徴としてあげられることがあります。 これはリベラル・…

木下衆『家族はなぜ介護してしまうのか』

「家族はなぜ介護してしまうのか」、なんとも興味をそそるタイトルですが、本書は、認知症患者のケアにおける家族の特権的な立場と、それゆえに介護専門職というプロがいながら、家族が介護の中心にならざるを得ない状況を社会学者が解き明かした本になりま…

佐藤卓己『『キング』の時代』

『キング』というと関東大震災以後の大衆文化を代表するものとして日本史の教科書にも登場しています。ただし、100万部を売ったということが紹介されているだけど、その具体的な中身や人気の秘訣については知らない人も多いと思います。 そんな『キング』に…

ルーシャス・シェパード『タボリンの鱗』

一昨年に刊行されて面白かった『竜のグリオールに絵を描いた男』と同じく、全長1マイルにも及ぶ巨竜グリオールを舞台にした連作の続編。今作では「タボリンの鱗」と「スカル」の2篇を収録しており、どちらも中篇といっていいボリュームです。 グリオールは魔…

エリック・A・ポズナー/E・グレン・ワイル『ラディカル・マーケット』

「市場こそが社会を効率化するもので、できるだけ市場原理を導入すべきだ」という考えは、いわゆる新自由主義の潮流の中でたびたび主張されており、特に目新しい提案ではないです。 では、この本は何が目新しいのか、何がラディカルなのかというと、私有財産…

パク・ミンギュ『短篇集ダブル サイドA』

『ピンポン』や『三美スーパースターズ』という2冊の長編が非常に面白かったパク・ミンギュの短編集。この短編集は2枚組のアルバムを意識しており、『サイドA』と『サイドB』が同時に発売されていますが、とりあえず『サイドA』から読んでみました。 収録さ…

2010年代、社会科学の10冊

2010年代になって自分の読書傾向は、完全に哲学・思想、心理、社会、歴史といった人文科学から政治、経済などの社会科学に移りました。その中でいろいろな面白い本に出会うことができたわけですが、基本的に社会科学の本、特に専門書はあまり知られていない…

岡奈津子『〈賄賂〉のある暮らし』

副題は「市場経済化後のカザフスタン」。中央アジアのカザフスタンを舞台に人々の生活の間に賄賂がどのように根を下ろしているのか、人びとはそれをどう感じているのかということを探った本になります。 途上国において、賄賂がものを言うと話はよく聞きます…

オルガ・トカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』

去年、ノーベル文学賞を受賞したポーランドの女性作家オルガ・トカルチュクの小説が松籟社の<東欧の想像力〉シリーズから刊行。訳者の解説によると解説を執筆中に受賞の報を聞いたということで、まさにタイムリーな刊行になります。 トカルチュクの小説に関…

小川有美(編)宮本太郎・水島治郎・網谷龍介・杉田敦(著)『社会のためのデモクラシー』

副題は「ヨーロッパの社会民主主義と福祉国家」。なかなか豪華な執筆陣が並んでいる本ですが、篠原一が中心メンバーとなって始めたかわさき市民アカデミーで2014年に行われた講義をまとめたものになります。 かわさき市民アカデミーが発行者となっているから…

松尾隆佑『ポスト政治の政治理論』

面白く読みましたが、なかなか紹介の難しい本でもあります。 まず、タイトルを見ても中身がわからない。これが「ポスト代議制の政治理論」とかであれば、「ああ、直接民主制その他を語った本なのか」と想像がつきますが、「ポスト政治」という言葉は一般の人…

テッド・チャン『息吹』

テッド・チャンの『あなたの人生の物語』以来17年ぶりの作品集。 すでに各所方面で絶賛されているので改めて詳しく書く必要もないかと思うほどですが、やはりテッド・チャンは優れた作家だと認識させられる作品集です。 前作の『あなたの人生の物語』に比べ…

2019年の本

毎年恒例のエントリー。今年はまず小説以外の本(と言ってもほぼ社会科学の本ですが)を読んだ順で9冊紹介します。 小説に関しては去年は順位をつけませんでしたが、今年は順位をつけて5冊紹介します。 ちなみに新書のほうは以下に今年のベストをまとめてあ…

ジャスティン・ゲスト『新たなマイノリティの誕生』

2016年に大西洋を挟んで起きたイギリスのBrexitとアメリカの大統領選でのトランプの当選は世界に大きな衝撃を与え、この2つの事柄が起きた背景や原因を探る本が数多く出されました。 本書もそうした本の1つなのですが、何といっても本書の強みは2016年以前か…

神林長平『いま集合的無意識を、』

この前読んだ『絞首台の黙示録』が非常に奇妙で面白かったので、神林長平の2012年に出版された短編集を読んでみました。 なんといっても注目を集めるのが、パソコンの画面に伊藤計劃を名乗る文字列が現れて神林長平本人らしき作家と対話を行う表題作の「いま…

田中(坂部)有佳子『なぜ民主化が暴力を生むのか』

紛争が終結して、新しい国づくりを始めてそのために選挙も行ったのに、再び政事的暴力が噴出してしまう。これはよくあるパターンだと思います。近年だと南スーダンがそうでした。PKOで派遣されていた自衛隊が武力衝突に巻き込まれそうになっていたのは記憶に…

スティーヴン・クレイン『勇気の赤い勲章』

1895年に発表された南北戦争を舞台にした戦争小説。ヘミングウェイも激賞している小説で、解説で訳者の藤井光が「二十世紀の大半を通じて、さらには今世紀に至るまでのアメリカ文学における戦争小説のひとつの「型」は、クレインのこの小説によって完成した…

猪俣哲史『グローバル・バリューチェーン』

本書の冒頭にある問いは「iPhoneはメイド・インどこか?」というものです。USAでしょうか? チャイナでしょうか? それとも別の国でしょうか? 正解は「Designed by Apple in Califoronia, Assembled in China.」というものです。 iPhoneは一つの典型的な例…

神林長平『絞首台の黙示録』

前々から神林長平の作品を読んでおきたいなと思っていたのですが、たまたま手にとった本書の解説が東浩紀で、面白そうだったので読んでみました。 そしたら、面白い! とにかくすごく変な小説で、奇想と言ってもいいかも知れません。国書刊行会がマイナーで…

ポール・コリアー『エクソダス』

『最底辺の10億人』、『民主主義がアフリカ経済を殺す』などの著作で知られる開発経済学者のポール・コリアーが移民について論じた本。 トランプ大統領の誕生にBrexitと、移民の問題がクローズアップされる機会が続きましたが、この本の原書が出たのは2013年…

マイケル・オンダーチェ『戦下の淡き光』

1945年、うちの両親は、犯罪者かもしれない男ふたりの手に僕らをゆだねて姿を消した。 これがこの小説の冒頭の一文です。この一文からもわかるようにオンダーチェの新作は非常にミステリーの要素が強いです。読み始めたときは、まずカズオ・イシグロの『わた…

帶谷俊輔『国際連盟』

副題は「国際機構の普遍性と地域性」。国際連盟の抱えていた問題を、第一次世界大戦後の中国に対する連盟のスタンスや、南米のチャコ紛争に対する連盟の関わりなどから探ろうとした本になります。 国際連盟というと「失敗だった」というイメージが強いと思い…