ロス・トーマス『狂った宴』

 犯罪小説の名手として知られるロス・トーマスの初期の長編。とは言っても、個人的にはロス・トーマスの作品を読むには初めてですし、あまりこの手の小説は読まないのですが、アフリカの選挙戦を扱った作品ということで読んでみました。

 Amazonに載っている紹介文は以下の通り。

 

辣腕の選挙コンサルタントとして鳴らしたシャルテルは、大手広告代理店DDT広報部のアップショーとともに、英連邦から独立間近のアフリカの小国アルバーティア初の国家元首選挙に駆り出される。資源に恵まれながらも腐敗にまみれたこの国で、DDTに有益な人物を当選させるために、二人は汚い手段を駆使してでも選挙キャンペーンを成功させようとする。だが、やがて事態は混乱をきたし、彼らにすら手に負えない様相を呈してくる――。MWA最優秀新人賞受賞作『冷戦交換ゲーム』に続く第2作にして、アフリカ諸国の政治的カオスを活写し暴力描写に溢れたクライマックスが印象的な、ロス・トーマスの初期傑作、本邦初訳。

 

 独立直後の最初の大統領を決める選挙ですが、ここに広告代理店や選挙コンサルタント、さらにはCIAまでが乗り込んできます。

 主人公たちはイギリスの大手広告代理店から依頼を受けながら、敵対する代理店やCIAを出し抜いて選挙の勝利を掴もうとするわけです。

 ダブルスパイを使ったり、ヘリや飛行船を持ち出したりとなかなかダイナミックな作戦を使うわけですが、原著は1967年に出版されているということもあって、まだ持ち出されている手段は大雑把です。

 

 時代を感じるという点でいうと、主人公のアップショーがアフリカに行くと、すぐに平和部隊の一人としてきているアメリカ人の若い女性と知り合っていい感じになるんですけど、あまりにあっさりといい仲になるので、「こいつはスパイなのか?」と思いながら読んでいたら全然そんな事なかったです。

 この時代、助成に関するご都合主義はあって当然で、現代の感覚で疑ってはいけませんね。

 

 というわけで「選挙」を期待するとやや物足りないところもあるのですが、ストーリーとしては読ませます。

 選挙コンサルタントのシャルテルという人物の造形や、まさに立ち去ろうとしているイギリスの植民地官僚の姿などはよく描けていますし、最後のドンデン返しからラストへの流れも鮮やかです。

 エンタメ的な小説としては十分な面白さがあります。