閻連科『年月日』

 現代中国を代表する作家の1人である閻連科。今まで読んだことがなかったので、今回、この『年月日』が白水Uブックに入ったのを機に読んでみました。

 最後に置かれた「もう一人の閻連科 ー 日本の読者へ」で、閻連科本人が、自分は「論争を引き起こす作家、凶暴な作家」と見られているが、本作は違うといったことを述べていますが、その通りなんでしょうし、普通の小説とはちょっと違います。

 

 舞台は千年に一度の日照りに襲われた山深い農村で、村人たちが逃げ出す中で、たった一本だけ残ったとうもろこしを守るために、老人の「先じい」と盲目の老犬「メナシ」が残るというものです。

 途中でネズミやオオカミは出てきますが、出てくる人間は先じいただ一人と言っていいです。ですから、基本的に本書には会話がなく、描写と先じいのモノローグで構成されています。

 

 帯には「現代の神話」とありますが、呼んでいる印象は神話とか説話に近いです。

 日照りや飢え、そしてネズミやオオカミが先じいたちを襲うわけですが、その姿はリアルなものではなく、いわゆる「お話」の中に登場するような存在です。とりわけ、先じいとネズミの知恵比べ的な展開は昔話的です。

 

 そんな中で「神話」っぽくない部分は、先じいと老犬メナシの絆の部分でしょうか。

 先じいもメナシも、共に老いており、往年のような力のない弱々しい存在ですが、同時にしぶとい生命力を持った存在でもあります。

 そして、この二人(あえて二人と書きますが)に自然が次々と過酷な試練を与えるわけですが、それでも互いがいることで、一人でいるときとは比べ物にならないしぶとさを発揮します。

 この物語は先じいとメナシの友情の物語とも言えるでしょう。

 

 そして、この二人が最後にどのような選択をするのかということが1つのクライマックスとなります。

 150ページほどの中編ですが、読み応えはずっしりとありますね。