歴史

手嶋泰伸『統帥権の独立』

明治憲法のはらんだ大きな問題点であり、日本を戦争の道へと導いたとされる「統帥権の独立」の問題。 タイトル通りに本書はこの問題を扱っているのですが、特徴は今まで注目されてきた陸軍の動きだけではなく海軍の動きも追っているところで、そこから「専門…

岩谷將『盧溝橋事件から日中戦争へ』

本書の「あとがき」を読むと、この本を書き上げるまでの著者の経験が普通ではなかったことがわかります。 著者は2019年に中国で2ヶ月以上も拘束され、その後解放されました。そのため普通は恩師や同僚、編集者などが並ぶ謝辞において、安倍晋三元首相や菅義…

中田潤『ドイツ「緑の党」史』

ヨーロッパの政治シーンにあって、日本の政治シーンではほぼ存在感がない政治勢力に「緑」があげられると思います。 その「緑」の中でも、特にドイツの緑の党は以前から存在感を持っており、現在のショルツ政権では与党の一角を担っています。 この緑の党の…

トマ・ピケティ『資本とイデオロギー』

本書を「『21世紀の資本』がベストセラーになったピケティが、現代の格差の問題とそれに対する処方箋を示した本」という形で理解している人もいるかもしれません。 それは決して間違いではないのですが、本書は、そのために人類社会で普遍的に見られる聖職者…

須田努・清水克行『現代を生きる日本史』

『幕末社会』(岩波新書)の須田努と、『喧嘩両成敗の誕生』(講談社選書メチエ)や『戦国大名と分国法』(岩波新書)などの清水克行の2人が、縄文から現代に至るまでの「日本史」を語った本になります。 もともとは明治大学の文学部史学科以外の学生を対象…

安中進『貧困の計量政治経済史』

貧困について、過去の状況を計量的に分析した本になりますが、本書の特徴は対象が日本の近代という点です。 貧困の歴史について欧米中心に計量的に分析した本としては、アンガス・ディートン『大脱出』などいくつか思いつきますが、近代日本を対象とした本は…

竹内桂『三木武夫と戦後政治』

実は本書の著者は大学時代のゼミも一緒だった友人で、いつか書いた本を読んでみたいものだと思っていたのですが、まさか「あとがき」まで入れて761ページ!というボリュームの本を書き上げてくるとは思いませんでした。 タイトルからもわかるように三木武夫…

小宮京『語られざる占領下日本』

去年、NHKスペシャルの「未解決事件」で、松本清張の『小説 帝銀事件』と『日本の黒い霧』をベースにして帝銀事件がとり上げられたのを見た人も多いかと思います。 松本清張の推理は犯人は731部隊の関係者でGHQの圧力によって捜査が中止されたというものでし…

ルーク・S・ロバーツ『泰平を演じる』

副題は「徳川期日本の政治空間と「公然の秘密」」。 何とも面白そうなタイトルと副題ですが、翻訳に関しても監訳を務める三谷博が本書の面白さに注目してネット上で訳者を募り、それに応じた友田健太郎が訳したというもので、今までにはない切り口で江戸時代…

板橋拓己『分断の克服 1989-1990』

副題は「統一をめぐる西ドイツ外交の挑戦」、ドイツ統一を西ドイツの外相であったゲンシャーを中心に追ったものになります。 著者が訳した本に、ドイツ統一の過程をコンパクトにまとめたアンドレアス・レダー『ドイツ統一』(岩波新書)があります。 この本…

ケイトリン・ローゼンタール『奴隷会計』

奴隷制というと野蛮で粗野な生産方式と見られていますが、「そうじゃないんだよ、実はかなり複雑な帳簿をつけてデータを駆使して生産性の向上を目指していたんだよ」という内容の本になります。 何といっても本書で興味を引くのは、著者は元マッキンゼーの経…

瀧井一博『大久保利通』

副題は「「知」を結ぶ指導者」。 以前著者の書いた『伊藤博文』(中公新書)の副題が「知の政治家」だったことを覚えている人は「また知なのか?」と思うかもしれませんし、大久保をそれなりに知っている人からしても大久保に「知」という特徴を当てはめるこ…

松沢裕作『日本近代社会史』

副題は「社会集団と市場から読み解く 1868-1914」。 タイトルにあるように「近代」の「社会史」なのですが、副題にあるように「社会集団」(身分集団)と「市場」の関わりを軸にして、明治から第1次世界大戦が始まるまでの社会の変容を描いています。 著者の…

リン・ハント『人権を創造する』

タイトルからして面白そうだなと思っていた本ですが、今年になって11年ぶりに重版されたのを機に読んでみました。 「人権」というのは、今生きている人間にとって欠かせないものだと認識されていながら、ある時代になるまでは影も形もなかったという不思議な…

野島剛『蔣介石を救った帝国軍人』

もと朝日新聞の記者で『香港とは何か』(ちくま新書)など台湾や香港に関する著作で知られる著者が、2014年に『ラスト・バタリオン』のタイトルで講談社から出版した本が改題されて文庫化されたものになります。 副題は「台湾軍事顧問団・白団の真相」となっ…

