東山彰良『流』 

 ご存知、第153回直木賞を受賞作。ここ最近、海外文学ばかりを読んでいたのですが、台湾生まれの著者が台湾と日本と大陸の歴史を舞台にした作品ということで興味がわき、文庫化されたのを機に読んでみました。
 カバー裏の紹介文は以下の通り。

 一九七五年、台北。内戦で敗れ、台湾に渡った不死身の祖父は殺された。誰に、どんな理由で? 無軌道に過ごす十七歳の葉秋生は、自らのルーツをたどる旅に出る。台湾から日本、そしてすべての答えが待つ大陸へ。激動の歴史に刻まれた一家の流浪と決断の軌跡をダイナミックに描く一大青春小説。


 まず、「一大青春小説」とあるように、この小説は文句なしの勢いがある青春小説です。同級生との喧嘩から幼なじみとの初恋、兵役生活、日本での二度目の恋など、青春小説としてよく出来ていると思います。
 物語の始まる1975年の台湾は蒋介石の死んだ年でもあり、まだ海峡を挟んでの大陸との対立が濃厚に感じられた時期でした(戒厳令が解除されたのが1987年)。主人公の高校生・葉秋生の周囲にもまだまだ暴力の匂いが漂っています。
 

 ちなみに台北の「商場」を描いている作品としては、呉明益『歩道橋の魔術師』がありますが、1971年生まれの呉明益が商場を「魔術」が起きるある種ノスタルジックな場所として描いているのに対して、1968年生まれの東山彰良は商場をもう少し血なまぐさい場所として描いています。
 このあたりは微妙な年代の違いと、東山彰良が5歳で台湾を離れた(おそらく商場の雰囲気は人から聞いた)という点が大きいのでしょうね。


 主人公の高校生・葉秋生の祖父・葉尊麟は国民党軍の一員として国共内戦を戦い台湾に逃げてきた人物であり、いつかまた故郷の山東省に凱旋することを夢見ているような人物です。そんな祖父が蒋介石の死後しばらくして殺されたことからこの物語はスタートします。
 ミステリーでもあるので詳細は避けますが、祖父の死の謎には日中戦争国共内戦が大きく関わっており、主人公とともに祖父の死の謎を追うことで、台湾と大陸と日本という歴史における三角関係が浮かび上がる構図になっています。
 台湾を日本と大陸の三角関係の中で捉えるというのは、ケン・リュウ「文字占い師」(『紙の動物園』所収)につうじるものがありますね。

 エンターテイメント作品ながらアジア的な視野とスケールをもつ小説であり、物語を楽しむだけではなく、台湾という存在と東アジアの歴史についていろいろと考えさせる内容にもなっています。


流 (講談社文庫)
東山 彰良
4062937212