辻村深月『子どもたちは夜と遊ぶ』

 久々の翻訳ものでない小説。辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』が素晴らしかったので他のも読んでみたかったのです。
 この小説は辻村深月の2作目の小説で、もとは講談社ノベルスからリリースされたもの。ノリは舞城王太郎とか佐藤友哉とか西尾維新とかの系統で、ゲームとしての連続殺人、言葉遊び、やや常人離れしたキャラの名前、強引なトリックなど共通するものがあります。
 ただ、辻村深月が上記の男性作家たちと違うのは、等身大の女性と女性同士の複雑な関係性が描ける点。そして登場人物に対する優しさでしょう。
 

 天才肌の学生・木村浅葱の前に現れた『i』という謎の人物。
 その『i』が虐待から自分を守ってくれた兄・「藍」であるらしいことをしった浅葱は、『i』の誘いに乗って、『θ』と名乗って殺人ゲームを始める。お互いに次のターゲットを指し示しながら進んでいく殺人ゲームの中で、次第にみずからを見失っていく浅葱。そんな浅葱とかかわる同じ研究室の狐塚孝太、自我の強い月子、狐塚孝太の同居人・石澤恭司、心理学の教授・秋山一樹といった面々。
 彼らは迫り来る悲劇を防ぐことができるのか?そして『i』の正体は?
 というのがこの本のお話。


 正直、ミステリーとしてはちょっとずるいというか、そりゃ強引すぎるだろうっていう展開があって、やや冷めます。
 月子の秘密というのがこの本の下巻で明かされているわけですが、もしこのトリックを使うなら以下のようにすべき(ネタバレになるので白文字で書きます)。
 まず、基本的に浅葱の一人称でこの小説は書かれるべきだし、「自分はまず間違いなく狐塚と一緒に住むものだとばかり思っていた。」(22p)は「自分はまず間違いなく『孝太』と一緒に住むものだとばかり思っていた。」と書くべきじゃね?


 ただ、そんなミステリーとしての欠点を差し引いても面白いのは確か。
 特に『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』にも見られた女性同士の関係性の描き方は魅力的で、月子と友人の片岡紫乃との関係なんかは、ややマンガチックな男性キャラに比べて、痛々しいまでのリアリティがある。
 お姫様キャラの月子があえて地味な格好をして会いに行く紫乃紫乃は月子以上に派手で完璧な美人なのに中身はまるっきり空虚で、月子に対して優越感を持つことでしか自分の存在意義を確認できない。そんな紫乃の内面を分かりながら付き合う月子。
 辻村深月は、このあたりの女性ならではの捻れた関係を本当にうまく描き出します。
 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』ほど関係性に特化した小説ではないですが、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』的世界は、早くもここで描かれていたんですね。
 ラストは甘すぎですが、それもまた作者の魅力の一つなのかもしれません。
 

子どもたちは夜と遊ぶ 上 (1) (講談社文庫 つ 28-3)
辻村 深月
4062760495


子どもたちは夜と遊ぶ 下 (3) (講談社文庫 つ 28-4)
辻村 深月
4062760509