村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 村上春樹の小説に関しては『1Q84』を読んで、「今後はこんな感じの変奏なのかな?」と思い、しばらく読んでいなかったのですが、読む予定だった海外小説が店頭になかったりしたので、読んでみました。

 読んだ感想としては、やはりなかなか面白い。20歳のときに突然親友から絶交された理由を探るという謎解きの要素が物語を引っ張りますし、途中で出てくる灰田、そして灰田が語るピアニストの緑川の話はいかにも村上春樹的で面白いです。

 そして、なによりも近年の村上春樹の小説の中ではわかりやすいラストがついている作品だと思います。

 

 Amazonのページに載っているストーリーは以下の通り。

主人公・多崎つくるは36歳の独身、鉄道会社で駅を設計する仕事に携わっている。 名古屋市郊外の公立高校時代、同じクラスの友人4人といつも行動を共にしていた。自分だけ東京の大学に進んだあとも、交流は続いていたが、大学2年7月に突然、理由も分からないまま友人たちから絶縁される。その後は「ほとんど死ぬことだけを考えて」過ごす時期が続く。 鉄道会社に就職し、いま交際している2つ年上の38歳の女性・木元沙羅に、当時の友人たちに会って直接話をし、事態を打開しなければと勧められ、一大決心をして、友人たちに会いにいく。 グループのうち、「アオ」と「アカ」は故郷の名古屋にいて、「クロ」はフィンランドヘルシンキに家族とともに住み、「シロ」は他界していた。つくるは最初に訪ねた「アオ」から絶縁のいきさつを教えられ、その翌日に「アカ」のオフィスを訪ねる―。

 

 まず、この小説の特徴は主人公が村上春樹の標準的主人公である35歳を1歳上回っていること、舞台も1984年ではなく現代(年は明示されていないが携帯やiPodが出てくる)です。

 また、三人称で書かれており、相変わらず主人公は水泳をしたりレコードを聴いたりするのですが、それでも一人称よりは主人公の「村上春樹っぽさ」が薄れているといえるかもしれません。

 

 そんな中で興味深かったのが「アカ」の描かれ方。主人公の親友でもあった「アカ」は研究者、会社勤めともに自分には合わないと感じ、企業の研修などを請け負う会社を立ち上げます。心理学のテクニックなどを弄して人を操ろうとするその姿は、今までの村上春樹の小説に出てきた「悪」を象徴する人物と重なるところがあるのですが、それを必ずしも悪役として描いていないのがこの小説の新鮮なところかもしれません。

 そして、この「アカ」とレクサスのディーラーになっている「アオ」は、90年代以降の長期不況を生きた人間としての顔もあります(逆に女性陣の「シロ」と「クロ」は時代の影響を受けてないように見える)。

 

 ラストに関しては、やや予定調和的なのですが、「書き足りない」という人もいるでしょうし、「書きすぎ」という人もいるような終わり方ですね。