2023年の紅白歌合戦を振り返る

 新年初日から能登半島で大きな地震があって、「今年はどうなってしまうのか…」という状況ですが、今できることをやるしかないので、毎年恒例の紅白歌合戦の振り返りを行いたいと思います。

 

 今年の山場はなんといってもYOASOBIの「アイドル」における、「オールアイドル総進撃」で、しかも、その場に日本のアイドルシーンに君臨してきたジャニーズのタレントがいなかったということでしょう。

 ジャニーズ勢が不在ということで「枠が埋まるのか?」という心配もありましたが、とりあえず枠は埋まった。ただし、ジャニーズ勢の不在がもたらす紅白の変質もあった。ここから「ジャニーズとは何だったのか?」という大きな問いが生まれていくることになるわけですが、その答えについては今後の研究の進展に期待したいと思います。

 

 このYOASOBIの「アイドル」とジャニーズの問題については、さまざまなところですでに論じられていると思うので、ここでは今回のテーマ「ボーダーレス」の中の「ボーダー」について指摘したいと思います。

 

 前回、一段と進んだ歌合戦形式の溶解は今回はさらに進んでおり、紅白のアイドルが入り混じった「アイドル」のあとの登場歌手は、福山雅治MISIAのみ。

 歌手としてMISIA福山雅治であることは明らかなので、当然のように紅が勝つわけです。前回から始まった「蛍の光」→「結果発表」というスケジュールもそうですが、もはや番組制作陣が勝敗を重視していないことは明らかです。

 ですから、紅組と白組のボーダーがないのは当然ですし、尹錫悦大統領の就任以来、好転した日韓関係を反映するかのようにJ-POPとK−POPの間もボーダレスでした。

 

 では、どこにボーダーは残ったのか?

 それは「歌手/タレント」というボーダーです。

 まずは、はまイクの2人。乃木坂というアイドル出身とはいえ、歌の上手さでは定評のある生田絵梨花と、ど素人感丸出しだった濱家隆一。見ている誰もが「歌手ってすごいんだな」と思えたでしょう。

 次に、藤井フミヤ有吉弘行の「白い雲のように」。紅白の舞台で歌をうたうというだけでプレッシャーだったでしょうが、有吉が子どもの頃にすでに大スターであった藤井フミヤとの共演、しかも藤井フミヤが「TRUE LOVE」をかつてと変わらない声で歌い上げたあとの歌唱。宮崎駿高畑勲を前して「私のアニメ論」の発表をするはめになったことに匹敵するような絶体絶命で、その圧倒的な緊張感と「畏れ」が画面越しに伝わってきて印象深かったです。

 

 橋本環奈と浜辺美波は司会をそつなくこなしていましたけど、ディズニーコーナーの歌はそつなくこなしていなかったので、2人とも歌手ではなく女優の道を進んで正解でした。

 ただ、司会に関しては、本来スリルを求める場ではない紅白にスリルを求めて審査員席にいた吉高由里子に期待してしまう自分がいる…。

 

 以下は各歌手の短評。

 

新しい学校のリーダーズ→歌の前半は山本リンダなんだけど、サビで力こぶつくって盛り上がらないところが違うところ。ただ、山本リンダのようなセクシーさがないだけに「不健全」ではある。

すとぷり→NHKホールにいた人は一体何を見せられていたんでしょうか?

純烈→「NHKの社員なのか?」と思わせるほどNHKに愛されている純烈ですが、その愛に応えるQRコードアピール。これは面白かった!

山内惠介→歌はともかく、半裸の芸人たちと商店街を練り歩く演出は面白かった。とりあえず脱げば面白いというのは男性芸人が女性芸人対して履いている下駄ですね。

水森かおり小林幸子もそうだったんですが、豪華衣装は行くつくところまで行ってしまうと驚きがなくなってしまう。そこで生き残りをかけてドミノに転向したわけですが、とりあえずは成功か。

10-FEET→途中でチバユウスケの名前を叫んだところで、もう満足ですよ。

NewJeans→圧倒的だとは思わなかったけど、LE SSERAFIMやMISAMOがアメリカ的な楽曲やダンスを極めているのに対して、ちょっと日本のアイドル文化にも目配せしたような独特な感じがありますね。

Official髭男dism→Nコンの課題曲だというけど、中学生のみなさんはあの音域についていけるのか…?

椎名林檎→「丸ノ内サディスティック」をやってくれたのは良かったけど、あのアレンジだとYOASOBIとかを含めた今のシーンの源流に椎名林檎いる(と思う)ということが伝わらないんじゃないか?

クイーン+アダム・ランバートアダム・ランバートが思った以上によかった。

三山ひろし→サッカーではVARの導入が話題になっていますが、今回のけん玉はVAR的な介入があっての失敗判定。それを読み上げる高瀬アナの適役感。

伊藤蘭→誰もが思ったと思いますが、本人よりもファンの姿に衝撃を受けた。

YOSHIKI→弾き語りの「ENDLESS RAIN」のあと、「Rusty Nail」でドラムセットに座って「歌どうすんの?」と思ったら、そこからHYDE清春松岡充などなど、YOASOBIが「オールアイドル総進撃」だとしたら、「オールV系総進撃」。あと、「孤高の人」みたいなイメージを売りながら、「蛍の光」では前の方でしっかり参加しているYOSHIKIはきっといい人なんだと思う。

あいみょん→「愛の花」はいい歌だし、圧倒的な安定感があるもののややマンネリ化しているMISIAに代わってトリでも良かったかも。トリも育てていかないと。

 

 最初に書いたように紅組の勝利は順当。白組は、北島三郎五木ひろしが抜け、嵐が抜け、氷川きよしが抜けたことで、急速にトリをつとめられる歌手が減ってしまってトリ候補の育成が急務。