ケイト・ウィルヘルム『鳥の歌いまは絶え』

 60〜70年代に活躍した女性SF作家の代表作が創元SF文庫で復刊されたので読んでみました。

 3部仕立てになっており、第1部は終末もの、第2部は終末+ディストピア、第3部になるとほぼディストピアものといった感じになります。

 

 ヴァージニア州の渓谷に住むサムナー一族は辺り一帯を支配している金持ちの一族ですが、徐々に地球の生態系がおかしくなっていることに気づきます。核実験による放射能汚染などにより、人間の生殖能力が失われつつあったのです。一族の若者であるデイヴィッドは、おじたちとクローンの研究に打ち込み、クローンによる生殖に成功しますが、彼らには兄弟姉妹同士(クローン同士)の間でテレパシーのような特殊な能力が使えました。

 第1部はこういった展開の中でデイヴィッドの恋や、世界の破局、古い世代の葛藤が描かれます。

 

 第2部ではずいぶんと時間が経っていて、外の文明は崩壊しています。そんな中で、選抜されたクローンたちが廃墟となったワシントンDCなどの都市の探検に向かいますが、厳しい過程の中でその探検に参加したモリーにある変化が生まれます。

 ここではクローンを増やすために一部の女性が生殖員として活用されていたりして、ディストピア的な要素がせり出してきます。

 

 第3部に関しては、ネタバレになるので詳しくは書きませんが、「孤立した文明が生き残ることができるのか?」「人間とは何か?」「文明を生み出すものは何か?」といった問題が扱われています。

 

 ここまで読んで、「けっこうよくありそうな話だな」と思った人もいると思いますが、確かにSFではよくある話だと思います。生殖員の話などは発表当時はそれなりにインパクトがあったかもしれませんが、現在では何度か耳にしたことがあるようなアイディアです。

 

 では、この小説の何か良いかというと、それは自然描写を中心としたしっかりとした描写だと思います。SFではアイディアが先行して、わかりやすいイメージを借りてくることも多いですが、本書は非常に丁寧に描写を積み重ねています。モリーの変化を追う心理描写もよく書けていますし、何よりも孤立している谷の住人(クローン)たちを取り囲む森の描写が見事です。

 SFとしてのインパクトはともかくとして良い小説ですね。