『窓ぎわのトットちゃん』

 遅ればせながら見てきました。

 評判通りウェルメイドな映画で、アニメの画も演出も非常にレベルが高い。

 昭和の児童画などを参考にしたキャラクターデザインもいいですし、そのキャラがきちんと成長していくところもよくできています。何回かそれまでのトーンとはまったく違うタッチのアニメが差し込まれる演出も面白いですね。

 そして、小林先生というトモエ学園の校長先生で、このストーリーで理想的な存在を演じる役所広司の声がいい。改めていい声をしています。

 

 物語のスタートが日独伊三国同盟が決まった1940年で、ストーリーが進むに連れて戦争の影が濃くなっていくのですが、それを直接的な戦争のシーンなどではなく、子どもを取り巻く風景の変化で描いていることも上手いと思います。

 

 また、この映画を見ると、日中戦争の開始から太平洋戦争の開始に至るまでの期間は、軍国主義に染まっていく時代であるとともに、トモエ学園のようにリベラルで進歩的な学校が存在したり、トットちゃんの家のような西洋的な上流の生活が存在した時代でもあったということもよくわかります。

 トットちゃんの家庭も、トモエ学園の生徒たちも、いわゆる上流階級なので、日本全国がこうだったわけではないはずですが、それでも1930年代後半の爛熟具合というのは改めて注目すべきところですね。

 

 ストーリーの中心となるのは泰明ちゃんという小児麻痺の同級生との交流になるのですが、この泰明ちゃんの描き方も上手くて、彼のコンプレックスや、トットちゃんとの交流で得られた開放感といったものがよくわかるようになっています。

 

 ただし、小1の子どもと一緒に見に行ったのですが、小1の心を掴むにはまだ何かが必要なのかもしれません。

 前半のトットちゃんの行動は面白く見ていましたが、時代に対する知識がなかったり、抑制された演出テクニックを感知できない子どもからすると、物語の中盤においてややダレるかもしれません。

 

 もっとも、「なんでご飯の歌を歌ったら怒らるのか?」とか「後半はなんでみんな暗い顔をしていたのか?」とか聞いてきたので、そういう戦争のことを教えるきっかけとしてはいいのかもしれません。

 小3くらいからなら、もっと自分なりに消化して楽しめる感じですかね?

 

 とにかく当時の時代の描写などはよくできている作品だと思うので、『この世界の片隅に』を気に入った人などには特にお薦めできます。