マイケル・オンダーチェ『戦下の淡き光』

1945年、うちの両親は、犯罪者かもしれない男ふたりの手に僕らをゆだねて姿を消した。 これがこの小説の冒頭の一文です。この一文からもわかるようにオンダーチェの新作は非常にミステリーの要素が強いです。読み始めたときは、まずカズオ・イシグロの『わた…

『ホテル・ムンバイ』

タイトルから「『ホテル・ルワンダ』のようなヒューマンドラマなのかな〜?」くらいにしか思っていなかったのですが、TwitterのTLで「傑作!」との声を聞いて見に行ってみたんですけど、確かにこれは面白い!近年でも出色の緊迫感を持った映画です。 題材は2…

帶谷俊輔『国際連盟』

副題は「国際機構の普遍性と地域性」。国際連盟の抱えていた問題を、第一次世界大戦後の中国に対する連盟のスタンスや、南米のチャコ紛争に対する連盟の関わりなどから探ろうとした本になります。 国際連盟というと「失敗だった」というイメージが強いと思い…

ピョン・ヘヨン『モンスーン』

白水社の<エクス・リブリス>シリーズの1冊ですが、<エクス・リブリス>でも前回配本がハン・ガン『回復する人間』で今作も韓国の女性作家の短篇集。韓国文学は本当に勢いがありますね。 ハン・ガンと同じく、この『モンスーン』の作者のピョン・ヘヨンも1…

Common / Let Love

CD

Commonの12枚目のアルバム。相変わらずの安定感という感じで、気持ちよく聴ける1枚に仕上がっています。 前作の「Black America Again」は、トランプ政権の誕生を受けて、それに対するプロテストというイメージも強かったですが、今回はアルバムタイトルに「…

マンサー・オルソン『集合行為論』

集団と集合財(公共財)の関係を論じた古典的著作。やはり読んでおくべきかと思って読んでみました。 ただ、O・E・ウィリアムソン『市場と企業組織』を読んだときにも思いましたけど、完全に古典というわけでもない少し古めの本を読むと、文脈や著者は想定し…

ハン・ガン『回復する人間』

ほとんどの人たちは一生のあいだ、色や形を大きく変えずに生きていく。けれどもある人たちは何度にも渡って自分の体を取り替える。(「エウロパ」87p) もちろんあたしはまだ人が信じられないし、この世界も信じていないよ。だけど、自分自身を信じないこと…

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

仕事が急遽休みになったので見てきました。 タランティーノ監督の新作は、1969年に起きたロマン・ポランスキーの妻であり女優でもあったシャロン・テートがカルト集団チャールズ・マンソン・ファミリーに殺害された事件をモチーフにした作品。 主人公のリッ…

ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』 

それぞれ数多くの論文を発表し高い評価を得ているアセモグルとロビンソンが「経済成長はどのような条件で起こるのか?」という大テーマについて論じた本。読もうと思いつつも今まで手が伸びていなかったのですが、授業でこの本と似たようなテーマを扱うこと…

ウィリアム・ノードハウス『気候カジノ』 

2018年に気候変動を長期的マクロ経済分析に統合した功績によってノーベル経済学賞を受賞したノードハウスの著書。価格が2000円+税なので、「今までの研究のコアの部分を一般向けに簡単に語った本なのかな」と思って注文したのですが、届いてみたら450ページ…

ロナルド・イングルハート『文化的進化論』

『静かなる革命』、『カルチャーシフトと政治変動』といった著作で、20世紀後半の先進国では物質主義的価値観から脱物質主義的価値観へのシフトが起こったということを主張したイングルハートが2018年に出版した著作の翻訳。 この理論自体はすでに広く知られ…

Of Monsters And Men / Fever Dream

CD

1stは最高だったんですが、変にスケール感を出そうとした2ndはまったくの凡作だったと個人的には思うOf Monsters And Menの3rdアルバム。 今作も基本的にはある程度のスケール感を追求した曲が多いです。1曲目の"Alligator"なんかはドラムで変化をつけていて…

劉慈欣『三体』

ケン・リュウが『折りたたみ北京』などによって紹介してきた現代中国SFの大本命が登場。三部作の第一作にあたる長編ですが、なにしろ中国では三部作の合計で2100万部を売ったそうです。 タイトルの「三体」が物理学の「三体問題」から来ていることと、『折り…

『マーウェン』

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『フォレスト・ガンプ』のロバート・ゼメキス監督が、ミニチュアのG.I.ジョーのホーギー大佐と5人のバービー人形がナチス親衛隊と戦うジオラマを作り、それを写真として発表し高い評価を得たマーク・ホーガンキャンプに…

周燕飛『貧困専業主婦』

表紙裏には「100グラム58円の豚肉をまとめ買いするためい自転車で30分走る」、「月100円の幼稚園のPTA会費をしぶる」などと書いてあり、タイトルからしても最近流行りの「貧困ルポ」の一種かと思う人もいるかも知れませんが、そうではありません。 中国生ま…

クリストファー・R・ブラウニング『増補 普通の人びと』

ナチ・ドイツによるユダヤ人の虐殺について、多くの人はアウシュビッツ−ビルケナウに代表される絶滅収容所による殺害という印象が強いと思います。 そこでは、工場における分業のような形で毒ガスによる虐殺が行われ、多くのドイツ人が自らの職務を果たすこ…

ハーラン・エリスン『愛なんてセックスの書き間違い』

『世界の中心で愛を叫んだけもの』、『死の鳥』などの作品で知られるハーラン・エリスンの非SF作品を集めた短編集。 収録作品は以下の通り。 第四戒なし孤独痛ガキの遊びじゃないラジオDJジャッキージェニーはおまえのものでもおれのものでもないクールに行…

Big Thief / U.F.O.F.

