読書

シェルドン・テイテルバウム 、エマヌエル・ロテム編『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』

ここ最近、「グリオール」シリーズなどのSFを出している竹書房文庫から出たのが、この『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』。 知られざるイスラエルのSFの世界を紹介するという意味では、中国SFを紹介したケン・リュウ編『折りたたみ北京』、『…

エマニュエル・サエズ/ガブリエル・ズックマン『つくられた格差』

ピケティの共同研究者でもあるサエズとズックマンのこの本は、格差の原因を探るのではなく、格差を是正するための税制を探る内容になっています。序のタイトルが「民主的な税制を再建する」となっていますが、このタイトルがまさに本書の内容を示していると…

西川賢『分極化するアメリカとその起源』

現在行われている大統領選挙やその他の政治的な風景を見ても、アメリカの政治が「分極化」していることは容易に見て取れます。共和党と民主党では、その世界観や生活スタイルまですべてが違ってしまっている感じです。 しかし、以前のアメリカでは政党の規律…

ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ『忘却についての一般論』

白水社<エクス・リブリス>シリーズの1冊で、アンゴラ生まれの作家によるアンゴラの内戦を背景にした作品。 著者はアンゴラでポルトガル・ブラジル系の両親のもとに生まれ、リスボンの大学を出て文筆業に入っています。書く言語はポルトガル語になります。 …

宍戸常寿・大屋雄裕・小塚荘一郎・佐藤一郎編著『AIと社会と法』

宍戸常寿・大屋雄裕・小塚荘一郎・佐藤一郎の4人が、有斐閣の『論究ジュリスト』誌上で行った研究会の様子をまとめた本になります。法学者の宍戸、大屋、小塚と工学者の佐藤の4人がコアメンバーとなり、1回につき2人のゲストスピーカーを迎えながら、AIがも…

ピーター・テミン『なぜ中間層は没落したのか』

著者は著名な経済史家で、経済学の立場としてはケインジアンだといいます。そんな著者が「なぜ中間層は没落したのか」というタイトルの本を書いたというと、近年の経済の動きと格差の拡大を実証的に分析した本を想像しますが、本書はかなり強い主張を持った…

ファトス・コンゴリ『敗残者』

松籟社<東欧の想像力>シリーズの最新刊。今回はアルバニアの最重要作家とされるファトス・コンゴリのデビュー作になります。 この小説は主人公のセサルが、1991年にアルバニアからイタリアへと脱出する船に乗りながら、土壇場で船降りて故郷に戻ってしまう…

藤田覚『日本の開国と多摩』

『勘定奉行の江戸時代』(ちくま新書)など、江戸時代の政治史を中心に数々の著作を発表してきた著者が開国が東京の多摩地域に与えた影響をまとめた本。「あとがき」によると、八王子市の市史編纂事業に関わるようになったことがきっかけで本書をまとめたと…

コロナと読書

タイトルからするとコロナ禍の中での読書生活の記録みたいに思えますが、そうではなくて、1学期も終わって少し落ち着いたところで、新型コロナウイルス問題を考える上で参考になった本をいくつかあげておこうというエントリーです。 とは言っても、医学的な…

待鳥聡史『政治改革再考』

平成という時代の政治を振り返ってみると、「改革」という言葉が飛び交い、実際に「改革」が行われた時代であったと言えるでしょう。小選挙区比例代表並立制が導入された選挙制度改革と、省庁再編、地方分権、司法改革、さらには日銀法の改正と、憲法の改正…

劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』

『三体』の続編が上下巻で登場。今回は宇宙艦隊も登場し、話はますますスケールアップしていきます。 前作では3つの太陽のある惑星系に住む三体人の存在が明かされ、その三体人が地球を狙って大艦隊を送り込むという展開になっていました。しかも三体人は智…

アビジット・V・バナジー& エステル・デュフロ『絶望を希望に変える経済学』

2019年にノーベル経済学賞を受賞した2人(マイケル・クレーマーも同時受賞)による経済学の啓蒙書。2人の専門である開発分野だけでなく、移民、自由貿易、経済成長、地球温暖化、格差問題と非常に幅広い問題を扱っています。 著者らが得意とするのはRCT(ラ…

ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』

『フリーダム』がとても面白かったアメリカの作家ジョナサン・フランゼンの長編小説になります。『フリーダム』が2009年発表の第4長編、この『コレクションズ』は2001年発表の第3長編です。 まずタイトルの「コレクションズ」ですが「Collections」ではなく…

田野大輔『ファシズムの教室』

長年、大学で「ファシズムの体験授業」を行っていた著者による授業実践の記録になります。履修している学生たちに、白いシャツを着せ、「ハイル、タノ!」と叫ばせ、キャンパスにいるリア充(サクラ)を糾弾するというユニークでインパクトのある授業はWeb記…

伊藤修一郎『政策実施の組織とガバナンス』

副題は「広告景観規制をめぐる政策リサーチ」。タイトルと副題からは面白さは感じられないかもしれまえんが、「なぜ守られないルールがあるのか?」「なぜ政策は失敗するのか?」といった問いに変形すると、ちょっと興味が湧いてくるかもしません。 そして、…

