『ベイビー・ドライバー』

 サングラスを掛けた4人組が銀行の近くに車を乗り付け、一番若い男を残して3人は銀行へ。音楽を聴きながら落ち着きなく車を動かしている若い男(ベイビー)は、3人が強盗から戻ってくるとものすごい勢いで車を発進させ、音楽に乗りながら超絶テクでパトカーを次々と巻いていく。
 

 これがこの映画の冒頭です。
 この冒頭のシーンだけでも十分な映画的快楽を味わうことができるもので、とりあえず映画としてのつかみはバッチリだと思います。
 主人公のベイビーは、ケヴィン・スペイシー演じる「ドク」と呼ばれる男に雇われているドライバーで、「ドク」は強盗を計画してメンバーを集め、そしてその逃走用のドライバーとしてベイビーをあてています。
 強盗とはいえ、最初の強盗は基本的に無害な感じのもので、音楽に乗りながら街を歩くベイビーの姿と相まって、「ポップなカーチェイスものなのかな?」と感じさせます。


 音楽に沿った画面づくりや、長回し、そして現代を舞台にしながらどこかしらレトロな雰囲気を漂わせる画面づくりは、例えば『ラ・ラ・ランド』あたりを思い出すもので、今のトレンドはこういう感じなのかと思いながら前半は見ていました・


 ところが、2回目の強盗のあとから集まったメンツの血なまぐさい感じがだんだんと出てきて、タランティーノの映画のような雰囲気が出てきます。
 主人公のベイビーは、無口な天才肌のキャラなのですが、ウェイトレスのデボラとの出会いと、この血なまぐさいメンツとの仕事によって、そのキャラも貫けなくなっていくわけです。
 ただ、そうはいってもセンスのいいBGMによって、映画が停滞したり、画面から目を背けたくなったりすることはないです。このあたりは初期のタランティーノに通じる巧さですね。


 この映画の監督のエドガー・ライトの作品は初めて見ましたが、非常にセンスのある監督だと思います。ラストでの主人公への丁寧な寄り添いは「そこまで描くのが今の時代か」とも思いましたが、最後までノリを落とすことなく、鮮やかに走り抜けるような映画です。