ポール・ラファージ『失踪者たちの画家』

 思い描いてほしい、死んだ男がある都市に着くところを。

 こんな書き出しで始まるポール・ラファージ『失踪者たちの画家』は、架空の不思議な街を舞台にした都市小説。主人公が姿を消した恋人を探すというのが基本的なストーリーですが、そうしたストーリーよりも不思議な監獄や人形工場、そして都市にまつわる神話などを楽しむ小説です。
 訳者が同じということと全体を貫く寓話的な雰囲気の影響もあって、読んでいてポール・オースターの『最後の物たちの国で』を少し思い出しました(書いてて気づきましたが作者のファーストネームも同じ「ポール」ですね)。
 

 タイトルの「失踪者たちの画家」とは主人公がつく職業のことです。
 主人公のフランクはある日、都市で犯行現場で死体の写真を撮るプルーデンスという女性に出会います。彼女の写真は「死者に語らせることのできる」写真で、その写真には死者のさまざまなメッセージが写っています。そのため警察が彼女を雇い、彼女の写真をもとに捜査を進めているのです。
 そんな不思議な職業が成り立つこの都市で、もともと画家を目指していた主人公が頼まれて描くようになったのが「失踪者」の肖像画です。この都市では当たり前のように人々が「失踪」し、そして多くの場合は帰ってきません。残された家族などは、「失踪者たち」を探すわけですが、その探すためのポスターに使われるのがこの「失踪者」の肖像画です。
 もちろん、「失踪者」は姿を消しているので、その人を直接モデルにして描くことは出来ません。ですから主人公は残された人々からさまざまな話を聞き肖像画を仕上げていくのです。


 この他にもこの都市に不思議な職業や、カフカ的な不条理、そして神話がたくさんあります。
 正直、物語を引っ張る力は『最後の物たちの国で』にくらべると弱いと思うのですが、不思議な都市の雰囲気を味わいたいという人には面白い小説だと思います。


失踪者たちの画家
ポール・ラファージ 柴田 元幸
4120045129