酒井正『日本のセーフティーネット格差』

副題は「労働市場の変容と社会保険」。この書名と副題から「非正規雇用が増える中で社会保険がセーフティーネットの役割を果たせなくなってきたことを指摘している本なのだな」と想像する人も多いでしょう。 これは間違いではないのですが、本書は多くの人の…

ケン・リュウ編『月の光』

『折りたたみ北京』につづく、ケン・リュウ編の現代中国SFアンソロジーの第2弾。2段組で500ページ近くあり、しかもSF作品だけでなく、現在の中国のSFの状況を伝えるエッセイなども収録されており、盛りだくさんの内容となっています。 まず、多くの人にとっ…

谷口将紀『現代日本の代表制民主政治』

本書では1ページ目にいきなり下のようなグラフが掲げられており、「この図が、本書の到達点、そして出発点である」(2p)と述べられています。 グラフのちょうど真ん中の山が有権者の左右イデオロギーの分布、少し右にある山が衆議院議員の分布、そしてその…

陳楸帆『荒潮』

劉慈欣『三体』を筆頭に近年盛り上がりを見せている中華SFですが、この作品もその1つ。著者はチェン・チウファンと読みます(英名はスタンリー・チェン)。すでにケン・リュウ編『折りたたみ北京』を読んだ人は、そこに「鼠年」、「麗江の魚」、「沙嘴の花」…

ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン『自由の命運』

『国家はなぜ衰退するのか』のコンビが再び放つ大作本。「なぜ豊かな国と貧しい国が存在するのか?」という問題について、さまざまな地域の歴史を紐解きながら考察しています。 と、ここまで聞くと前著を読んだ人は「『国家はなぜ衰退するのか』もそういう話…

外山文子『タイ民主化と憲法改革』

ここ数年、欧米ではポピュリズムの嵐が吹き荒れています。「ポピュリズム」がいかなるものかということに関してさまざまな議論がありますが、「法の支配」や「司法の独立」といった概念への攻撃がその特徴としてあげられることがあります。 これはリベラル・…

木下衆『家族はなぜ介護してしまうのか』

「家族はなぜ介護してしまうのか」、なんとも興味をそそるタイトルですが、本書は、認知症患者のケアにおける家族の特権的な立場と、それゆえに介護専門職というプロがいながら、家族が介護の中心にならざるを得ない状況を社会学者が解き明かした本になりま…

佐藤卓己『『キング』の時代』

『キング』というと関東大震災以後の大衆文化を代表するものとして日本史の教科書にも登場しています。ただし、100万部を売ったということが紹介されているだけど、その具体的な中身や人気の秘訣については知らない人も多いと思います。 そんな『キング』に…

ルーシャス・シェパード『タボリンの鱗』

一昨年に刊行されて面白かった『竜のグリオールに絵を描いた男』と同じく、全長1マイルにも及ぶ巨竜グリオールを舞台にした連作の続編。今作では「タボリンの鱗」と「スカル」の2篇を収録しており、どちらも中篇といっていいボリュームです。 グリオールは魔…

エリック・A・ポズナー/E・グレン・ワイル『ラディカル・マーケット』

「市場こそが社会を効率化するもので、できるだけ市場原理を導入すべきだ」という考えは、いわゆる新自由主義の潮流の中でたびたび主張されており、特に目新しい提案ではないです。 では、この本は何が目新しいのか、何がラディカルなのかというと、私有財産…

パク・ミンギュ『短篇集ダブル サイドA』

『ピンポン』や『三美スーパースターズ』という2冊の長編が非常に面白かったパク・ミンギュの短編集。この短編集は2枚組のアルバムを意識しており、『サイドA』と『サイドB』が同時に発売されていますが、とりあえず『サイドA』から読んでみました。 収録さ…

2010年代、社会科学の10冊

2010年代になって自分の読書傾向は、完全に哲学・思想、心理、社会、歴史といった人文科学から政治、経済などの社会科学に移りました。その中でいろいろな面白い本に出会うことができたわけですが、基本的に社会科学の本、特に専門書はあまり知られていない…

岡奈津子『〈賄賂〉のある暮らし』

副題は「市場経済化後のカザフスタン」。中央アジアのカザフスタンを舞台に人々の生活の間に賄賂がどのように根を下ろしているのか、人びとはそれをどう感じているのかということを探った本になります。 途上国において、賄賂がものを言うと話はよく聞きます…

オルガ・トカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』

去年、ノーベル文学賞を受賞したポーランドの女性作家オルガ・トカルチュクの小説が松籟社の<東欧の想像力〉シリーズから刊行。訳者の解説によると解説を執筆中に受賞の報を聞いたということで、まさにタイムリーな刊行になります。 トカルチュクの小説に関…

小川有美(編)宮本太郎・水島治郎・網谷龍介・杉田敦(著)『社会のためのデモクラシー』

副題は「ヨーロッパの社会民主主義と福祉国家」。なかなか豪華な執筆陣が並んでいる本ですが、篠原一が中心メンバーとなって始めたかわさき市民アカデミーで2014年に行われた講義をまとめたものになります。 かわさき市民アカデミーが発行者となっているから…