「世界の中心で愛を叫んだけもの」などで有名なハーラン・エリスンの日本オリジナルの短篇集。収録作品は以下の通りです。
「悔い改めよ、ハーレクィン! 」とチクタクマンはいった
竜討つものにまぼろしを
おれには口がない、それでもおれは叫ぶ
プリティ・マギー・マネーアイズ
世界の縁にたつ都市をさまよう者
死の鳥
鞭打たれた犬たちのうめき
北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中
ジェフティは五つ
ソフト・モンキー
これを見ればわかる通り、エリスンはまずタイトルに凝る作家であり、そして中身に関しても過剰なまでに装飾していきます。
例えば、「「悔い改めよ、ハーレクィン! 」とチクタクマンはいった」の冒頭はこんな感じです。
いついかなるときにも、こうたずねる人びとがいる〜これは何の話なのか? そういった、きかなければおさまらない、要点をはっきりとさせないといられない、”なにを目的として書いたのか”知りたいかたのために、これを〜
* このあとヘンリー・デイヴィッド・ソロー『市民としての反抗』の一節が引用される。
骨子はこれにつきる。さて、中途から話をはじめ、発端はひとまずおくとしよう。結末はひとりでについてくれるはずだ。(9ー10p)
この過剰な語り口こそがエリスンであり、これは他の収録作品にも共通しています。
特に表題作の「死の鳥」は、黙示録的な世界の記述に、テスト問題を挟み込んだり、犬の死に関するエッセイとそれについての現代国語の試験問題的なものが挟み込まれたりと、趣向をこらした構成になっています。
この本自体はハヤカワ文庫SFの1冊として出ており、エリスン自体もSF作家として知られているかもしれませんが、「鞭打たれた犬たちのうめき」や「ソフト・モンキー」あたりはクライム小説といっていいもので(「鞭打たれた犬たちのうめき」はホラー小説と言ってもいいかもしれない)、本質はSF的なアイディアよりもその華麗な文体にあると言っていいでしょう。
個人的に一番良かったのが「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」。AIに支配される人間というテーマなのですが、その絶望感の描写に圧倒的な勢いとある種のかっこよさがあります。
話のプロットだけを取り出せば、他にありそうな作品ではあるのですが、このテンションと語り方は他の追随を許さないものでしょう。
好き嫌いの別れる作家だと思いますし、例えば、ベスターの『虎よ、虎よ!』が凝った文体とSF的なアイディアがともに優れていたのに比べると、先程述べた通りSF的なアイディアはやや弱いです。
ただ、その凝りまくった文体は伊藤典夫の訳文と相まって独自の世界を築き上げているので、一読の価値ありだと思います。