ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』読了

約束してほしい、こんな話、一言も信じないって。

 これはケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』に収められた最初の短編「妖精のハンドバック」の最後の文章なんだけど、これってhttp://d.hatena.ne.jp/morningrain/20060916で紹介したレアード・ハントインディアナインディアナ』の一節と同じだ!
 これってアメリカ文学の流行語なんでしょうか?それとも、2つとも柴田元幸が訳しているんで、柴田元幸が訳す本を選ぶ時に引っかかる言葉なのか?

 それはともかく、この『マジック・フォー・ビギナーズ』はhttp://d.hatena.ne.jp/morningrain/20060809で取り上げた『スペシャリストの帽子』に引き続くケリー・リンク2冊目の短編集。前作は解説が柴田元幸でしたが、こちらは訳も柴田元幸が行っています。

 『スペシャリストの帽子』では、「生と死の狭間の世界」を描いたような作品が多かったですが、この『マジック・フォー・ビギナーズ』でもゾンビのやってくるコンビニを描いた「ザ・ホルトラク」や生者と死者の間の結婚と離婚を描いた「大いなる離婚」なんかはそうした系譜のものです。特に「ザ・ホルトラク」はその描き方が自然でうまいです。
 冒頭にあげた「妖精のハンドバック」はゾフィアおばあちゃんのハンドバックにおばあちゃんの故郷がそっくり入っているというファンタジー
 「猫の皮」は死んだ魔女の残された子どもの話。猫たちの中には実は猫皮をかぶった人間がいます。
 そして、前作との違いとして、「家族」を描いた作品があげられます。表題作の「マジック・フォー・ビギナーズ」は、カルト的なテレビドラマ「図書館」の世界とつながる電話といった装置を生かしながら、少年と両親の関係をうまく描いた作品。無数のウサギが庭に生息するという設定の「石の動物」のある種の「家族もの」です。

 『スペシャリストの帽子』に比べると、「自然に語られる不思議さ」みたいなものは落ちる作品もあるんですけど、前作よりもさまざまな要素を取り入れていると思いますし、「ザ・ホルトラク」、「妖精のハンドバック」、「マジック・フォー・ビギナーズ」といったところはケリー・リンクならではの非常に不思議勝つ面白い作品だと思います。

マジック・フォー・ビギナーズ (プラチナ・ファンタジイ)
ケリー・リンク 柴田 元幸
4152088397


晩ご飯はナスとピーマンと牛肉の炒め物とトマト