『ジェイソン・ボーン』

 『ボーン・スプレマシー』と『ボーン・アルティメイタム』のポール・グリーングラス監督とマッド・デイモンが復帰してのボーン・シリーズのリブート作。
 アクションは水準以上で面白いですが、記憶喪失という設定が解消されてしまったので、サスペンス的な部分はやや減退してしまいました。
 そして、原題においてスパイ映画をつくる難しさというものを改めて感じましたね。


 現代のスペイ映画というと、IT機器がバリバリに駆使されていて、街中の監視カメラを使ってターゲットを追ったり、衛星で敵を追尾することが当たり前に行われるわけです。
 かつての007のように派手な格好でパーティーに出入りしたり、派手なカーチェイスをすれば簡単に足がついてしまうわけで、今のIT社会と派手なアクションというものはそんなに相性の良いものではありません。


 そんな中で、この『ジェイソン・ボーン』の前半にあるデモ隊と警察が衝突するアテネでのチェイスは設定といい撮り方といい上手いです。
 デモ隊と警官が入り乱れ、火炎瓶などが飛び交う中、監視カメラはすべてを追いきれませんし、騒乱の中で人が死ぬのも。CIAが巻かれてしまうというにも説得力があります。このシーンだけでも見て損はないのではないかと思います。
 また、前半の舞台がヨーロッパであることもリアリティを高めていると思います。シェンゲン協定があって、人の移動が自由なEUなら、お尋ね者のジェイソン・ボーンも国境を超えて移動できるわけです。


 ただ、後半の展開やラスベガスでのアクションシーンには違和感がある。スパイが街なかであんなに激しく暴れてもいいものかと。
 さらにボーンを動かすものや敵の設定もやや陳腐で、ストーリーの深みのようなものはあまり感じないですね。


 この前半のアクションはいいけど、ストーリーや敵の設定がややきついというのは『007 スペクター』でも感じたことで、現代を舞台にしたスパイ物の宿命なのかもしれません。
 マーケット的に中国のスパイ組織を敵にするのは厳しいかもしれませんが、プーチンというラスボスもいることですし、そろそろロシアのスパイ組織と全面対決みたいな作品があってもいいんじゃないかと思います。


 というわけで、面白かったですけど、やはりボーン・シリーズは『ボーン・スプレマシー』が一番面白かったように思えますね。


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