この前読んだ『絞首台の黙示録』が非常に奇妙で面白かったので、神林長平の2012年に出版された短編集を読んでみました。
なんといっても注目を集めるのが、パソコンの画面に伊藤計劃を名乗る文字列が現れて神林長平本人らしき作家と対話を行う表題作の「いま集合的無意識を、」でしょう。
ただし、この文章は小説というよりは書評なんだと思います。伊藤計劃の『ハーモニー』に対する鋭い批評になっています。
それよりも自分が興味深く読んだのが冒頭に置かれた「ぼくの、マシン」。
「戦闘妖精雪風シリーズ」のスピンオフ作品で、シリーズを全く読んでいないと面白くないかな? と思ったのですが、これが一番面白い作品でした。
テーマは「ネットワーク、あるいはクラウドの拒否」といったもので、自らのパソコンを所有するために、ネットワークへの接続への拒否するというものです。
最近のソフトはネットワークに繋がっている事が前提になっていて、知らない間にUIが変化していたりしますが、これが嫌だ、それでは「ぼくの、マシン」ではないというのです。しかも、この作品は2002年に書かれており、時代を先取りした作品だとも言えます。
もう1つ面白いと思ったのが「かくも無数の悲鳴」。宇宙警察やさまざまな組織に追わえれている男が主人公なのですが、途中から展開されている量子的宇宙論(並行世界がいくつも存在する考え)において、その可能世界のが否定的に語られます。可能性化の存在は人間の固有性を奪うというのです。
『攻殻機動隊』で草薙素子は「ネットは広大だわ」といって、ネットのなかに溶けていきましたが、上記の2作品で語られているのはそれとはまったく違ったスタンスです。ネットに接続して匿名化することが自由なのではなく、むしろネットを遮断して固有名を守ることこそが自由なのだという著者の世界観がこの作品集には現れています。
ネットへの接続が意識されないほど、ネットとのつながりが当たり前になった今こそ読む価値のある作品群と言えるかもしれません。