政治

瀧井一博『大久保利通』

副題は「「知」を結ぶ指導者」。 以前著者の書いた『伊藤博文』(中公新書)の副題が「知の政治家」だったことを覚えている人は「また知なのか?」と思うかもしれませんし、大久保をそれなりに知っている人からしても大久保に「知」という特徴を当てはめるこ…

池内恵、宇山智彦、川島真、小泉悠、鈴木一人、鶴岡路人、森聡『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』

東京大学出版会から刊行されている「UP plus」シリーズの1冊で、形式としてはムックに近い形になります。 このシリーズでは川島真・森聡編『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』を読んだことがありますが、『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』…

ケネス・盛・マッケルウェイン『日本国憲法の普遍と特異』

「75年間、1文字も変わらなかった世界的に稀有な憲法典」 これは、本書の帯に書かれている言葉ですが、今まで存在した成文憲法中、改正されないままに使われている長さにおいて、日本国憲法は1861年に制定されイタリア憲法に続いて歴代第2位です。日本国憲法…

木山幸輔『人権の哲学』

本書の書き出しは次のようなものです。 本書の目的は、人権に確定性を与えつつ、当該概念を適切に正当化する、そうした構想を提示することにある。より具体的にいえば、本書の目的は、人権の適切な構想として自然本性的構想、なかんずく二元的理論と本書が呼…

川中豪『競争と秩序』

副題は「東南アジアにみる民主主義のジレンマ」。フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポールの5カ国を比較しながら、安定した民主主義には何が必要なのかということを探っています。 民主主義を語る時に引き合いに出されるのは欧米の、いわ…

北村亘編『現代官僚制の解剖』

2019年に出版された青木栄一編著『文部科学省の解剖』は、過去に村松岐夫が中心となって行った官僚サーベイ(村松サーベイ)を参考に、文部科学省の官僚に対して行ったサーベイによって文部科学省の官僚の実態を明らかにしようとしたものでした。 本書は、そ…

リン・ハント『人権を創造する』

タイトルからして面白そうだなと思っていた本ですが、今年になって11年ぶりに重版されたのを機に読んでみました。 「人権」というのは、今生きている人間にとって欠かせないものだと認識されていながら、ある時代になるまでは影も形もなかったという不思議な…

岡田憲治『政治学者、PTA会長になる』

近年、さまざまな場所で批判的に語られることが多いPTA。どんな事情があってもやらされるかもしれない恐怖の役員決め、非効率の権化のように言われてるベルマーク集めなど、PTAについてのネガティブな話を聞いたという人は多いと思います。 また、PTAをなく…

渡邉有希乃 『競争入札は合理的か』

公共事業では、それを施工する業者を入札で決めることが一般的です。多くの業者が参加して、その中で最安を提示した業者がその工事を落札するわけです。 ところが、日本の公共事業では指名競争入札という形で、発注側が入札できる業者をあらかじめ指定したり…

竹中佳彦・山本英弘・濱本真輔編『現代日本のエリートの平等観』

近年、日本でも格差の拡大が問題となっていますが、その格差をエリートたちはどのように捉えているのでしょうか? 本書は、そんな疑問をエリートに対するサーベイ調査を通じて明らかにしようとしたものになります。 このエリートに対する調査に関しては、198…

S・C・M・ペイン『アジアの多重戦争1911-1949』

満州事変から日中戦争、太平洋戦争という流れを「十五年戦争」というまとまったものとして捉える見方がありますが、本書は中国における1911年の清朝崩壊から1949年の中華人民共和国の成立までを一連の戦争として捉えるというダイナミックな見方を提示してい…

松林哲也『政治学と因果推論』

新しく刊行が始まった岩波の「シリーズ ソーシャル・サイエンス」の1冊。このシリーズは筒井淳也『社会学』も読みましたが(本書のあとに紹介記事を書く予定)、どちらも面白く期待が持てますね。 ここ数年、因果推論に関する本がいくつも出ており、基本的に…

小林悠太『分散化時代の政策調整』

著者の博論をもとにした本で副題は「内閣府構想の展開と転回」。興味深い現象を分析しているのですが、なかなか紹介するのは難しい本ですね。 タイトルの「分散化時代」と言っても「そんな言葉は聞いたことがないし、何が分散したんだ?」となりますし、「政…

倉田徹『香港政治危機』

2014年の雨傘運動、2019年の「逃亡犯条例」改正反対の巨大デモ、そして2020年の香港国家安全維持法(国安法)の制定による民主と自由の蒸発という大きな変化を経験した香港。その香港の大きな変動を政治学者でもある著者が分析した本。 香港返還からの中国と…

善教将大『大阪の選択』

今年10月の総選挙で躍進を遂げた維新の会、特に大阪では候補者を立てた選挙区を全勝するなど圧倒的な強さを見せました。結成された当初は「稀代のポピュリスト」橋下徹の人気に引っ張られた政党という見方もあったと思いますが、橋下徹が政界を引退してもそ…

