国書刊行会<ドーキー・アーカイヴ>シリーズの1冊。
一風変わったマイナー小説を集めているこのシリーズですが、この『アフター・クロード』はその中でもなかなか強烈な印象を与える作品。
著者の分身とも言える主人公のハリエットが「捨ててやった、クロードを。あのフランス人のドブネズミ」という出だしから、ひたすら周囲に対して悪態を付き続けるような小説です。
とにかくこの悪態が見事で、冒頭のパゾリーニの『奇跡の丘』への酷評から始まり、ハリエットは出会う人物と周囲に対して速射砲のように悪態をつき続けます。
ひたすら悪態がつづく小説というと、トーマス・ベルンハルト『消去』が思い出されますが、ベルンハルトが厭世感が突き抜けてユーモアになっていくのに対して、こちらは悪態の瞬発力が見事。
ベルンハルトは自意識に捕われた滑稽すれすれの深刻さ、あるいは深刻さをはみ出してしまった滑稽さを描いているわけですが、オーウェンスが描くのは自意識にまで至る前に瞬発的に繰り出される悪態です
相手の欺瞞に電光石火で噛みつき、男を落とすかと思えば次の瞬間にはすがりつく。実際に周囲にこんな女性がいたらうんざりしてしまうかもしれませんが、でも彼女が冴えまくっていることは認めざるを得ない感じです。
ただ、こんな女性と一緒にいたら間違いなく疲れるのも事実で、冒頭ではクロードを捨ててやったことになっていますが、実際にはハリエットが捨てられます。
そして、彼女の瞬発力は超一級品なのですが、それはあくまでの受け身の反応であって、自ら道を切り拓いていくようなパワーではありません。
ということもあって、ストーリー自体はある種の転落ですし、当然ながら主人公の改心や成長があるわけでもなく、ストーリーとしては楽しいものではありません。
でも、ハリエットの悪態の機銃掃射はとても楽しい。