まず、この映画で女性指揮者を演じた主演のケイト・ブランシェットは素晴らしい!
ケイト・ブランシェットはこの映画で「マエストロ」と呼ばれる現代のトップ指揮者を演じているわけですが、冒頭のトークショーのシーンから、まさにマエストロにふさわしい佇まいを見せています。
その後にジュリアード音楽院の指揮者養成コースで、Wokeな若者をやり込めるシーンも完璧で、さすがとしか言いようがないです。
ですから、この映画はケイト・ブランシェットの魅力だけでも十分に見せる映画に仕上がってるのですが、映画としてはやや軸が定まらずにもったいない気もしました。
輝かしいキャリアを持つケイト・ブランシェット演じるリディア・ターですが、実はかつての弟子に対してパワハラもどきのことをしていたことが仄めかされます。
また、ベルリン・フィルの指揮者としてベルリンでマーラーの交響曲第5番にチャレンジしているターは、次第に奇妙な物音や不気味な出来事に悩まされるようになります。
ここまででも、この映画はキャンセル・カルチャーなどの最近の社会現象を描いた映画とも言えますし、『ブラック・スワン』的なサイコホラーだとも言えます。
ただし、キャンセル・カルチャーを正面から描くのであれば、ターがパワハラを振るったというクリスタとの関係をもっと明らかにすべきでしょうし、サイコホラーであれば、もっと現実と幻想を混濁させる必要があるように思えます。
さらにこの映画には音楽について語った映画としても良いものがあると思うのですが、そうなるとサイコホラー風味が余計な気もします。
どの要素がこの映画の魅力と感じるかは人によって違うと思いますが、個人的にケイト・ブランシェットにここまで存在感があるのであればサイコホラー風味はなくして、音楽と人間ドラマで押しても良かったような気がします。