S・C・M・ペイン『アジアの多重戦争1911-1949』

満州事変から日中戦争、太平洋戦争という流れを「十五年戦争」というまとまったものとして捉える見方がありますが、本書は中国における1911年の清朝崩壊から1949年の中華人民共和国の成立までを一連の戦争として捉えるというダイナミックな見方を提示してい…

アブナー・グライフ『比較歴史制度分析』上・下

エスカレーターに乗るとき、東京では左側に立って右側を空け、大阪では右側に立って左側を空けます。別にどちらを空けてもいいようなものですが、なぜかこのようになっています。 この「なぜ?」を説明するのがゲーム理論と均衡の考え方です。一度「右側空け…

黒川みどり『被差別部落認識の歴史』

中学で公民を教えるときに、教えにくい部分の1つが被差別部落の問題です。 問題を一通り教えた後、だいたい生徒から「なんで差別されているの?」という疑問が出てくるのですが、歴史的な経緯を説明できても、現代でも差別が続いている理由をうまく説明する…

高岡裕之『総力戦体制と「福祉国家」』

歴史を見ていくと、日本が戦争へと突き進んでいく中で、1938年に厚生省が誕生し、同年に農家・自営業者向けの国民健康保険法が創設され、42年に労働者年金保険が誕生するなど、福祉政策が進展していたのがわかります(1940年の国民学校の創設と義務教育の延…

ヤン・ド・フリース『勤勉革命』

副題は「資本主義を生んだ17世紀の消費行動」。タイトルと副題を聞くと、「勤勉革命なのに消費行動?」となるかもしれません。 「勤勉革命」という概念は、日本の歴史人口学者の速水融が提唱したものです。速水は、江戸時代の末期に、家畜ではなく人力を投入…

エリック・ウィリアムズ『資本主義と奴隷制』

なぜイギリスは世界ではじめての工業化を成し遂げ、ヴィクトリア時代の繁栄を謳歌しえたのか。この歴史学の大問題について、20世紀半ばまでは、イギリス人、特にピューリタンの勤勉と禁欲と合理主義の精神がそれを可能にしたのだとする見方が支配的だった…

藤田覚『日本の開国と多摩』

『勘定奉行の江戸時代』(ちくま新書)など、江戸時代の政治史を中心に数々の著作を発表してきた著者が開国が東京の多摩地域に与えた影響をまとめた本。「あとがき」によると、八王子市の市史編纂事業に関わるようになったことがきっかけで本書をまとめたと…

マーク・マゾワー『国連と帝国』

授業で国連とかのことを話すときに、「なにか面白い本はないか?」と探していたら、『暗黒の大陸』のマーク・マゾワーが本書『国連と帝国』を出していたことを思い出して、さらに古本がネットで安く買えたので読んでみました。 中学・高校生向けの授業のネタ…

田野大輔『ファシズムの教室』

長年、大学で「ファシズムの体験授業」を行っていた著者による授業実践の記録になります。履修している学生たちに、白いシャツを着せ、「ハイル、タノ!」と叫ばせ、キャンパスにいるリア充(サクラ)を糾弾するというユニークでインパクトのある授業はWeb記…

ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン『自由の命運』

『国家はなぜ衰退するのか』のコンビが再び放つ大作本。「なぜ豊かな国と貧しい国が存在するのか?」という問題について、さまざまな地域の歴史を紐解きながら考察しています。 と、ここまで聞くと前著を読んだ人は「『国家はなぜ衰退するのか』もそういう話…

佐藤卓己『『キング』の時代』

『キング』というと関東大震災以後の大衆文化を代表するものとして日本史の教科書にも登場しています。ただし、100万部を売ったということが紹介されているだけど、その具体的な中身や人気の秘訣については知らない人も多いと思います。 そんな『キング』に…

帶谷俊輔『国際連盟』

副題は「国際機構の普遍性と地域性」。国際連盟の抱えていた問題を、第一次世界大戦後の中国に対する連盟のスタンスや、南米のチャコ紛争に対する連盟の関わりなどから探ろうとした本になります。 国際連盟というと「失敗だった」というイメージが強いと思い…

ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』 

それぞれ数多くの論文を発表し高い評価を得ているアセモグルとロビンソンが「経済成長はどのような条件で起こるのか?」という大テーマについて論じた本。読もうと思いつつも今まで手が伸びていなかったのですが、授業でこの本と似たようなテーマを扱うこと…

クリストファー・R・ブラウニング『増補 普通の人びと』

ナチ・ドイツによるユダヤ人の虐殺について、多くの人はアウシュビッツ−ビルケナウに代表される絶滅収容所による殺害という印象が強いと思います。 そこでは、工場における分業のような形で毒ガスによる虐殺が行われ、多くのドイツ人が自らの職務を果たすこ…

アンドレアス・ヴィルシング、ベルトルト・コーラー、ウルリヒ・ヴィルヘルム編『ナチズムは再来するのか?』

AfD(ドイツのための選択肢)の躍進などによって混迷が深まっているドイツ政治ですが、そうなると取り沙汰されるのが、この本のタイトルともなっている「ナチズムの再来」です。 確かに2017年の総選挙でAfDは一気に94議席を獲得し、既成政党への不満の受け皿…