デイヴィッド・ガーランド『福祉国家』

ミュデ+カルトワッセル『ポピュリズム』やエリカ・フランツ『権威主義』と同じくオックスフォード大学出版会のA Very Short Introductionsシリーズの一冊で、同じ白水社からの出版になります(『ポピュリズム』はハードカバーで『権威主義』と本書はソフト…

アダム・プシェヴォスキ『それでも選挙に行く理由』

日本でも先日、衆議院議員の総選挙が行われ、その結果に満足した人も不満を覚えた人もいるでしょうが、冒頭の「日本語版によせて」の中で、著者は「選挙の最大の価値は、社会のあらゆる対立を暴力に頼ることなく、自由と平和のうちに処理する点にあるという…

キャス・サンスティーン『入門・行動科学と公共政策』

副題は「ナッジからはじまる自由論と幸福論」。著者はノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーらとともに「ナッジ」を利用した政策を推し進めようとしている人物であり、オバマ政権では行政管理予算局の情報政策及び規制政策担当官も務めています。 …

よりよい床屋政談のために〜2021年衆院選のためのブックガイド〜

岸田内閣が成立し、衆議院の総選挙が10月31日に決まりました。政治好きとしては「総選挙」と聞くだけでなんとなく盛り上がってしまうのですが、ここ数回の国政選挙に関してはその結果に不満を持っている野党支持者、あるいは無党派の人も少なくないと思いま…

ジェフリー・ヘニグ『アメリカ教育例外主義の終焉』

タイトルからはなかなか内容が見えてこない本で、かなりマニアック内容ではないかと想像させますが、意外に日本の教育をめぐる政治を考える時に役に立つ本です。 アメリカでは、教育は伝統的に学区によって運営されてきました。学区は公選の教育委員会などに…

アブナー・グライフ『比較歴史制度分析」上・下

エスカレーターに乗るとき、東京では左側に立って右側を空け、大阪では右側に立って左側を空けます。別にどちらを空けてもいいようなものですが、なぜかこのようになっています。 この「なぜ?」を説明するのがゲーム理論と均衡の考え方です。一度「右側空け…

ブランコ・ミラノヴィッチ『資本主義だけ残った』

世界の不平等について論じた『不平等について』や、「エレファント・カーブ」を示して先進国の中間層の没落を示した『大不平等』などの著作で知られる経済学者による資本主義論。 現在の世界を「リベラル能力資本主義」(アメリカ)と「政治的資本主義」(中…

高岡裕之『総力戦体制と「福祉国家」』

歴史を見ていくと、日本が戦争へと突き進んでいく中で、1938年に厚生省が誕生し、同年に農家・自営業者向けの国民健康保険法が創設され、42年に労働者年金保険が誕生するなど、福祉政策が進展していたのがわかります(1940年の国民学校の創設と義務教育の延…

宮本太郎『貧困・介護・育児の政治』

社会保障に関する政府のさまざまな会議の委員を務め、民主党政権では内閣参与になるなど、近年の日本の社会保障政策の形成にも携わってきた著者が、ここ30年ほどの日本の社会保障の歴史を振り返り、「なぜこうなっているのか?」ということを読み解き、今後…

山尾大『紛争のインパクトをはかる』

タイトルからは何の本かわからないかもしれませんが、副題の「世論調査と計量テキスト分析からみるイラクの国家と国民の再編」を見れば、ISの台頭など、紛争が続いたイラクの状況について計量的なアプローチをしている本なのだと想像がつきます。 近年の政治…

中井遼『欧州の排外主義とナショナリズム』

イギリスのBrexit、フランスの国民戦線やドイツのAfDなどの右翼政党の台頭など、近年ヨーロッパで右翼政勢力の活動が目立っています。そして、その背景にあるのが移民や難民に対する反発、すなわち排外主義であり、その排外主義を支持しているのがグローバリ…

上林陽治『非正規公務員のリアル』

ある制度が良いのか悪いのかというのはなかなか難しく、簡単には判断を下せないケースが多いのです。例えば、選挙制度は小選挙区制がいいのか比例代表制がいいのか、日本型の雇用制度が良いのか悪いのか、といったことは一概には判断を下せないと思っていま…

アン・ケース/アンガス・ディートン『絶望死のアメリカ』

『大脱出』の著者でもあり、2015年にノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートンとその妻で医療経済学を専攻するアン・ケースが、アメリカの大卒未満の中年白人男性を襲う「絶望死」の現状を告発し、その問題の原因を探った本。 この絶望しに関しては、…

エリカ・フランツ『権威主義』

ここ最近、民主主義をテーマにした本が数多く出版されていますが、民主主義ではない政治というのは一体どんなものでしょう? 本書は、その「民主主義ではない政治」である権威主義について語ったものになります。オックスフォード大学出版局の「What Everyon…

坂口安紀『ベネズエラ』

副題は「溶解する民主主義、破綻する経済」で、中公選書の1冊になります。 ベネズエラに関しては、コロナ前に経済がほぼ崩壊しているといったニュースが流れていました。その後、コロナ禍の影響でベネズエラに関するニュースは減っていますが、この状況で経…