CD

インディーフォーク界の注目バンドで、この3rdアルバムは名門の4ADからリリースされています。 アルバムを聞くのは今回が初めてでしたが、確かにこれは良いアルバム。この手のインディーフォークのアルバムはどうしても途中でだれてしまいやすいのですが、ま…

北岡伸一『世界地図を読み直す』

副題が「協力と均衡の地政学」となっているので、著者流の国際情勢分析かと思いましたが、内容としてはJICA(国際協力機構)の理事長としての仕事をまとめたエッセイとなっています。 ただし、著者は政治学者でありながら日本の国連次席大使も務めたことがあ…

『天気の子』

なかなかいいんじゃないでしょうか。 さすがにエンタメのとしての完成度は『君の名は。』に劣ると思いますが、新海誠作品で「世界か君」かどちらを選ぶとすれば、「君」の一択であってストーリーの大筋は見えるているんですけど、あのラストは力強い。まさに…

アンドレアス・ヴィルシング、ベルトルト・コーラー、ウルリヒ・ヴィルヘルム編『ナチズムは再来するのか?』

AfD(ドイツのための選択肢)の躍進などによって混迷が深まっているドイツ政治ですが、そうなると取り沙汰されるのが、この本のタイトルともなっている「ナチズムの再来」です。 確かに2017年の総選挙でAfDは一気に94議席を獲得し、既成政党への不満の受け皿…

デニス・ジョンソン『海の乙女の惜しみなさ』

先週、レベッカ・ステイモスという聞いたことのない名前の女性から電話があり、共通の友人であるトニー・ファイドが他界したと知らされた。自殺だった。彼女が言ったように、「みずから命を絶った」。 二秒ほど、その言葉の意味が分からなかった。「絶った………

遠藤晶久/ウィリー・ジョウ『イデオロギーと日本政治』

まず、この本のインパクトは帯にも書かれている、「維新は「革新」、共産は「保守」」という部分だと思います。 若年層に政党を「保守」、「革新」の軸で分類されると、日本維新の会を最も「革新」と位置づけるというのです。そして、以下のグラフ(134p図5.…

椎名林檎/三毒史

CD

椎名林檎の4年半ぶりのオリジナルアルバム。圧倒的に良いのは宮本浩次をフィーチャーした"獣ゆく細道"で、宮本浩次の歌手としての力量をいかんなく見せつけた1曲で、暴走していきそうでありながら、1つも音を外さないボーカルは本当に見事です。 エレファン…

『海獣の子供』

五十嵐大介の長編漫画を、松本大洋の『鉄コン筋クリート』などを手がけたSTUDIO 4℃が映画化したもの。 まず、とにかくアニメとしての表現は素晴らしい! 五十嵐大介の線が多くて動かしにくそうなキャラクターを見事に動かしているし、前半に見られるこった構…

ジェリー・Z・ミュラー『測りすぎ』

民間企業だけでなく、学校でも病院でも警察でも、そのパフォーマンスを上げるためにさまざまな指標が測定され、その指標に応じて報酬が上下し、出世が決まったりしています。 もちろん、こうしたことによってより良いパフォーマンスが期待されているわけです…

グレッグ・イーガン『ビット・プレイヤー』

最近、非常にハードなSF長編を世に送り出していたイーガンの久々の短編集。ここ最近の長編に関して、自分にはちょっと難しすぎるなと感じていて、〈直交〉三部作はスルーしていたのですが(『白熱光』まで読んだ)、今回は短編集と聞いて久々に読んでみまし…

ダニ・ロドリック『貿易戦争の政治経済学』

『グローバリゼーション・パラドクス』で、グローバリゼーションのさらなる拡大(ハイパーグローバリゼーション)、国家主権、民主主義の三つのうち二つしか選び取ることができないとする考えを打ち出したトルコ生まれの経済学者の新著。 タイトルからはトラ…

The National/I Am Easy To Find

CD

前作「Sleep Well Beast」が素晴らしかったThe Nationalのニューアルバム。前作はここ20年ほどのロックの到達点といった感じで、複雑なドラムと緻密で切れのあるギターが融合した傑作でした。グラミー賞も受賞しましたし、少なくともインディー・ロックの世…

青木栄一編著『文部科学省の解剖』

一部の人にとっては興味をそそるタイトルでしょうが、さらに執筆者に『現代日本の官僚制』、『日本の地方政府』の曽我謙悟、『政令指定都市』の北村亘、『戦後行政の構造とディレンマ』の手塚洋輔と豪華なメンツが揃っており、精緻な分析が披露されています…