『サイバラバード・デイズ』などの作品で知られるイアン・マクドナルドが描くSFですが、とりあえずはあまりSFっぽさは感じられないかもしれません。
古書ディーラーのエメット・リーが『時ありて(タイム・ワズ)』という詩集を偶然手にすることから始まります。著者名はE・Lというイニシャルのみ。出版社も記されていないという謎めいた本です
そこには戦争中(?)にトムからベンへと書かれた手紙が挟んであり、エメットはこの二人がどのような人物であったのかに興味を持ちます。
そして2人についての情報をネットで募ると、ソーン・ヒルドレスという女性が反応します。この2人についての情報を知っているが、2人には公式の従軍記録がないというのです。
そこからエメットとソーンの2人はトムからベンという2人の男の正体をさぐる行動に出ます。
前半は戦争を背景としたラブストーリーのようでもあり、ちょっとオンダーチェの『戦下の淡き光』とか『イギリス人の患者』とかを思い起こさせる感じもあります。
ところが、この2人らしき人物が写った写真が第1次世界大戦のときにも、第2次世界大戦のときにも見つかります。しかも、実際には24年の歳月が流れているのに、2人の姿はほとんど同じように写っているのです。
ここから本作はSFの要素をもつものとなっていきます。
ただし、本書は150ページほどの中編であり、SF的な仕掛けを突き詰めて描いているわけではありません。そこを期待するとやや肩透かしを食うかもしれません。
それでも雰囲気作りの上手さというのは、普通のSF作家にはないもので、ラブストーリーとミステリーが物語を上手く引っ張っています。
個人的にはもう少し書いてくれても良かったのではないかと思いますが、余韻を大事にするならこういったラストでもいいのかなという感じです。