本当に今更という感じで読んだのですが、この小説は文体がすおくいいですね。
マニュアルによって規定されているコンビニに過剰適応した36歳の独身女性の古倉恵子が主人公で、設定自体は思いつきそうですが、それをこういった作品にまで仕上げる腕はさすがだと思います。
古倉恵子は子ども時代からみんなの中でどう振る舞っていいかわからず浮いていた人物なのですが、コンビニでマニュアル通りに動くことで居場所を見つけます。
さらに同僚の行動や口調や服装などを真似することで、「普通」の人間を演じようとするわけです。
この主人公の努力は、悲劇的にも描けるとは思いますが、本作では主人公にとって必然的なものとして、変に外部からの批評的な視点を入れないで描きます。
途中で、白羽くんという男性が現れて主人公にあれこれと文句をつけるわけですが、彼のあり方やロジックというものがあまりにも稚拙なために、主人公を批評する力を持ちません。
主人公の行動は戯画的でもありますが、それが貫き通されるために、むしろ現実の社会が戯画なのだということが示されます。
そして、戯画的であるがゆえに読んでいて面白さもあるわけです。
主人公、そしてそれを書く作者のブレなさが効いていると思います。