『兎たちの暴走』

 中国の女性監督シェン・ユーが、母娘が娘の同級生を誘拐した実在の事件に着想を得て撮ったという作品。

 映画の冒頭は我が子を誘拐された親たちが警察に行くか行かないかで揉めるシーンから始まり、そこから過去に戻って誘拐事件にいたるまでの顛末が示されます。

 

 舞台は成都の近くの工業都市で、主人公のシュイ・チンは17歳で父と継母と弟と暮らしていますが、継母との折り合いは良くなく、家に居場所がない状況です。

 その友人のマー・ユエユエは広告のモデルなどもしている美人ですが、父は持病もあって貧しく、またユエユエを束縛しようとします。

 もう一人の友人のジン・シーは裕福でクラスでもリーダー的な存在ですが、両親は大都市で働いており、親とは別居が続いています。

 

 シュイ・チンの実の母親がシュイ・チンの住む街に帰ってくることからストーリーが展開していきます。

 ダンサーをしていたという母親は、居場所のない家庭におり、2人の友人と比べても地味なシュイ・チンにとっては、まさに太陽のような存在であり、自らを変えてくる存在ですが、その母親は訳ありで、「良い母親」ではありません。

 それでもシュイ・チンにとっては「本当の母親」であり、2人の友人にとっても外の世界を教えてくる存在です。

 

 この映画、母親役のワン・チエンもいいのですが、何と言ってもシュイ・チン役のリー・ゲンシーがいいですね。

 地味で、ややあどけない感じが、母親と出会うことで強くなり、そして、一線を越えていくさまをしっかりと演じています。

 ラスト近くのシュイ・チンが母親を引っ張る、あることをきっかけにして今度は母親がイニシアティブをとっていく流れは非常に良かったです。

 

 あと、この映画は舞台になっている場所がいいですね。

 成都の近くの川沿いの工業都市で、大きな川がつくる谷に工場があり、その工場の煙突から煙が吐き出されていて、クラシックな感じの工場都市です。それがまた少女たちの感じる閉塞感をうまく引き立てています。

 

 ただ、この映画のラストはやや尻切れトンボのような感じです。

 冒頭が結末的なシーンなので、ここに戻ってくることを期待するのですが、うまく戻ってこないままに映画は終わってしまいます。

 さらに道徳的なメッセージまで表示されるので、「中国の検閲対策なのか?」と思ってしまいましたが、どうなんでしょうか?

 

 この他、中国の地方の高校の感じも興味深かったですね。例えば、日本の中学と同じようにジャージ(体操着)で過ごしているんですけど、金持ちの生徒は普通の私服を着ている。これは校則でジャージを着ることが決まっているわけではないということなんでしょうかね。

 


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